第3話 サポート係
二時限目が終わるとお昼休みです。お昼休みは二時間あります。
「さすがにのんびりとしたもんね」
わたくしは手で口を押さえました。時々こうして『はるかの知識』から声を出してしまうことがあるのです。誰かに聞かれてしまっても、基本的には笑って済ませます。隠せるようになっていたはずですが、留学の緊張でそちらの方の気を抜いていたのかもしれませんわ。
さっそく、マーシャ様とクラリッサ様がお誘いくださって、共に学食へ向いました。
学食は豪華でしたわ。前菜や主菜などはすべて二種類ずつあり好きな方を選べます。大盛りもあるそうですの。
デザートをどちらにするかとても悩みましたが、明日もこのメニューだそうですので、一方は明日の楽しみにしておきますわ。
わたくし、ケーキやデザートに目がないんですの。うふふ
毎週メニューが変わるそうですので飽きることはなさそうですわね。
自分の分のトレーを持ち、マーシャ様に案内されたテーブルに四人で座りました。パティリアーナ様も先程のような無茶は言わず普通のお話をしてくださり、ホッといたしました。クラリッサ様はとてもよくお話になるマーシャ様とパティリアーナ様をニコニコとご覧になっており、わたくしはそんなクラリッサ様をニコニコと見てしまいました。
〰️
食事も終わりトレーを片付けると飲み物を選び、再び席につきました。
「それで? いつになりましたら、コンラッド殿下にご挨拶ができますの?」
パティリアーナ様が何の前触れもなく切り出しました。お顔は至って真面目。紹介されることが当たり前だと思っていらっしゃいます。
わたくしはすでに『はるかの知識』を得ておりますので、もうおおきな『トクントクン』になることはありません。
「パティリアーナ様。もう少しご遠慮なさいませ。わたくしどもはたかだか侯爵家の者ですのよ。隣国からの留学生とはいえ、殿下であられる方と早々にお話ができるわけがありませんでしょう?」
わたくしはマーシャ様とクラリッサ様がご意見を述べられる前に釘を刺しました。
「なっ!!!」
パティリアーナ様は、最初に驚かれそして苛立ったお顔をわたくしに向けられます。淑女らしからぬお姿ですわね。
しかしながら、驚かれるお気持ちはよぉくわかりますわ。なぜなら、自国ではパティリアーナ様にこのように意見したことなど一度もございませんもの。
今は同じ侯爵家でございますものね。今までの分もしっかりと意見を言わせてもらいますわ。
それに、わたくしが口を出していかないと、わたくしまで修道院送りですわ。怖い怖い。
パティリアーナ様はまだワナワナしてらっしゃいますが、わたくしはさらに忠告をいたします。
「まだ学園一日目の『自称留学生』ですのよ。わたくしどもとの接触が、王族の方に何があるともわからないと考えることが普通です。
まずはマーシャ様とクラリッサ様にわたくしどもが信用されないとなりませんわ」
わたくしの言葉にマーシャ様はニッコリとされます。
「それに今後、殿下にご挨拶できることになったとしても、殿下の警備体制を整えた上でのことでしょう。つまり、殿下側にもきっちりとした準備が必要ですわ。それを待たなければなりませんわ」
「わ、わたくしはっ!!」
おっと、パティリアーナ様はダメなことを言ってしまいそうですね。
「たかだか侯爵家ですわよ」
パティリアーナ様のように荒げはしませんが、立場をご理解いただくようにいたしました。
「コレッティーヌ様。そこまでは厳重にするつもりはございませんが、いくらご学友とはいえ、今日の今日、殿下にご挨拶は難しいと思っていただけると助かりますわ」
マーシャ様は公爵家の者としてしっかりとお言葉を述べられる方のようです。リーダーシップがあり立派です。
それに比べて……。おっと、これはまた言ってはならないことでしたわ。
「いえ。高位貴族のマーシャ様とクラリッサ様にこうして直々にサポートしていただけるだけでも光栄ですわ。いくら学園に『身分を超えた交流』とあっても、社会へ出るための勉強の場ですもの。弁えることも、サポートして頂いている意味も、きっちりと考えるべきですわ」
わたくしは今までパティリアーナ様に言えなかった苦言をここぞとばかりに繰り返します。あら? クラリッサ様がアワアワとしてらっしゃいますわ。ご心配してくださっているのね。本当にお優しい方だわ。もう大好き!
「そうですわね。それを理解せず、残念ながらが学園を去らざるをえなかったご令嬢もいらっしゃいましたわ」
マーシャ様は悲しげに目を伏せました。いったい何があったのでしょう? 恐らく『はるかの知識』のあのお話でしょう。
これについては踏み込めませんわね。
「それより、マーシャ様。クラリッサ様。学園の中を案内していただけませんか?」
これくらいのお願いなら『サポート係』の範疇であろうと考えましたの。マーシャ様もご納得いただいたようで、優しいお顔になりお顔をあげられました。
「そうですわね。参りましょう」
わたくしたちは校内を案内していただきました。
午後は園遊会の準備だそうで、クラスで係を決め、係でない者は解散となるそうです。
わたくしたちは、マーシャ様とクラリッサ様にその様子を見学に連れて行っていただきました。園遊会での様子はクラリッサ様が丁寧に説明してくださいまして、来年の春が楽しみになりました。こうして、園内をまわってから、解散いたしました。
わたくしとパティリアーナ様は、寮に用意されていた自室へと戻ることにいたしました。
〰️
わたくしの部屋には、自国からメイドのカリアーナがおり何かと世話を焼いてくれますの。パティリアーナ様は三人も連れてらっしゃいましたけど。
本来、こちらの学生寮を使っているのは、子爵家男爵家の方ばかりで、メイドを連れては来ていらっしゃらないそうです。わたくしどもは侯爵家ですし、お部屋のランクも違うと伺っております。
カリアーナが淹れてくれたお紅茶をゆっくりと味わっておりますとノックの音がいたしました。
『コンコンコン』
「お待ちくださいませ」
カリアーナが扉の向こうへ答えて、わたくしに指示を仰ぎます。わたくしは了解と頷きました。カリアーナがドアを開けます。そこにはある意味予想通り、パティリアーナ様のメイドがいらっしゃいました。
「パティリアーナ王女殿下がお呼びでございます」
わたくしはさすがに少しだけ顔をしかめました。ゆっくりと立ち上がりそのメイドの側へと参ります。
「ここは他国ですのよ。どなたが聞いていらっしゃるかわかりません。そのように易易と身分を晒してしまうのは守る側としていかがかと思いますわよ」
わたくしは扇で口元を隠し近くにいる者だけに聞こえる声で話します。わたくしに苦言を呈されたメイドは真っ赤になって頭を垂れました。高官様は何を指導してメイドを選ばれたのでしょうか? 大方、パティリアーナ様が身分をひけらかしてわたくしを呼ぶようにおっしゃったのだと予想はつきますけど、ね。
「とにかく参りますわ」
わたくしはドアの内側に立つカリアーナに声をかけました。
「カリアーナ。せっかくのお紅茶をいただけなくてごめんなさいね。お夕食までゆっくりしていてね。いってくるわ」
「いってらっしゃいませ。お嬢様」
カリアーナがドアを大きく開けてくれました。わたくしの言葉にメイドは目を見開いていらっしゃいます。
「あら? 何か問題でも?」
「あ、いえ……。失礼ながら、メイドにゆっくりしていろというのは……その……」
チラチラとわたくしの顔色を伺いながらもどうしても聞きたかったようです。
「カリアーナは、わたくしが学園に行っている間に大方のことは済ませているはずです。それほど優れたメイドですの。でしたら、わたくしがいない時には休んでもかまわないでしょう?」
「で、ですが、それを堂々と……???」
「これから一年間交代もなくお世話してくれるのよ。休める時には休んでほしいわ。その点、あなた達は三人ですもの、交代で休めますものね」
「っ!!! は、はぃ……」
いや、パティリアーナ様のメイドでは三人いても休めないだろう。なにせあの方は……。
視線の半分はカリアーナが羨ましいという意味だろうと思いますわ。ご愁傷さまですわ。
「とにかく、早く参りましょう。あなたのお立場もどんどん悪くなってしまうわ」
わたくしの言葉に思い当たることがあるようで、メイドはさっと真っ青になりました。青い顔のままわたくしを誘導し、パティリアーナ様のお部屋の中へと案内してくれました。
わたくしはメイドたちのサポート役に任命された気持ちでしたわ。
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