プリティ☆マカロン

名無しの権兵衛

第1話

砂糖中学・教室 8:20


「ねぇねぇ、もも。魔法少女って知ってる?」

私、川流もも《かわながれもも》の友人、茶乃木紅音ちゃのきあかねは身を乗り出して聞いてきた。「もも」というのは私の名前だ。

席が私の前なので、会話をする時は、本来座るべき方向の逆を向いた状態になる。

「魔法少女ってアニメで見る、あれのこと?」フリフリの衣装で、ステッキを持った少女が戦うアニメ。小学生の頃はハマっていたけど、流石に中学生にもなる今は見ていない。

「その通りッ!」

「うわぁ!」

急に大声を出すので驚いてしまった。

「びっくした...」

「いやいやすまない、つい興奮して...」

申し訳なさそうに笑う紅音。

「で、紅音ちゃん。その魔法少女がどうかしたの?」

「実はですねぇ、実在するんですよぉ、魔法少女。」

「へ?」

私はつい間抜けな声を挙げてしまう。

急に素っ頓狂なことを言われれば、誰だって同じ反応になるだろう。

(だって有り得ない。実在するなんて嘘に決まってる)

「あの子たちはアニメのキャラクターだよ?いるわけないよ」

「それがホントなんだなぁ〜。ネットでも目撃した人が多くてね。最近はその手の掲示板がいっぱいあるんだよ。」

紅音の言う通り、魔法少女についての掲示板がいくつも載っていた。

こんなに大勢の人が書き込んでいるのなら、信ぴょう性が高い。

「え!?本当にいるの!?」

「本当だとも!ほら動画だってある!」

そう言ってスマホの画面を見せてきた。

景色が暗く、街灯が周囲を照らしている。撮影されたのは夜だろう。

「ただのコスプレしてる女の子じゃないの?」

映像に映ったのはアニメに出てくるような衣装を着た、私と同い年ぐらいの女の子だった。

「驚くのはまだ早いですぜ?ももさんよ」

「まだ何かあるの?」

私は端末を覗き込んだ。

しばらく画面を眺めていると少女が現れた。

「え...?どういうこと...?」

彼女は空を飛び、光線のようなものを発射している。

驚いた私の顔を見て、紅音は勝ち誇ったような顔をしていた。

「どうだ参ったか!モノホンだよぉ?」

「その顔は何かやだな…」

「まぁでも本物っぽいね!」

映像まで見せられてしまっては信じるしかない。

「よし!アタシの勝ちだな!」

「何も勝負してないよ…」

「アタシはCGだと思ってるけど、まさか本当に信じちゃうとはねぇ。ももさんはピュアですな~。面白いから勘違いしたままでいてもらおーっと…」

紅音が何か呟いたような気がしたが、全く聞き取れなかった。

「何か言った?紅音ちゃん」

「いいや何にも?」

私の気のせいだろうか。何故かニヤニヤしているのが気がかりだったが。


砂糖中学 15:40


今日の授業が全て終了し、残すは帰りの挨拶だけだった。

挨拶担当の学級委員長が号令をする。

「起立、気をつけ、礼」

クラス全員が立ち上がり

「ありがとうございました」


私と紅音ちゃんは2人で下校していた。

友達になって以来、このルーティンは変わらない。

「いやー!良い授業でしたなぁ~!」

「紅音ちゃん、ほとんど寝てなかった…?」

「いやぁ…ももの気のせいではないかにゃあ?」

明らかに目を泳がせていた。

(分かりやす過ぎるよ紅音ちゃん…)

言い訳をしようとしていた様子だったが、諦めたようだ。

「あの…あれだ…寝る子は育つんだよ!そう!健康に良いことをしてたんだよ!」

この期に及んで正当性を主張し始める友人に、私はため息をつく。

「ももさん、それ結構傷つくヤツなんで…せめてツッコミ入れて?」

「なんでやねーん」

私は雑にオーダーに応えた。

「めっちゃ棒読みじゃないですか…ももって意外と辛辣なとこあるよね…」

「紅音ちゃんが変な言い訳し始めるからだよ。非を認めなさいっ」

「うっす…」

「何でだよー…純粋で可愛いももはどこ行ったんだよー…朝の映像だってCGかもしれないのにあっさり信じちゃって、チョロいんだから……あ」

「その話、詳しく聞かせてもらえるかなぁ~?」

「怖いよ。笑顔が怖いよ。ちょっと落ち着こうか。いや違うんだ、ももが可愛くてついイタズラといいますか何といいますか…すいません許して…」

しばらく弁解を試みた彼女だが、素直に謝った。

「よろしい」

「ももさんは容赦ねぇぜ…」

「人で遊ぶからでしょ」

「うう…」

しょんぼりとする紅音ちゃん。

やりすぎかと思ったが、放っておくとすぐ調子に乗るのでこのぐらいがいい気がする。

しかし、多少の同情はあるわけで。

「あとでジュースおごるから機嫌直しなよ」

直後、紅音ちゃんの顔は、ぱっと明るくなった。

「さっきの様子はどこへやら…」

「ほらほらジュースジュース!」

「はいはい」

(スキップしてるし…)

近くにコンビニがあったので、寄っていくことにした。

ずらりと並ぶジュースを眺めながら横の紅音ちゃんに聞く。

「何のジュースがいい?」

「んーとね、これ!」

取り出したのは栄養ドリンク。この年頃で飲むのはいかがなものか。

年齢制限があるわけではないが、女の子が選ぶ飲み物ではないだろう。

「止めはしないけど…他のじゃダメなの…?」

「なんで?」

「特に理由はないけども…」

「じゃあこれで決まりだ!」

「あぁ…うん…まぁいいや…」

嬉しそうだし、止めるのは気が引けた。

レジで会計を済ませ、店の外に出る。

購入した栄養ドリンクを紅音ちゃんに渡す。

「んー!これこれ!」

腰に手を当てて豪快に飲む友人。その姿は中年の風呂上りそのものだ。

「これは…いいのかな…」

複雑な気分だ。別に悪いことをしているわけでない。

だが、これはダメな気がする。せめて炭酸ジュースにすべきだと思う。

恋愛とは真反対の世界にいる紅音だが、チャンスはあるかもしれない。

魅力は磨いておいて損はないだろう。

「そんな嬉しそうに飲まれたら、止める気なくなるでしょ…」

私は静かにそう零した。

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