第136話 違和感

「そうなのよ~、わかる?」


 リリーサが上機嫌で大口を開けて笑っている。


 見事だ、ファルカン。


 ものの十分でリリーサをここまで上機嫌に持って行くとは。


 マールもいつの間にか、リリーサの明るい声を聞きつけ、輪の中に加わっている。


 マールも頑張れ。決してこれ以上リリーサの機嫌を損ねないように。


 俺は三人の笑い声を聞きながら、ホッと安堵のため息を吐くのであった。


 だがそこで、ふとファルカンが俺の方を振り返った。


 うん?なんだろ。


 ファルカンは俺と視線を合わせると、笑顔で軽く会釈した。


 いやファルカンよ、良くやった。


 今はともかく、後で一杯褒めてやる。


 それに感謝の言葉もあらん限りに言ってやる。


 だから今は、君の仕事を確実に成し遂げてくれ。


 油断は禁物だ。


 リリーサの気持ちは山の天候と同じで、移り変わりが激しいんだ。


 いつ何時、突然豪雨を降らすとも限らない。


 俺は何度もうんうんとうなずき、ファルカンの活躍を見守るのであった。




「それではアリオン。また会いましょう」


 ファルカンが快活に笑みを見せて言った。


「ああ。今日は本当にありがとう。心底助かったよ」


「いえいえ、礼には及びませんよ。それでは」


 ファルカンは笑みを残して、去って行った。


 うん。良い奴だ。


 今まで苦手とか言ってごめんな。


 今後とも仲良くやろうぜ。


 特にリリーサの機嫌が悪いときに。


 するとリリーサが、俺を見て声を掛けてきた。


「な~に?変な表情をして」


「え?そう?俺、変な表情してた?」


「してたわ。何とも言えないような顔を」


「そうか~?」


「まあいいけど。それじゃあわたしは休むわね」


 リリーサの機嫌は良いままだ。


 本当に良かった。


「お休み。ゆっくりと休んで」


 俺は満面の笑みでリリーサを送り出した。


「さて、俺も寝るか」


 俺はその足で自分にあてがわれている部屋へと向かった。


 だがその途中、部屋の鏡に映った自分の顔に違和感を持った。


「そういえばさっきリリーサが、俺の表情が変だって言ってたな」


 俺はマジマジと鏡の中をのぞき込んだ。


「確かに。変な顔している。なんだろう……なんか腑に落ちていない顔だ」


 俺は自らの顔をしばしじっくりと眺めるも、その表情の意味を理解するのは、この後だいぶ先のことになるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る