【完結済】無能呼ばわりされてパーティーを追放された俺だが、《神の力》解放により、《無敵の大魔導師》になっちゃいました。

第8話 最強クラス

「ところで、どっちに向かえばいいのかな？」

　俺は王女を助けに行く覚悟を決めたものの、この広いダンジョンの何処ら辺にいるのか皆目見当がつかず、周囲を見回しながら、二人に尋ねた。

　するとネルヴァが明快に方向を指で指し示した。

「こちらですね」

　俺は何故これほど明確に判断できるのか不思議に思い、ネルヴァに問い掛けた。

「よくわかるね？何かタネでもあるの？」

　するとネルヴァが軽く口を開けて愉快そうに笑った。

「はははは。そうですね。タネはあります」

「えっ、あるの？」

「はい。実はこのダンジョンに入る前から、探知魔法のトレースを使っていたものですから」

　探知魔法・トレース。

　確か人や動物などの痕跡を探知し、その後を辿る事が出来るという、かなり高度な魔法のはず。

　だけど……。

「ちょっと聞きたいんだけど、何でトレースって相手の痕跡を辿ることが出来るんだ？」

「それは簡単です。これです」

　ネルヴァはそう言ってハンカチを取り出した。

　そして綺麗に折り畳まれているハンカチをゆっくりと開いたのだった。

「これは髪の毛？もしかして王女様の？」

「そうです。この髪の毛に付いた匂いを辿るんです。どうですか？あなたもやってみたら」

　確かにトレースは既に習得済みだ。

　よし、ここは一つ。

「わかった。やってみるよ」

　俺はハンカチの上の髪の毛を、そっと二本の指でつまみ上げた。

　そして自分の鼻に近づけて、その匂いを嗅いだ。

「トレース」

　すると目の前に、薄く細い黄色い糸のようなものが見えてきた。

　そしてその黄色い糸の伸びた方向は、先程ネルヴァが指で指し示した方角で間違いなかった。

　俺は髪の毛をハンカチの上に置くと、満足げに言った。

「出来たよ。黄色い糸がうす～く伸びているのが見える」

「そうでしょう。あなたならば容易いことですからね」

　ネルヴァはハンカチを仕舞いながら、笑顔で言った。

　するとレイナが少しだけ不満げな顔をした。

「なんだ。お前たちだけずいぶんと仲良さそうだな」

　俺は慌てて否定した。

「そんなことないさ。別にそんなんじゃないよ」

「ふうん、まあ別にいいけどな」

　レイナはそう言いつつ、俺から顔を背けた。

　その様子は明らかに不機嫌そのものであった。

　俺はネルヴァと顔を見合わせ、互いに肩をすくめたのであった。

　俺たちは黄色い糸を辿って、ダンジョン最下層を探索している。

　最下層に到達してよりもうすでに、十分ほどが経っていたであろうか。

　だが依然として、敵の棲み家にはたどり着いていなかった。

「結構広いんだね？この最下層だけ特別なのかな？」

　俺の素朴な疑問に、ネルヴァが丁寧に答えてくれた。

「ええ。どうやらそのようです。このようなタイプのダンジョンは時折ありますからね。こちらのダンジョンもその一つなのでしょう。ですが、恐らくそろそろ到着する頃だと思いますよ」

「なんで判るの？」

　俺の素朴な疑問第二弾に、ネルヴァがニヤリと微笑みながら答えた。

「それはわたしの勘です。これまでの経験上からいって、そろそろだと思いますよ」

　ネルヴァは自信たっぷりに言い切った。

　するとレイナが唐突に言った。

「どうやら到着したようだ」

「え？」

　俺は驚き、糸の先を辿って見た。

　するとそこには、これまでになかった怪しい扉が壁に備え付けてあったのだった。

「どうやらここですね」

　ネルヴァが断定した。

　どうやら敵のアジトに到着したらしい。

　上級ダンジョンの最下層に巣食う魔物。

　恐らく相当に強いはずだ。

　それというのもリリーサ王女がこの魔物に捕まっているからだ。

　俺とほとんど年齢が変わらないとはいえ、レイナとネルヴァに指導を受けた王女が囚われるほどの相手。

　無論、レイナたちが付いている以上危険なんてないと思うが……。

　いやいや、俺自身相当に強くなっているはずなんだから、問題ないに決まっている。

　そうだ。俺はもう、滅茶苦茶に強いはずだ。

　決意を新たに、俺は一歩前に踏み出した。

　さらに一歩、また一歩と前に進んだ。

　そしてついに魔物が巣食う扉の前へとたどり着いた。

「よし、行くぞ…………うん？」

　俺はそこで思わず後ろを振り返った。

　見ると、ネルヴァたちが離れたところで俺を見ている。

「あの、何してんのそんなところで？」

　するとネルヴァが何とも言えない笑みを浮かべながら、俺に向かって言ったのだった。

「我々は見学です。なので、いってらっしゃ～い」

「え～～～～～!?見学!?何で？何で？」

「大丈夫ですよ。あなたはもはや最強クラスですから」

「いやいやいやいや、そんなこと言われても……」

　え？最強クラス？ホントに？

「本当ですよ。ただし、唯一不安なのが実戦経験のなさです」

　確かに。俺に実戦経験はない。ほとんどない。

　ゲイスたちのパーティーにいた時、確かに戦闘には加わってはいたけど、俺の役割は『アイテムコピー』とその他雑用のみ。

　実際に戦ったことなど一度も無い。

「この最下層に至るまでの間に、それなりの数の戦闘をこなしたとはいえ、まだまだ少ないといわざるを得ません。ですのでここはあなた一人で行ってもらおうというわけです」

　え～～～～？

　マジで？一人で？だってネルヴァたちのいわば弟子である王女様が捕まったんだよ？

　俺一人じゃ無理なんじゃないの～？

　あ、でも最強クラスってさっき言ったよな？それってホントなのかな？

「あのさ、俺ならホントにこの先の魔物に勝てるのかな？」

　俺は恐る恐る尋ねた。

　するとネルヴァが快活に微笑んだ。

「ええ。もちろんです。わたしが先程あなたのことを最強クラスと評したことに、嘘偽りはまったくありません。これは厳然たる事実といえます」

　するとネルヴァの傍らのレイナも、にっこり微笑みながら俺に優しく語りかけた。

「ネルヴァの言ったことは本当だ。剣技魔法はまだ使えないが、その他の魔法については全て使えるのだぞ。しかもその威力は師であるネルヴァを凌駕している。ならばお前がすでに最強クラスだというのは当たり前の話ではないか」

　二人の話しを聞き終え、俺の心に炎が灯った。

　俺なら出来る。どんな敵が相手だろうと、俺なら勝てる。

　何故なら俺はもうすでに最強クラスなんだ。

　決意を新たにした俺は二人に向かって力強くうなずいた。

　そして俺はおもむろに振り向き、力強く扉を開けるのであった。