サカキバラシティー

鷹山トシキ

第1話

 蟻川薫ありかわかおる榊原さかきばら総合病院のドクターだ。榊原市は愛知県南東にある巨大な街だ。兄の榊原龍臣さかきばらたつおみが市長、弟の愛臣なるおみが院長だ。

 薫がドクターになったのは金がたくさんもらえるからだ。父親が重篤じゅうとくな病気にかかり、名医のお陰で助かりそれをきっかけにドクターを目指したって正義のドクターもいるが、薫はそんな殊勝しゅしょうな人間ではない。

 

 精神科医である夫の転勤に合わせて、息子とともに引っ越してきた春子。 夫に不満を抱き、満たされない日々を過ごしていた彼女は夫の勤務先である精神病院に入院していた小説家、真鍋康夫と出会い、たがいに惹かれあう。真鍋が病院を脱走した後も二人の関係は続いた。 だが、真鍋は娘を殺した過去があった。

 

 薫は精神科医、乱若葉らんわかばから妖怪の話を聞いた。入道坊主って妖怪で、見上げるほどに大きくなってゆく妖怪であり、同様の特徴を持つ見越入道に類するものとされる。 愛知県のものは小坊主の姿で現れるが、それに遭った人が近づいて行くと、次第に背が伸びて7,8尺から1丈(約2メートルから3メートル)もの大男になる。入道の足下に鉄砲を撃つか、「見越し入道よ俺が見越したぞ」と声をかけると助かるが、入道の方から「見ていたぞ」と声をかけられると死んでしまうという。 しかし、柳田國男の『妖怪談義』では人間の方から「見ていたぞ」と声をかければよいと誤記されている。


 福島県では正体はイタチといわれており、入道坊主を見上げている人の喉笛に噛みついて命を奪うともいう。イタチは化かしている相手の肩にとまっているので、慌てずにその脚をつかんで地面に叩きつければ、入道坊主を退治できるともいう。長野県ではタヌキやムジナが正体とされ、宮城県でもムジナといわれる。


 物寂しい榊原駅に薫はやって来た。駅のホームで何者かを待ち受ける屈強な3人の賊。そこに口笛を吹きながら飄々と現れたガンマンは早撃ちで賊達を倒した。


 榊原市の西にあるラベンダータウンと名付けられた新興住宅地に建つ一軒屋、そこでは銀行の頭取、蒲生在助が亡き妻の後、名古屋で英語教師をしてるダイアナを娶り、本妻として家族総出で迎え入れる準備をしていた。しかし突如として現れた冷酷非情で凄腕ガンマンの馬頭とその手下達によって蒲生一家は皆殺しにされてしまう。更に馬頭は偽の証拠を現場に残すことで事件をチャイニーズマフィアの白龍ぱいろん一味の仕業に見せかける。新妻となるはずだったダイアナは夫を殺した一味への復讐と、女一人で榊原で生きていく決意をする。


 馬頭が一家を殺害したのは、その一家の土地を奪い取ろうとする鉄道王、一条金造の差し金だった。事件の真相を探ろうとする賞金首の白龍と、馬頭を付け狙う宍戸忠太は美しい未亡人ダイアナと彼女の財産を守るために協力しあう。


 土地を巡る莫大な利権に裏切りと思惑が交差し、ある者は野垂れ死に、ある者は目的半ばで力尽きた。ダイアナの前に現れた男たちは斗い、死に、仇を討ち、線路が開通し新しく発展するであろうダイアナの街を見ること無く消え去って行った。

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サカキバラシティー 鷹山トシキ @1982

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