異世界のスズメに転生したんですが、どうしたらいいですかね?

@syatines

異世界のスズメに転生したんですが、どうしたらいいですかね?

私が物心ついたのは、ふわふわした巣の中だった。

何を言っているかわからないと思うが、私も何が起きたのかわからない。

とにかく、薄暗いながらも温かい藁のような毛糸のようなふかふかした狭い巣に、私を含め、6匹ほどのスズメの雛がピーチクパーチクしていたわけだ。

なんでスズメだって分かったかと言えば、みんなほぼスズメでふわふわだったからだ。

私もふわもこだ。


「ぇ、スズメかよ」

思い出した前世の記憶は、日本という国で、女子高生を謳歌していた自分。

学校帰りに交通事故に巻き込まれたらしい事。

輪廻転生なんて言葉があるが、「前世は人間だったんすよ」なんて状態になったのだ。

あまりの事実に愕然として親鳥が来たのに鳴くことも忘れた私を見た兄弟姉妹が心配してくれた。

「どーしたピコ。突然黙ってお前の大好きな芋虫だったじゃんか」

私の名前はピコというらしい。てか会話できるんだなスズメ。

「いや、いま前世を思い出した」

「まじか!すげぇ前世って思い出せるんだ」

一応同い年の雛たちから質問攻めにあったが、外の世界ってスゲーなって感想で終わった。

そらー人間じゃないもんね。

両親にもその話をしたところ、「じゃあ人間の恐ろしさはわかるね。適度にかかわりなさい」とお小言をもらた。

あと、初めて自意識ができてから食べた芋虫が意外とおいしかった。

見た目に思わず目を閉じたのは許してほしい。


兄弟たちと過ごしたのは1週間ほど。

私が目覚めた時点ですでに「ほぼスズメ」をしていた。

巣立ちまで幾ばくも無いタイミングで記憶を取り戻したようだった。

季節は春。

あたたかな日差しが気持ちよく、決死の覚悟でジャンプした先は家の生垣だった。

まだ飛べなかった…でもあの高さからほぼ落っこちたのに無事だったよ。意外と丈夫なんだなスズメ。

両親は民家の軒下の影に巣を作っていたようだ。

周りにも多くの民家がひしめいていて、都会のようだったが違和感があった。

「ここ日本じゃねぇ」

そう、日本ですらなかったのだ。

どちらかと言えば西洋風の建物たち。

町行く人々の服装がなんか独特、絶対現代じゃない。

私たちが巣立った後3日ほどは、両親がえさをくれたが、そのあとは「じゃ後は頑張れよ」と二人とも思い思いの方向に飛んで行ってしまった。

私たち兄弟は皆空を安定して飛べるようになり、街中での生活は問題なく暮らせそうであった。

本来ならしばらく兄弟やほかのスズメと群れて生活するのだろうが、折角自由の身になったのだ、この世界を見てみたい。

私は大空に飛び立った。


巣立ったてからの3日で両親から教わった餌場は主にこの街の外だった。

街の構造は背後に切り立った崖を抱くお城とその城下町。

見覚えがある。

あの城のデザイン絶対知ってる。

前世で好きで遊んでいたゲームシリーズにあった城だ。

大作RPGだったからCGっが豪華で描かれた世界にあった城なのだ。

それに、両親から教わった注意事項として、猫、カラス、スライムそしてオニバチに注意しろと言われている。

後半の2つはそのゲームの王都周辺に出る弱いモンスターたちだ。

スズメ襲うんだ怖。弱肉強食だな…

町に住んでいるから、本来の正しい食物連鎖からは外れているかもしれないが、それでも注意するに越したことはない。

それにしてもRPGの世界でスズメかよ…モブ以下の背景じゃねーか。

ゲーム時間の早朝に街の石畳の道を爆走するとスズメが飛んで逃げる演出があったが、あのスズメか私は!


さて、スズメ生活を始めて1ヶ月。

最近はスズメだけじゃなくて、ハトさんやセグロセキレイさんともお知り合いになった。

王都のいろんな情報をやり取りしている。

結局私は王都で残飯あさりをして日々を生活し、砂浴びより水浴び、腹がすけば人にたかりに行くという生活をしている。

ぶっちゃけ気楽。お腹が減りやすいのが問題点。

そして、鳥には身分も入場規制も立入禁止区域も関係ない。

折角転生したこのRPGの世界を楽しもうと、あっちこっちに飛び回った。

主人公たちがよく使っていた武器屋や、魔道具点、アイテム屋も見つけたし、お城のてっぺんにも飛んでみた。

あんね、高すぎ。私の飛べる飛行高度の限界だったよ。

あれ以上の高度は無理。

風が強くて飛ばされる。

後は、勝手に王国騎士団や魔導士団の演習場を木陰から見守ってみたり、冒険者ギルドで人懐っこいスズメと人気になったり気ままに生活していた。


で、思い出したのだが、あのゲーム終盤になると魔王が復活したりして、この街が大変なことになるはずなのだ…え、今ってどんなタイミングっすか?

物語の主人公たるヒロインが平民の通う学校の魔法の授業で聖属性に目覚めたところから始まったはずだ。

別に恋愛シミュものではないが、主人公の女の子にイケメン男子が数名っていうパーティーが誕生して、冒険者として近隣の魔物などを倒しながら、このお城がある国。

えーと確か”イシュタル王国”を冒険して魔物を倒していき、復活した魔王から人々をまもる冒険物語だったはず。

であれば、やはり冒険者ギルドで張り込んでいれば、それっぽいパーティーを発見できるかどうかで、今がどんな時代かがわかるのではないだろうか?

どうせあの辺は私の縄張りだし。


それから1ヶ月ほど。

主に冒険者ギルドに張り込んだ結果、悪い情報を得た。

すでに聖女パーティーは別の地域へ行っているらしい。

つまり、魔王の復活カウントダウン中なわけだ。

ゲームではレベル上げなんてのもあったから、プレイ時間で考えると何日も停滞したりしていたが、あの物語はおおよそ1年の話のはずだ。

というのも、四季があり季節イベントもあったはずだからだ。

魔王復活は夏。ゲーム開始時期は冬。

あれ、まず、もうすぐ魔王復活じゃんよ。王都に居て大丈夫か私?

人間の言葉は理解できるけど、しゃべることができない私は周りの人に注意喚起も出来ないし、仮にできたとしてもスズメがいきなり「魔王が復活する!」なんて騒いだ日には、私が殺されかねないだろう。

魔物化したとか難癖付けられて。


最近ではこの王都冒険者ギルドのマスコット的存在として、いろんな冒険者の人からおこぼれのえさをもらう優雅な生活をしているので、なかなかこの街から逃げ出すのも気が引ける。

それに外には人と同じぐらいの大きさの蜂とか虻みたいなモンスターもいるのだ。

のこのこ外に出るのも危ない。

どうしたもんか…

折角なので、兄弟やハトさんとセグロセキレイさんと相談することにした。

「つまり、魔王が夏ごろ復活する可能性が高くて、その場合この王都が火の海になると」

「うん、にわかには信じられないと思うけれど」

「いや、こないだツバメの野郎に聞いたが、最近王都の外はモンスターが増えてると言っていた。あながち間違いじゃないのかもしれない」

そういったのはハトさんだ。

このハトさん、かなりな情報通でいろんな渡り鳥に気さくに声をかけるハトだ。

渡り鳥じゃないのにスズメにあるまじき変な行動をする私に目をつけ声をかけてきてくれて今に至る。

「隣街から来た仲間がいってたが、遠くの村では魔物のせいで壊滅したりしているらしいぞ。そいつは命からがら王都に逃げてきたんだそうだ」

そういうのは兄のジュン。

最近では若者スズメのまとめ役だそうだ。

「私らは単独行動をすることが多いからそういう情報はないけれど、水場は最近モンスターがでて危ないのよね」

とはセグロセキレイさんだ。

彼女は水辺によくいるので、その肌で感じているらしい。

「とはいえ、どこかに逃げるにしても何処に逃げるべきか…と」

「まぁそうだな。王都は私ら鳥にも安全な場所だ。だがここから出て隣街へ赴くのは命懸けだぞ?カラスやモンスターだけじゃない、トンビやタカなんかもいるからな」

ハトさんが渋い顔をする。

鳥の渋い顔って面白いな…

話し合いでの結論は出なかった。

その後何回か私も含めいろんな鳥たちと意見を交わし、最悪王都の隣にある林に逃げ込んだほうが良いと言うことになった。


ある日のこと、王都の冒険者ギルドで冒険者たちから餌をねだっていると、カラスがやってきた。

「おい!お前、前世の記憶があるらしいな」

「うわ、カラスだっ!」

「おれはクロってんだ。前世の記憶持ちのスズメはお前か?」

「やめて食べないでっ!」

「話を聞け!!」

「あ、はい。前世の記憶持ちのスズメです」

「ちょっと面かせ」

しょうがないので冒険者ギルドの屋根までついていく。

「おまえ、魔王の復活を予言してるそうだな」

「あー…予言というか、復活するんじゃないかって思ってるんだよね」

「そうか…詳しく聞かせてくれ」

仕方がないのでカラスは怖いが詳細を説明してやる。

前世でこの世界がゲームという形で語られていることと、どうもその物語と酷似していることを話すとカラスのクロは妙に納得してくれた。

「だいたいのことは分かった。しかし不味いな…そうなると俺たちカラスは魔王の従僕になっちまう。せっかく自由気ままに生きられているってのに」

「そうなの?」

「そうさ、カラスってのは闇の属性に近いんだ。魔族や魔王の駒の一つなんだぜ」

うわ、こわ近寄らんとこ。

「普段はなんてことはねぇ弱肉強食の自然の世界で生きてんだが、魔族なんかに命令されると、それ以外の行動ができなくなるんだ」

「え、かわいそう」

「くそ、とんでもねぇ時期にカラスに生を受けちまったぜ」

「?あなたも前世の記憶が?」

「あぁ?俺は昔犬だったんだ」

「イヌかよ!!」

「その前はブタだ」

「ひでぇ輪廻だな…」

「あぁ人間にはなったことねぇが1回だけ魔族だったんだ」

ほえー、魔族も輪廻するんだな。

「そん時はさんざんカラスを捨て駒にしてたんだ…まさかその自分がカラスになるとは」

「ご愁傷様」

「まぁ情報があっただけ助かるぜ、俺はどこか遠くに行くことにする」

「お気をつけて-」

カラスのクロは飛び立っていった。

カラスも楽じゃないんだなぁ…さて、ギルドに戻って餌をたかるとするか。

こうして私の日々は穏やかに過ぎていった。


*****

初夏、私こんなにモフモフで暑くなったら死ぬんじゃないかと思っていたら、なんだか羽が抜け替わってきた。

体中かゆくて大変だったよ。

でも夏毛になったからかガラスに映る自分の見た目がシュッとした。

そんなある日のこと。

昼間なのに突然空が暗くなった。

皆既日食でも始まったかとおもったら、モンスターや魔族が空から襲来したのだ。

「げ、魔王が復活したのか!」

私は大慌てで、王都の城壁の外へ逃げる。

一番近くの林を緊急避難場所にしていた。

木々の間に隠れてしまえば、スズメなど取るに足らない生き物など目にもつかないだろう。

他にも様々な鳥たちが林などに逃げ込んでいく。

そういえば3日前からカラスたちを見なかったな…


突然響く爆音、そして突風。

しっかり両足で木の枝につかまっていたのに枝ごと飛ばされて姿勢を崩した。

近くの枝に再度捕まり事なきを得たが、魔族の魔法ってすごいんだな…王都が火の海になっていく。

「ピコ、無事だったか」

「ジュン兄!なんとかね」

「しばらくはこの林で様子を見るしかない。ほかの鳥だけじゃなく猫や犬も避難してきているぞ」

「そうだろうなぁ…」

「お前、猫とも友達だそうだな」

「あーうん、猫のミケちゃんね。同じ前世の記憶持ちだたんだ」

「そうか、まぁ気をつけろよ。食われないようにな」

うん、まぁそうね。王都でお腹いっぱい食べれていればお互いに食われる関係になることはないが、食料が減れば何されるかわからないからな…

幾ら前世持ち仲間と言ってもそこは気をつけねば。

「あ、ミケちゃんだ。挨拶だけしてくる」

「おう、気をつけてな」


「ミケちゃん」

「あ、ピコ」

「無事だったんだね」

「ピコから聞いていたから、なるべく夏場は王都から離れてこの林で過ごしていたんだ」

「それは良かった」

「さすがに、このイベントに巻き込まれたくないしね」

「それはそう」

「あーでも騎士エルク様みたかったなぁ」

「夏の終わりには見れるんじゃない?」

「期待しよう」

「じゃあね!食べないでね!」

「食べないよ!!じゃあね」

ミケちゃんの推しは聖女パーティーの騎士エルク。ゴリゴリの前衛キャラだ。

私はどちらかというと、魔術師マリンバのほうが好きだったな。

そんなのはどうでもいい。

このままイベントが進めば王都は魔王城になるはずだ。

そして、聖女パーティーが魔王を倒す。

頑張ってね!聖女さま。今世ではまだ聖女パーティーを見たことはまだないけれど。


王都が禍々しく魔王の城になった。

一度王都に戻ってみたが、人々が奴隷のように扱われ、魔族たちが酒盛りをしていた。

案外餌には困らないという状況で、魔族的にはスズメや猫などどうでもいいらしい。

一部のカラスは確かに使い魔として使役されているらしいが、本当に雑用として仕事をこなさせられているらしく、食事もとることを許されないような状態だった。

逆に、安全ちゃ安全だ。モンスターにさえ気を付けていれば。

そんな日が1週間ほど続いたある日、王都の正門に光が差した。

私はやじ馬根性で近寄ってみると、そこではゲームで見たことがある聖女のパーティーが魔族と戦っているではないか!

「おぉー本当にいたんだ!」

「あ、ピコだ。本当にゲームと同じだったねぇこの世界」

「ミケちゃん!そうだねぇまさか本当に同じだとは」

王都の城壁の上。私の横にミケちゃんが現れた。

よくこの壁上ってきたな…

聖女たちは次々と魔族を倒し、城門をくぐる。

ここからゲームではボスダンジョンの攻略になる。

元の王都の痕跡を残しつつ、様変わりした街を行く聖女たちの表情は硬かった。

「魔王倒せるかね?」

「倒してもらわないと!」

「そうだねぇ」

まぁ私たちには見守ることしかできないけどね。


聖女たちの戦いは丸一日かかったようだった。

魔王城、旧王城に天使の梯子がかかると、どんより曇っていた空が一気に晴れ渡った。

あっつい!!

夏の日差しあつい!涼しくてよかったのに。

日の光によって、魔族やモンスターたちが浄化されているようだった。

街の人々が反撃に転じている。

たしかゲームではここでエンディングで、王国が復活、聖女と親密度が高かったパーティーメンバーの誰かが結婚して王国が復活するような話だったはず。

平民だと思われていた聖女が、先王の嫡女の娘なんだよね実は。



*****

しばらくして、復興してきた王都の冒険者ギルドで、今日も私は餌をたかる。

「お、アレが聖女様のパーティーだぞ」

「聖女様がまさか国王陛下の血を引くお方とはなぁ」

「まぁ聖女様のお力があればこの国はしばらく平和だろう」

冒険者の方々が話をしている。

なんで今頃になって冒険者ギルドに用事なんだろうか?

確かに聖女様とパーティー一行だ。

それにしてもパンくずウマーである。

「そこのスズメさん、貴女人の言葉がわかる?」

は?聖女に声をかけられた。

「チュンチュン(私の言葉分からないでしょ)」

「理解できるようね。教えてほしいのだけど、この先王国はどうなるのかしら」

なんで、聖女からそんなことを聞かれるんだ?

てか理解したと思われてしまった。

つーか人間とは会話できないし、そもそもゲームの後は知らん。

「カラスのクロが予言ができるスズメが冒険者ギルドに居ると教えてくれたのだけど、あなたよね?」

うっわ、まじかよ余計なことを…てかクロは魔族の従僕じゃなく聖女側につけたのか、すごい躍進だな。

「チュンヂュン(これから先のことは私も知らないわ)」

素直に答えてみる。

通じないだろうけど。

「…そう、ありがとうスズメさん」

なんだよ、通じたのかよ。

聖女もしかして動物と話せるのか?

そういえば、クロから聞いたってことはそう言うことなのか?

「ちゅん!(国王の仕事頑張ってね)」

「ふふ、ありがとう」

うわーマジで通じてるわ。

大丈夫かな不思議ちゃん聖女とか呼ばれない?

「さすがアリスだ。スズメとも話せるんだな」

「私はどんな動物とも話せるわよ」

「おかげで何度も救われたもんな」

聖女パーティーのメンバーたちが会話している。

あーもう周知の事実なんだ。

じゃあいいのか。

さて、秋も深まってきたし、そろそろ越冬の準備を始めないとな…

私はスズメとしての人生を謳歌するまでさ!

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