第2話

1063年10月27日。戦場へ着いた翌日、この日僕は初めて人を殺した。


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「全隊集合!」


朝食を食べていると集合命令がかかった。遂に行く時が来た。

そして全員が集まった頃、俺達の先頭に大きな鎧を身につけた大男が現れ、演説を始めた。


「よくぞここまで来てくれた諸君!王は諸君のその献身的な態度を喜ばしく思われておる!」

「諸君は王の剣だ!王の盾だ!王の鎧だ!諸君は我らが王を護る為の英雄だ!」

「諸君は王の剣として敵を蹴散らしに行くのだ!そして王に栄光を届けるのだ!」


「全軍!突撃するのだ!」


俺達はその一言で動いた。何の訓練もしていないのにも関わらずに、まるで蟻の集団のように。ただ一つの目的へと走り出した。


「ぜぇ、はぁ」


走り出して数十秒、既に息が切れそうになった。慣れない武具に戦場特有の緊張感。周りの気迫。射殺さんばかりの視線。全てが絡み合い急速に体力と気力を奪っていった。


「はあっ、はあっ」


視線が急激に狭まっていく。何も考えたくない。何でこんな事に、戦いたくない。


そんな思いは無駄で。

蟻は、もう一匹の蟻へとぶつかった。


衝撃が来た、どうやら前の人とぶつかってしまったようで咄嗟に。


「すみません!」


と、言うのと同時に腹の辺りがヌメヌメする事に気づいた。そこには、前の人の腹から突き出る槍に漏れ出す腸だった。


「ひっ」


その悲惨な光景にまだ少しだけあった第三者的な気持ちは消え去った。


「たす、助けて。これ、抜けねぇんだ」


「 」


声が聞こえた方に声をかけてきたのでだろう。前のその人は後ろへ首だけをやって助けを求めてきた。

その瞬間僕は、逃げた。

走った。

全力で戦場外へと走った。例え引き止める声が聞こえても無視した。そこに助けを求める声があろうと。


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「アッ」


走ってから数分が経ったその時遂に僕の足はもつれて転んでしまった。しかし、それが幸運にも背後から刺してきた敵兵の攻撃を避けるキッカケとなった。


「チッ、何避けてんだよ」


転んで痛いのを我慢して立ち上がり、相手の方へと顔と体を向けた。

相手は僕より身長が高い、しかも槍のリーチも負けている。


「なぁ!こんな事止めようよ!こんな事して何があるってんだ!」


そう言うと男は僕の言葉がおかしかったのか笑った後に。


「そんなもん。金の他に何があるってんだよ」

「いい事教えてやるよ坊主、戦争ってのは儲かるんだ。特に俺のような傭兵にとっちゃな」

「だから、殺されてくれ」


そう言うと男はさっきまでの笑顔が嘘のように真顔になり槍を突き刺してくる。


「嫌だ!」


僕は遂に覚悟が出来た、この人を殺すという覚悟を。そのために大声を出して自分を鼓舞する。

その槍を止める為手に持っていた盾で受け止める。


「ぐっっ!!」


その男の槍の衝撃に思わず声が漏れる。しかしこれで男は槍を使えなくなった。そこに勝機を見出し咄嗟に槍を突き刺す。しかし


「武器は何個も持っとくもんだろ」


男は攻撃を避けた後、槍を中腹からへし折った。

そこで多分油断したんだろう。


グサッ


「は?」


「死ねっ!」


僕は隠し持った短剣を男の喉に突き立てそのまま押し倒して殺した。


グサッ


「死ね!」


その後何度も刺した。その男が恐ろしくて、初めて殺し合ったその男が悪魔のように思えて。

そして、ようやく正気になった頃。


「あ、あぁ」


その手には血に塗れた短剣が握られていた。

人を刺し殺した手の感触は、意外とあっさりしていたが。

何故か酷く重かった。


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