シスコンがギャルゲー世界にやって来ました

@NEET0Tk

第1話

 どこにでもいる普通のオタク……というのは正しくないが、まぁアニメや漫画が大好きな学生という点では大して変わらないだろう。


 宿題をバレない程度に手を抜き、部活動に赴く連中を小馬鹿にしながらスポーツ漫画を読み、授業中にバレないようにスマホを弄る、正に青春を送っていた。


 だが、人とはそんな日常に飽き飽きし、刺激を求める。


 例に漏れず、俺は全てのオタクが抱く夢を持っていた。


 そう、妹だ。


 俺には姉がいたが、邪智暴虐、縦横無尽、魑魅魍魎といったとてもとても人前に出せるようなお人ではなかった。


 そんな中、地獄の思い出は数えきれないほどあるが、微かに良い思い出もある。


 今にして思えば、なんだかんだ愛されていた気がする。


 まぁ悪い気分ではなかった。


 そんな愛情を俺も誰かに注ぎたかった。


 特に、それが妹であればとどれほど苦悩したことか。


 あまりにも悩みすぎた俺は


「オヤジ、お袋、妹作ってくれ」


 と実の両親に頼み、死ぬほど怒られたのも苦い思い出だ。


「妹か」


とあるゲームをプレイする。


いわゆるギャルゲーだ。


ここに登場する妹キャラがとにかく可愛いと話題だそうなので、とりあえず


『寄越せ!!』

『ひぃ』


的なやりとりで店員から買い取った。


「ふ〜ん」


パッケージだけを見る。


ただそこに、主人公がポツンと立っていた。


「その前に」


俺は立ち上がり


「コンビニでゲーミングお菓子を買ってくるか」


 そして俺は幸か不幸か


「おい!!大丈夫か!!」

「遺言……がある」

「なんだ!!」

「生まれかわるなら……女の子になるか……妹が欲しい」

「おい君!!せめて一つにした方がいいぞ!!おい!!」


 知らないおじさんに抱かれながら、俺の記憶はシャットダウンする。


 ーーーーーーーーー


「ん?」


 目が覚める。


「どこだここ」


 だが実際の上記の台詞は


「あだぶだかだぶら」


 となっていた。


(上手く喋れない。猿轡さるぐつわでもされてるのか?)


(二重の意味で)興奮を隠しきれない俺だったが、すぐに理由に気付く。


「レインちゃん、ご飯の時間ですよ」


 突如聞こえる謎の声。


(なんだと!!)


 そこには大っきいおっぱーー女性がいた。


 その髪は金色に光っており、どうしようもないほど綺麗であった。


 するとその巨大なたわわが露わになり、俺はママァとなってしまう。


 そして授乳プーーミルクを飲まされる俺。


 いやもうこれは言葉で置き換えるの無理だろ。


 俺はウキウキとそのピンク色に食らいつく。


 ここで俺はついに結論付ける。


(俺、転生してるな)


 俺は転生を果たした。



 ーーーーーーー



 ここに転生して二年が経過した。


 ここで皆という名のイマジナリーフレンズに俺の状況を説明しよう。


 まずこの世界はかなり科学技術が遅れている。


 なら皆は


『ヤッター内政チートじゃーん』


 とか頭ハッピーセットなことを考えてそうだが(え?考えてない?正直になれよ)それは浅はかな考えである。


 その理由は魔法がある。


 頑張って火種を作るよりも、魔法でポンと火がつき、薪がないのに燃え続けるならそんなものは要らないであろう。


 言ってしまえば科学の代わりに魔法が進んだ世界がここだ。


 ここでは何故か文字が日本語である。


 理由は知らん。


 まぁどちらにせよ歴史は大きく異なっており、似たような名前の人物やら全く知らない名前が多く存在した。


 そう言えば俺の家族について話すのを忘れていた。


 父親の名前はノートンであり、母親の名前はサナ。


 苗字はローレンスなんちゃらこんちゃらってやつだったが、長くて覚えていない。


 他に語ることがあるとすれば、王族というのが存在し


 コンコン


 部屋の扉が叩かれる。


「レイン様、少しお時間をいただけますか?」

「おん」


 扉が開くと一人のメイドが現れる。


「……何をしているのですか?」

「ボイコット」


 与えられた画用紙とクレヨンで


『王族反対』


 と書かれたプラカードを掲げる。


「レイン様」

「なんだ」

「王族が何言ってるんですか」


 俺は王子に転生した。


 父親が黒髪で母親が金髪なのだが、俺は悲しいことに父親の影響を大きく受け、完全に黒髪となってしまう。


 ちなみに目の色も父親が青であり、母親が緑なのだが、何故か俺は黒だった。


 王子に転生したと言っても、王族は象徴的なものであり、そこまで実権があるわけではない。


 普通の人のように学校に通い、友達を作り、時々みんなに愛想を振りながら最終的に王族としての仕事に就く。


 何故俺がボイコットしてるかと言うと、ただ俺は純粋に見せ物みたいに扱われるのがごめんなだけだ。


「あまりに早熟……故に少し道が逸れてしまっていますね」

「俺は半熟の方が好きだ」

「失礼しました。レイン様に早熟という言葉はあまりにも過剰な表現でした」

「おいメイド。それが主人に対する態度か?俺はこれでも2歳だからな」

「私の知ってる2歳はそのような喋り方をしません」

「あだぶぶらぶら」

「胎児にまで戻らないでください」


 このお茶目なメイドはサティラ。


 銀髪メイドさんで毒舌と、俺の理想にガッチリフィットしている。


「それで?何か用があって来たんじゃないのか?」

「はい。もうすぐ生まれるそうです」

「『ウィンド』」


 俺は軽々と宙に浮き、驚くほど速いスピードで移動する。


 風の魔法ウィンド。


 簡単な魔法であり、10キロ程のものフワフワと浮かすことができるだけの風が起こせる。


 その魔法のおかげもあって自力で目的地に向かえる。


「見えた!!」


 王族ともあり、家の中に分娩室(出産する場所)があるという驚くべき事実。


 部屋の前には既に人の姿。


「オヤジ!!どうなった!!」

「お父様と呼べと言ってるだろ!!」


 いつにも増して慌てている父親。


「さっき急にだ。ワシも今きたところだ」


 無念そうに答える。


「俺たちは……なんて無力なんだ」

「2歳でこの世の不条理を思い知るなバカ息子」


 こうやって軽口を叩くにも、いつものキレがない。


 二人とも余裕のない表れだ。


「……」


 見上げれば、デカデカと緊急と書かれた文字が赤く光っている。


「頼む」


 俺とオヤジはただただ祈ることしかできなかった。



 ーーーーーーー



「オギャア、オギャア」


 深夜


「ぅん?」


 眠い目を擦る。


 軽い振動。


 子供の体では耐えきれず寝てしまっていた俺は、オヤジの腕の中にいた。


「レイン」


 優しい声。


「大丈夫か?お母様」

「ええ。お父さんとレインが見守ってくれてたから」


 笑顔を浮かべた母親の腕には


「これが……」


 まだ髪は生えていないが、俺と同じ黒髪でも、母親のような綺麗な金髪でもいいだろう。


 瞳はサファイアのような青だろうか。


 それともエメラルドのような緑だろうか。


 どちらにせよ


「レイン、顔を見せてあげて」


 覗き込む。


 ピタリと泣き止み、答え合わせが行われる。


 どうやら半分正解だったようだ。


「あーだ」


 割れ物を扱うようにその小さな手を握りしめる。


「わぁ!!」


 その日


「お前の妹だ。レイン」


 天使が舞い降りた。

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