第18話 天上家にて 終わり 勇者に感謝
「よくそこまで身に着けたものよ..竹刀より真剣が様になっておる..さぞかし名のある者に鍛えられたのじゃな!」
確かに僕は公爵家..剣を教えてくれた者は王宮騎士や騎士団..そして上級冒険者だ。
「えぇ、自慢の師匠達です!」
「そうか、才のある者が素晴らしい師を得て若くして達人に至ったその素晴らしさは認めようぞ、だが若い、儂は剣一筋60年..才ある物が努力し長い年月の末たどり着くその領域があるのじゃ..ここまでの褒美じゃ..身内にも見せなかったその技をお見せしよう」
「参る」
確かに言うだけの事はある、まるで風のようだ、油断したらあっという間に首が飛ばされるだろう。
「ちょっと待って下さいお父様、相手は子供です、そんな事をしては..」
「だからお前は未熟なのじゃ..目の前に居るのは見た目通りでは無い..至高の存在じゃ、少なくとも儂の人生の中で初めて会えた好敵手じゃよ...悪いが手加減なんかできぬ!」
「ですがお父様..」
「お主の目は節穴か? こ奴は涼しい顔してよけよったぞ!」
《嘘、おじい様が寸止めしたんじゃなくて、翼くんが避けたの?》
《この少年が剣聖と言わしめるお父様と対等というのか?》
「おっと済まぬな翼どの、儂の名前は鉄心じゃ..血がたぎり、名乗り忘れたわい...認めたら名を名乗る約束じゃったな! 」
「ご丁寧にならば、私の名前は天空院 翼と申します、以後お見知りおきを..」
「忘れる事は無いわ!例え家族の名前を忘れても主の名前は忘れん! さっきのはただの遊びじゃよ、此処からが本番じゃ」
この人本当に僕を斬る気で来ているよ..だけど、甘いなこの人もやっぱり、人を殺した事は無いんだろうな、本当の剣聖なら僕はとっくに死んでいる。
速いな、言うだけあって他の人よりも攻撃にも重みがある。
だが、それだけだ...
「涼しい顔してよけよる..我が人生でお前以上の敵にあった事はないわ..剣一筋に生きた儂の剣をここ迄避けたのは主だけじゃ!」
剣一筋か..聞こえは良いけど楽な人生だったんだな、だから剣に何も重みがない。
前の世界の住民はね、皆んな何かを背負って剣を振っていたんだ。
「剣一筋ですか?」
「そうじゃ..来る日も来る日も剣を振り続けてきたんじゃよ..主の何倍もの人生をの」
剣はただ振る物じゃない、命を葬る道具だ。
その道具は大切な者を守る為に振るう。
僕たち貴族は領民を守るために振るうんだ...自分が死んだら領民がどうなる。
女達は辱められ、男は殺されるかも知れない。
だから殺される覚悟で殺す覚悟で振るうんだ。
泥だらけになり血だらけになり...
そんな剣だけ振っていれば良いなんて人生、楽で良いよな..
「そうですか...ならば殺す気で打ち込んで来てください」
「主は儂を愚弄する気か..慢心しているのか? ならば本気の本気を見せてみようぞ」
《えっ そんなのってありですか?》
「これが真の奥義じゃ..行くぞ」
「お父様、それは、光纏お出来になったのですか?」
「嘘、おじい様、それは作り話しでは無かったのですか」
「少年、負けを認めた方が良い..それを受けたら真面目に洒落にならない」
気を纏えるのか..
「翼くん、負けを..」
「あの、さぁ僕ってそんなに弱く見える?」
「翼くん、何を言っているの?充分強いよ、本当に!剣聖と呼ばれるおじい様が本気になる位だもの..だけど..」
「僕が負けると思う..」
「ごめんなさい..」
「そう? なら応援してくれるかな..それだけで充分..」
「解った、何ももう言わない、頑張って、心美の為に頑張って!」
《翼くんは剣士だから..負けなんか認められないよね》
「伝説にある気と言う奴じゃ、それを光のように纏う..」
「それってズルくないですか?」
「確かに知らぬ者にはそう思えるかも知れぬ、だがこれも剣の究極系じゃ..」
確かに気を使えば強くなるよ..何倍もさ
だが、それは試合や練習でつかったら地力がつかないでしょうに...
だから、本当の戦いの場でしか使わない。
「そんな物が究極の訳がないし、本当の剣じゃない」
「ほう、負け惜しみかの..」
《ギア2》
「嘘、翼くん..それ光纏 しかも凄く綺麗」
「お主も使えるのか..」
「もう、終わりにしましょう、そんな物を持ち出すなんて気がそがれました」
僕は鉄心と言う名のじじいに怪我しないレベルで峰打ちした。
鉄心はあっけなく倒れた。
「儂を弟子にしてくれんかの?」
「お父様はもうお歳ですから..翼ちゃんお姉さんに指導して下さらない? 指導してくれたらいい事してあげるわよ!」
「ちょっとお母さま何を言い出すんですか? いい齢してお母さまにはお父様が居るでしょう?」
「あらっ、だけど翼ちゃんにとって私は綺麗なお姉さんらしいわよ?」
「そうよね翼ちゃん!」
「翼くん、こんな年増の話なんて聞かなくて良いわ..お姉さんが好きなら、心美だってひとつ年上だからお姉さまだよ!」
「年増! いま私の事を年増って言いましたか? 心美」
「いいましたよ! 年増おばさん」
「心美、そこになおりなさい」
「少年、いや翼様どうだろうか? 妻と心美をあげるから私に指導してくれないか?」
「そうじゃ」
ゴツ、ゴツ。
「何するんですか!」
「いたいけな年寄に何するんじゃ!」
「言って良い事と悪い事があります! 僕みたいな半端者に心美さんや百合子さんをよこす?辞めて下さい」
「なんじゃ不満なのか?」
「そういう事じゃないんですよ! 本当に愛してくれるなら、好きになってくれるならどれだけ嬉しいか解らない...それこそ命と引き換えでも良いと思える位に...」
「いやだから、百合子は冗談じゃが心美はの」
「そうそう、百合子は冗談だよ」
「そんなこと言われたら本当に欲しくなります..心美さんみたいな高嶺の花、今の僕じゃ絶対に届かない..どんなに渇望したって手が届かないのは解かっていますから」
「いや、じゃからのう」
《どう見ても心美はほの字じゃろうが..》
《そうじゃないなら家には連れてきませんわね》
「あのさ..私は、翼くんが好きだよ..本当に..」
「冗談でも凄く嬉しいよ、嬉しくて仕方ない位..だけど」
「だけど、何! ねぇ何!」
「心美さんみたいな綺麗で可愛くて、天使、いや女神みたいな人が僕なんかを好きになってくれるなんて信じられない」
《嘘、本当..本当なの、そんな風に思ってくれているの? これって完全に両思いじゃない! 》
《何で、あれ程の美男子で自分に自信がないんじゃ?》
《凄い美少年ですのにね..》
「そう、信じられないの、それだけなのよね? それなら簡単だわ..私が信じられるようにしてあげるわ...だから」
「だから?」
「逃げないでね翼くん」
「どうやら話は終わった様じゃの..流石に腹が空いたわい、飯にしようかの」
「そうだね、輝彦も起こして飯にしようか?」
「そうだ、翼さんは今日は泊まっていきなさい..親御さんにはこちらから連絡入れておくから」
「うん、そうしようよ翼くん」
結局、その後は天上家の人達と夕飯を食べた。
最初からもてなしてくれるつもりだったのだろう、すき焼きを用意してくれていた。
よく考えて見ればこの世界は平和だ、人を殺した事無いのも、何かを背負わないのも仕方ないのだろう。
そんな環境であそこまで強くなった鉄心おじいさんは凄いのかも知れない。
死ぬような思いをしないで気が纏えたのだから..
うん、凄い才能だ。
結局僕は..天上家の人達に週一で練習をつける約束をしてしまった。
そして、心美さんには剣道部に入る約束をさせられてしまった。
なぁ 勇者 翼、お前は凄いな..こんな平和な世界から来たのに魔族と戦ってくれたんだな...
誰もが手を汚さずに生きれる世界から来たのに、手を汚してくれたんだな...
正直、恨みもあったが..今は感謝しかない...世界を救ってくれてありがとう、国を救ってくれてありがとう..
僕は、この世界で「天空院 翼」の名前を輝かせるように頑張るよ..
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