第79話 【閑話】誰も愛せなかった...
何が起きたのか解らない...気がつくと私はベッドで寝ていた。
腕に点滴が刺さっていたから、此処は病院なんだそう思った。
横のベッドを見ると水上さんが同じ様にいた。
彼女は先に目覚めたみたいだ、だがその顔は不思議そうな顔をしていた。
「平城さん、目が覚めたんだ」
「うん、だけどどうして病院にいるのな」
「それはイチゴ狩りをしに行く途中でバスが転落事故を起こしたんだって」
「嘘、私寝ていたのかな? バスに乗った記憶しか無い」
「私も同じ...それでね、重要な事なんだけど、私達二人を除いて全員が死んだらしいよ」
「嘘、それ本当..」
「うん、私も聞いたばかりだけど冗談では無かったわ、下のロビーで沢山の人が泣いていたから」
「だけど、私見た感じ怪我をして無いんだけど」
「私も同じよ..これ週刊誌」
「これって」
驚いた【奇跡の女子高生】ってタイトルで私達が書かれていた。
記事の内容によると他の皆んなはかなり無惨な死に方をしていたらしい。
4人、黒木礼二 湯浅真理 三浦陽子 東郷梓が行方不明らしいが恐らく絶望だろうと書かれていた。
「そうよ助かったのは2人だけ、他の皆んなはさっき話した通り...理解できた」
「理解できた...だけど可笑しい、私はクラスメイトが死んだと言うのに、何で涙が出ないのかな?、悲しくない」
「多分、ショックを受けているんじゃないかな? 不思議な事に悲しみが無い、しいて言うなら死んでしまった人達より礼二くんが気になる」
「あれ..何で...何で可笑しいよ、私礼二さんと仲なんてそんなに良くなかった、それなのに、何で礼二って名前を聞くと悲しくなるの?」
「平城さんも?どうしたのかな、私は祥吾が好きだった筈なのに、祥吾はどうでも良くて何故か礼二の名前を聞いた時だけ悲しくなるの..変だよね」
「何故か私も同じ...」
その後、体が回復してクラスメイトの葬儀が行われたけど、涙は一切出なかった。
《冷たい人間》そう思われると思ったが《世間は案外同情的でショックで感情が可笑しくなった》そうとってくれた。
だが、この時より私も水上さんも異性に何も関心が持てなくなった。
芸能人は勿論、私が好きな小説の主人公さえ...好きでなくなってしまった。
水上さんは私と違って人気があり、交際を申し込まれる...だがその全てを断っていた。
水上さんとは今でも仲の良い友達だ。
結局大学に行っても、社会に出ても、どんな異性と出会っても好きになれない。
私は事故で頭がおかしくなっているのかも知れない。
偶に夢の中に黒髪の男の子が出てくる...良く顔は見えないが凄い美少年なのは解かった。
私は現実の男に益々興味が無くなり、その夢の男の子に恋するようになった。
どうしても彼の事を絵で書きたくなり、気がついたら漫画家になっていた。
「異世界に行って酷い扱いを受けているヒロインを助けてくれる男の子の話」
アニメにはならなかったけど、プロの漫画家にはなれた。
ただ、驚いたのはこの漫画を親友の水上さんに見せたら...
私の漫画の主人公みたいな人が水上さんの夢にも出て来たそうだ。
やがて30歳になって家族からお見合いを進められたが気が乗らない。
可笑しな事に水上さんも未だに独身だ。
私は兎も角、水上さんは大病院の息子や御曹司からの求婚も断ったそうだ。
そのせいで両親と揉めて一人暮らしをしている。
40歳になったが未だに結婚する気は起きず、一人だと先が心配なので水上さんと住み始めた。
二人で暮らすようになり下の名前で呼ぶように成った。
その後も男を寄せ付けない生活を送っていたら68歳の時、静香が無くなった。
ただ一人の親友でお互い独身...家族からも、良縁を断り続けていた静香は嫌われていて私が葬儀の喪主をした。
お骨の引き取りても無かったから...私が納骨堂を買って永代供養を頼んだ。
私も独身だ、ついでに自分の物も生前予約した。
気がつくと私は84歳...寝たきりになっていた。
漫画で稼いでいたのと静香が遺産を私にくれたから老人ホームに入れたから特に困らない。
だが、死期が近く成れば成る程、あの少年の顔が思い出される。
「ショタ所じゃ無いわね、いい歳したお婆ちゃんが少年の夢を見るなんて」
私は...意識が無くなった。
「本当に静香って子といい、貴方もだけど凄いわね」
目の前に、可愛らしい女の子がいたが...それが絶望に変わった。
嘘でしょう...私が追い求めた夢の美少年は女の子だったの...こんなのって無いわ。
「それは勘違いよ、私は貴方の想い人にそっくりなだけよ」
この声は聞いた事がある気がする。
「そう、良かったわ、それで私はこれからどうなるの?」
「貴方の想い人に会わせてあげる」
「ありがとう、あの人に会えるのね...思い出してきたわ、礼二様、私の想い人の名前」
ドンドン私の体が若返っていく...多分この女神様がそうしてくれているのね...ありがとう、礼二さんの前でお婆ちゃんの姿じゃ嫌だわ...
今の私はそう多分16歳位に見える。
女神様ありがとう...ああっ礼二さん...礼二さんだ、私の目は涙に濡れて彼が見えない。
「礼二さん...」
私が彼の胸に飛び込もうとしたら、頭を誰かに掴まれた。
あれっ、さっきの女神様だ...
「言って置くけど、礼二の妻は私よ? あんたは側室それも6番目ね」
側室? 6番目? ...あっ
「何で、サナさんに静香に三浦さんに湯浅さん東郷さんが居るのよ」
「久しぶり、平城さん」
「礼二さん」
思い出した、全部思い出した。
「ごめんね、わ.た.し.の.婚約者の礼二の能力を侮っていたわ、まさか記憶を消しても心に残るなんてね」
「あの、私お婆ちゃんになって死んだ筈なんだけど、皆んなは何で若いままなんですか?」
「礼二と私は神だから、他の皆んなは可哀想だから【若返りの水】をあげたのよ、貴方や水上さんは魂を貰ってきたから年齢はまぁ一番自分が好きだった年齢になったのかな」
「そんな、何か私だけ長生きして損したみたいですよ、湯浅さんや三浦さんに東郷さん...あれ、死んでいたよね」
「そうね、私はあのまま礼二さんと暮らしていました」
「私も礼二様とごめんね」
「あはは、何かごめん」
「ちょっ待って、それズルくない」
「まぁ良いんじゃない、これから取り戻せば」
「静香...私貴方が死んで悲しみながら納骨までしたよ...幸せになっていたなら、私の悲しみ返して」
「そんな事、言わないで...今日は、礼二様をくくり姫様が一晩貸してくれるから..まぁ私はもうとっくに経験しているけど?」
「静香...」
「怒るなら、サナさんに三浦さんや湯浅さん東郷さんにしたら?10代からしっかり楽しんでいたんだから」
「まぁ良い...今日は礼二を独り占めさせてあげるから...機嫌を直しなさい...84歳で処女の平城さん、それじゃ、ほら行くよ」
「くくり姫様酷い」
意地悪い笑顔で皆は出て行ってしまった。
「本当に懐かしいね平城さん」
「礼二様...私」
時間がゆっくり動き出した...84年間操を守っていた私は...その日乱れに乱れた。
次の日【84年間】だからね...と皆から生暖かい顔で見られて赤面する位に....
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