第36話 女神が嫌いになった

どうしようか?


凄く悩んでいる、三浦さんに湯浅さんをこれからどうした良いのだろう?


どう考えても二人は詰んでいる。


走る所か歩く事も満足に出来ない、それに両腕が無い。



この世界の考えではどうだろうか?


あくまで何となくであるが、多分治らない気がする。


四肢欠損を治す方法は無い。


いや、実際はあるが、事実上不可能だ、


治す方法の一つは聖女が使うパーフェクトヒール。


これなら、死んでなければどんな物でも治せると言われている。


たしか、水上 静香が聖女だったはずだ。


僕は姿が変わってしまったが、三浦さんも湯浅さんは同級生だ、心優しい彼女なら多分使ってくれるだろう。


だが、問題なのはこのパーフェクトヒールは聖女なら確実に覚える訳では無い。


才能ある聖女が運が良ければ魔王討伐ギリギリで覚える。


才能ある聖女、此処がミソで覚える確率が1/5しかも魔王と戦うギリギリに覚える。


1/5の確立プラスに勇者パーティーが魔王に勝利して凱旋する。


そこ迄の事が無いと無理だと言う事だ。


勇者パーティーが魔王を倒す為の旅は過去の話では早くて3年、遅くて10年掛ったらしい。


しかも当然負けた事もある。


最低3年~10年待つ、気の長い話の上負けたら終わりだ。



そして、奇跡の秘薬エルクサイヤー。


これは全ての病、怪我を治すらしいが、この世界に9本しか存在していなくその値段は王城と同じ位だ。


到底手が出ない、王族でも購入が難しい物を手に入れるなんて無理だろう。







それじゃ、もし、何かの偶然で二人が《日本人》になったら。


駄目だ、日本の技術では腕が斬り落とされてすぐなら接合してリハビリと言う事も可能かも知れない。


だが、無くなった腕を再生する方法はまだ確立されて無かった。




それで今度は足だ。


腕が無いから彼女達は車椅子を押す事が出来ない。


まぁ、僕やサナが押す分には楽だが。




アキレス腱の修復だが、これは恐らく手術で治るのでは無いか?


そう思っていたが...ちがう、周りの肉事えぐり取られている。


簡単に言うとサメが噛みついて肉事食べられたような感じだ。


だが、足を切断しても実際には義足で歩ける。


そう考えたら、案外リハビリ+何かの道具で歩けるようになるのかも知れない。



ネットがあれば調べられるが、流石に無いから、駄目だ...調べようが無い。


もし、彼女達が《日本人》になれたら診療所に行って相談してみよう。



それで、今は、三浦さんや湯浅さんはサナが買ってきてくれた頭から被るワンピースに着替えている。


お風呂に入って綺麗になった二人は腕が無いだけで凄く綺麗で可愛い。


「それでこれから礼二どうするの?」


「どうするのって言っても、2人はこの状態だから、此処に住んで貰って、まぁ色々アドバイスでも貰えればって感じかな」


「確かに、そうだね、足が悪くて手も無いんじゃしょうがないよね」



「本当にご迷惑かけてすみません」


「あの...買って貰って助けて貰いましたが、これで良いんでしょうか?」



三浦さんも湯浅さんも、すっかり猫被っているな...クラスメイトの時はもう少し違ったんだけどなぁ。





「ああっ気にしないで、この世界には日本人って余り居ないでしょう? だから傍に居て話してくれるだけで嬉しいから気にしないで」


「礼二さんもよく考えたら日本人なんですね、あの日本人の召喚って結構あるんですか?」


「私もそれ聴きたいですね」



やばいな、早速だ...本当は勇者召喚位だから数十年に一度位しか無い。


だから嘘をつくしかない。


「僕は召喚じゃなくて迷い人なんだよ」


「「迷い人」」



「そう、迷い人、召喚されたんじゃなく迷い込んだ...そんな感じ」


「あの、それって何か違いがあるんですか?」


「召喚とはどう違うんですか?」



どう説明しようか...サナは無責任に椅子に座ってウトウトしているし



「あのさぁ、召喚って女神様からジョブやスキルを貰って魔王を倒せって感じでしょう?」


「「確かに」」



「迷い人はただこの世界に迷い込んだだけ、だからジョブやスキルは貰ってない」


「そんな、それじゃ大変じゃないの」


「あの...凄く危険なんじゃない」



「たしかにそう、だけどそれなりに便利な面もあるんだよ...まぁ余り言えないけど迷い人さながらの特典がね」


「何かあるんですね」


「もしかして凄い力があったりしますか」



「全然、ショボいよ...簡単に言うと偶に日本の物が特典の様に手に入る、この辺りはちょっと秘密だけどね」


「あっだから、お風呂に日本製の石鹸とシャンプーがあったんだ」


「あの生理用品があったのも、そのおかげなのかな」



「そう言う事だね...それで、君達に何があったの? 勇者召喚でこっちに来たなら待遇は良い筈だよね」



「うん、余り話たくないけど、話さないと不義理だよね」


「やっぱり話さないと駄目だよね」



二人は重い口を開いた。


まさか、そんな事があったなんて...ふざけるなよ、人間の争いに巻き込まれて、そんな事になるなんて。


女神イシュタル、異世界人は魔王を倒す為に呼び出されたのだろう...




この世界に来なければ二人はそのまま大学に進学して


体育大学で三浦さんは剣道を続けていただろう。


湯浅さんは文学部に進学して趣味の小説を書いていた筈だ。



その運命を狂わせやがって...



しかもあの女神は馬鹿なのか?


望むようなスキルをくれると言いながら三浦さんに《魔法使い》


湯浅さんに《上級剣士》


絶対にそんなジョブなんて望む筈が無い。


剣道に青春の全てを掛けてきた三浦さんは絶対に剣のジョブが欲しかった筈だ。


逆に湯浅さんは近接戦闘なんてしたく無いから遠距離系の《魔法使い》を望んだ筈だ。


これで解かった、あの女神イシュタルは凄くいい加減なんだ。


そして、多分思った程の力は無い。


風の噂で既に同級生から死人が出ているという話を聞いた。


なんて無責任なんだ...自分達の世界で勝てない魔王と戦わせるなら、もっと底上げしろよ。


少なくとも最初から、人類相手に負けるような能力にするな。



日本は平和で安全な国なんだ。


その国から連れ出して危ない事させるなら、あんなジョブやスキルじゃ足りない。


最初から無双出来る様にしろよ。



全ての人間が敬う様にしろ、王ですら教皇すら逆らえない権力を与えるべきだ。


だってそうだろう?


この世界の人間が出来ないから、呼んだんだろう。


ならば、全てを寄こすべきだ。



もし教皇が全ての王が口を揃えて《異世界人は神に等しい》とか《女神に一番近い》そう教えていたら、この世界は一神教こんな事は起きなかった。


魔族に負けるのは仕方ない...だがこの世界の人間が傷つけるのは可笑しい。


そんな事が起きないように女神なら手を打つべきだ。



僕は...女神イシュタルが嫌いになった。



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