第211話 アンチマジック


 それにしても考えれば考えるほど、意味が分からない魔法だな。

 名前だけで想像するなら、魔法に対抗するための魔法――防御魔法のような感じもあるが、実際どんな魔法なのかは分からない。

 【アンチマジック】について自分なりに色々と考えていると、考えがまとまる前に修練部屋へと辿り着いてしまった。


「まずは魔法の簡単な説明から入るぞい。【アンチマジック】は対象者の魔法を打ち消す魔法じゃ」

「やっぱり防御魔法なのか。効果も想像していた通りのものだが、そんな魔法が俺に使えるのか?」

「理屈自体は簡単だからのう。質問なんじゃが、お主が魔法を使ってみた感想はどうじゃった?」

「バランスを取るのが難しいというのを一番感じた。魔力の放出をし、その魔力を留めながら、手のひらという一点に集める。まずこの作業だけでもかなりの集中をしなけりゃできない動作だ」


 慣れてないというのもあるだろうが、それにしても想像の何十倍も気を使わなくてはいけない。

 コツさえ掴んでしまえば、スキルのように楽々と放てるようになると思っていたが、そんなに甘くはないということが前回で一番感じたこと。


「そこから更に、一点に集中させた魔力を留めながら、魔法の詠唱を行い――対象物に狙いを定めなくてはいけない。戦闘中ならば、その対象物は動き回るだろうし、イレギュラーなことも起こりうるからな。正直、激しい戦闘の中で使えるようになるビジョンが、俺にはまだ見えないってぐらいに繊細なものに感じた」

「そうじゃな。バランスを取るという作業は魔法を扱うにおいて、一番重要といっても過言ではない。だからこそ、偉大なる魔術師は幼少期から魔法に触れて、体を動かすように魔力を動かせるようになっていた人が多いのじゃ」


 それからペラペラと、魔法についてと歴史を語り始めたゴーレムの爺さん。

 ゴーレムについてもそうだったが、好きなものになると周りが見えなくなるほど熱中する性格のようだな。

 俺は半分ほど聞き流しながらもその話を聞き、本題へ移るまで適当に相槌を送る。


「――とまぁ、魔法における大事なことは絶妙なバランスということは分かったかのう」

「ああ。魔法を使っているのを体感した時から分かってる。……それで、絶妙なバランスが大事だからなんなんだ? 【アンチマジック】の魔法については見えてこない」

「お主は察しが悪いのう。絶妙なバランスが必要ということは、少しでも狂ってしまえばどんな熟練の魔導士だろうが魔法を放つことはできないのじゃ。つまり【アンチマジック】は――」

「防御魔法ではなく、対象者の魔法の発動を防ぐ妨害魔法ってことか?」

「ふぉーほっほ。まさしくその通り」 


 理論は理解できたが、発動自体を防ぐ妨害魔法……。

 正直全てを聞いても尚、俺にできる気がしてこないんだが。


「理論、理屈は分かったが、それを俺が実行できるのか?」

「できるかは分からんが、できる可能性があるってところだろう」

「可能性があるなら、早速試したい。【アンチマジック】の詠唱を教えてくれ」

「詠唱なんてないわい。【アンチマジック】は言わば、ただの魔力を相手にぶつけるだけ。魔法使えない相手だったり、失敗をすれば何の意味もない行為とも取れる魔法じゃ」

「は? ……それって魔法って呼べるのか?」

「当たり前じゃろう。十二分に立派な魔法じゃ」


 ただの魔力をぶつけるだけの魔法。

 簡単に説明するなら、段階を踏んで手のひらに留めた魔法をそのまま放出するということだよな?


 難易度だけでいえば、途中で詠唱を挟む【ファイアボール】よりも簡単な魔法。

 この説明を聞くだけだと、今度はゴーレムの爺さんが扱えない魔法とは到底思えなくなった。


「なんでそんな簡単な魔法なのに、爺さんは使うことができないんだ?」

「相手の魔法を妨害する魔力を放たなければいけないからじゃな。相手の魔力量と魔力の質に合わせて、こちらも魔力を放たなければ成立しない。魔法に慣れてしまうと魔力の量は合わせることができても、魔力の質の部分は無理と言えるほど不可能なんじゃよ」


 質の部分に関しては、長年の積み重なった経験が逆に邪魔をするというわけか。

 剣術にも通じる部分があるため、スッと頭には入ってきた。


「初心者はどの色にも染まっていないから、逆にどの色にも染めやすいってことだな」

「上手いこと例えるのう。正にその通りじゃ。魔力量の調整と質を変化させる練習法に関しては、ワシが教えるから安心せい」

「そういうことなら頼む。できる限り急ピッチで習得したいから、分かりやすく手短に頼むな」


 なんとなく習得できそうに思えるし、習得できれば大幅に俺自身の強化になる。

 魔法使い相手の対策はずっと曖昧だったし、この【アンチマジック】は魔法使い相手の対策としてはドンピシャ。


 俺は【魔力感知】のスキルを持っているため、魔力の量と質を合わせるという行為も有利に働くはずだ。

 ワクワクする気持ちを我慢できず、俺はゴーレムの爺さんに注文をつけ、早速【アンチマジック】の練習に取り掛かったのだった。

 

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