第181話 焦り
「いやぁ! 本当にボルスさんに声を掛けてもらって良かったな!」
「だな。エデストルに詳しい人物と仲良くなれただけで儲けものだ」
「しつこいようですが、『ペコペコ』のワイバーンステーキは凄かったですね!」
「あれは本気でビビった! 口に入れた瞬間に衝撃が走ったぜ!」
「俺も生きてきた中で一番美味しいと感じた料理だったな」
ワイバーンが特別に美味いのか。それともドラゴン種は、総じて肉が美味しいのか。
どちらかは分からないが、後者なのであれば……食べるという目的だけで、ドラゴン狩りを行いたいくらい美味かった。
ワイバーンは、ドラゴン種の中では最底辺に近い魔物だからな。
もっと上位のドラゴンなら、もっと美味いのではと想像が膨らんでしまう。
「とりあえず明日からガンガン依頼をこなしていこう。依頼の方も順調だったからな」
「だな! 早く帰って寝ようぜ! 初日っていうのもあって、あまり動いてないけどかなり疲労が溜まってるわ」
「…………あの、私寄りたい場所があるので、二人は先に帰って貰ってもいいですか? もう夜も遅いので寝てしまっても構いません」
『ゴラッシュ』への帰路についている道中、突然そんなことを言い出したヘスター。
どこに行くのかも検討がつかず、思わず首を傾げてしまう。
「寄りたい場所? こんな時間からか?」
「明日でもいいかとも思ったのですが、早めに顔を出して損はないと思いまして……」
「一体どこに行くんだよ! 店なら色々と回っただろ?」
「フィリップさんのところです。エデストルでお店を出しているようなので」
フィリップ……?
…………あー。ゴーレムの依頼を出した爺さんか。
パッとは思いつかなかったが、確かにはるばるエデストルからやってきたと言っていたような気がする。
ヘスターはゴーレムの爺さんに弟子入りし、中級魔法を会得したんだもんな。
「そういえば、エデストルからやってきたと言ってたもんな。これから挨拶に行くのか」
「はい! あの時は時間が限られていましたので、中級魔法までしか教えてもらえませんでしたが……。もっと応用の効く魔法や、上位の魔法を教えてもらえる可能性もありますので、早めに挨拶をしておきたいと思っていたんです」
「俺も思い出した! ヘスターに中級魔法を教えたあの人か! それなら行ってもいいんじゃないか? この時間までその店がやってるとは思えないけどよ!」
「そうだな。ヘスターの成長に繋がるのであれば、少しでも早く挨拶に行ってきた方がいい」
「ありがとうございます! それでは、フィリップさんのお店に顔を出してきますね」
「ああ。俺達も日を改めて店に顔を出すから、会えたならよろしく伝えておいてくれ」
「分かりました! 伝えておきます」
こうしてヘスターは、俺達と分かれてフィリップの店へと向かった。
あまり意識はしていなかったが、ヘスターの師匠でもある爺さんがエデストルにいるのは大きいかもしれない。
中級魔法を覚えてからのヘスターは、目に見えて強くなったのが分かったし、もし仮に上級魔法を習得することができるのであれば……。
ヘスターにとって、これ以上の成長はないと思う。
「……ラルフ、ちょっと焦ってるか?」
「ちょっとどころじゃねぇわ! ゴーレムの爺さんのこと、完全に忘れていたからな。ヘスターは爺さんに魔法を、クリスは大森林で新たな毒草を、スノーはなんか勝手にどんどん強くなるし……正直かなり焦ってる」
ヘスターを見送ってから、ラルフが喋らなくなったから尋ねたのだが、やはり焦りを覚えていたようだ。
ラルフの師匠であるレオンは……もういないし、俺やスノーのように自力で強くなるか新たな師を見つけるしかない。
「相談には乗るから気軽に話してくれ。まぁ、もうタンクとして特化し始めたから、戦闘に関するアドバイスはもう無理だけどな」
「クリス、ありがとよ! 俺も二人やスノーに負けないように全力で鍛えるから、期待はしてくれていいぞ」
「安心しろ。俺はラルフに期待しかしてない。――最強の冒険者になるんだろ?」
「ああ!」
人通りがまだ多い夜のメインストリートを歩きながら、男二人で軽く拳をぶつけた。
この様子なら、俺が何かしなくても自力で方法を模索してくれるはず。
焦りすぎないかだだけが少し心配だが、その時は俺がストップをかけてあげればいいだけだ。
そんな俺達を不思議そうに見ているスノーを連れ、俺達は宿屋『ゴラッシュ』へと戻ったのだった。
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