第155話 本気
迂闊に近づけない雰囲気がカルロから放たれているため、下手に動くことができない。
警戒しつつ、じりじりと距離を詰めながら言葉を返す。
「お前の部下なんかになるわけないだろ。……負けそうだからって命乞いのつもりか?」
「命乞い? あーはっはっは! 俺はなぁ、スキルを封印して戦ってやってたんだよ!! 簡単に殺してもつまらねぇからな! 誘いを断るってんなら別にいい。少々もったいねぇが、俺は従順で使える奴しか求めていない」
――かなり嫌な予感がする。
この有毒植物で肉体能力を強化し、オンガニールによってカルロには勝てるだけの強さを手に入れたつもりでいたが……。
更に能力を上げてくるのだとしたら、かなりまずい。
「ラルフ、ヘスター! 一気に殺しにいくぞ!」
「了解! ここまでは順調そのものだが……俺もなんか嫌な予感がする!」
「私は魔法でアシストします!」
二人の賛同を得てから、カルロが何かを仕掛けてくる前に一気にトドメを刺しに向かう。
下手に攻撃を仕掛けてはいけないと本能が叫んでいるが、このまま好きやらせる方がまずい。
ラルフと横並びで、俺は一気にカルロに向かって突っ込んでいく。
間合いまで入り込んだ瞬間に、ラルフが【守護者の咆哮】でカルロの気を惹く。
その瞬間に俺が渾身の一撃を叩き込むという――事前に決めていた必勝の戦法。
二人で一気に距離を詰めていき、不敵に笑うカルロに近づいていく。
そして、俺の間合いに入った瞬間にラルフがスキルを発動させた。
「【守護者の咆哮】」
強烈な存在感を発揮するラルフに、カルロの視線が釘付けになったのを確認し、俺も一気にスキルの重ね掛けを行う。
【剛腕】【戦いの舞】【疾風】
【剛腕】で一撃の威力を増加させ、【戦いの舞】を腕に集中させて更に倍増。
一度、解除させていた【疾風】を再びかけ直し、攻撃面では最強のスキルの発動が完了。
ラルフに意識が向いているカルロ目掛け、渾身の一撃を振り下ろした。
「残念だったなぁ! 【肉体鎧化】」
ラルフの方向を向きながらも、攻撃を仕掛けた俺にそう言ってスキルを一つだけ発動させたカルロ。
……ただ、発動させたスキルが一つだけなら関係ない。このまま体を両断してやる。
俺は気迫を込め、腹から発声しながら力を込めて剣を振り下ろした。
剣は肩口に刺さり、このまま振り下ろし切ることができれば、体を斜めに両断することができる――はずだったのだが……。
俺の振り下ろした鋼の剣はカルロの肩を数センチだけ裂いたところで、根本辺りからポッキリと折れた。
刃の部分は宙を舞い、俺の手元には刃の折れた鋼の剣のみが残る。
手ごたえは完璧、スキルも乗った一撃は確実にカルロを斬り裂くことができていたはず。
……ただ、細身とはいえ鋼の剣よりカルロの体の方が硬かった――なんてあり得るのか?
「いい攻撃だったぜぇ! 惜しかったなぁ! 【能力開放】【脳力開放】【身体能力向上】」
更に三つのスキルを発動させたカルロは、禍々しいオーラ身に纏わせて、剣を振り下ろした状態で固まっている俺に凶悪な殺気を放ってきた。
「【ヘビースマッシュ】」
その直後に飛んできた、クラウスの【セイクリッド・スラッシュ】と似たスキルでの一撃。
左腕に黒紫のオーラを纏わせ、俺の顔面へと迫ってくる。
時がゆっくりと流れているかの如く、カルロの表情から辺りの風景まで見えているのだが、体が全く反応しない。
――そんな状況の中、俺の頭に浮かんできたのはアルヤジさんの顔。
【外皮強化】【鼓舞】【戦いの舞】【威圧】【魔力感知】
【痛覚遮断】【生命感知】【知覚強化】【鉄壁】【要塞】
俺が持っている使えそうなスキルを全て同時に発動させ、なんとか両腕をカルロの一撃の間に割り込ませる。
おおよそ同じ人間が放った一撃とは思えないほど、強い衝撃が両腕にのしかかった。
体が宙に浮きふっ飛ばされたが――複数のスキルの同時発動により、なんとかダメージは最低限に抑え込んだ。
地面を何度も跳ねながらも、受け身を取り続けて体勢を立て直す。
【知覚強化】【知覚範囲強化】が発動しているお陰で、地面を転がる俺を見ながら殺したと確信するカルロのニヤケ面と、ふっ飛ばされた俺を心配そうに見つめるラルフとヘスター姿がはっきりと見えた。
……大丈夫だ。【ヘビースマッシュ】はまともに食らったが、致命傷は負っていない。
心の中でそう呟いてから、俺は勢いが止まった瞬間にホルダーからヴェノムパイソンのポーションを二本取り出した。
一本は一気に全て飲み干し、もう一本は全身にかかるようにふりかける。
これでスキルも複数重ね掛けしている上に、ポーションによる強化もかかった。
恐らくだが、スキルを重ね掛けしたあの状態のカルロの攻撃は、ラルフでも止めることはできない。
ヘスターの中級魔法も足止め程度にしかならないとなれば……。
強化ポーションによる能力上昇、スキルの複数の重ね掛けに加えて――最後の切り札を切るほか勝ち目はない。
さっきアルヤジさんの顔が浮かんだ瞬間に、スキルの複数同時発動とこの切り札の使用を俺は決断した。
以前アルヤジさんが、このスキルがなんなのか理解できないと、体を震わせながら俺に話してくれ――身体能力の低いアルヤジさんが、あのレオンを殺しかけたというスキル。
――【狂戦士化】。
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