【完結】追放された名家の長男 ～馬鹿にされたハズレスキルで最強へと昇り詰める～

第154話 不気味な笑み

　叫んでから、正面切ってから攻撃を仕掛けてきたカルロ。

　腕を引き絞り、とてつもない速度で俺の下へと突っ込んできたと思いきや――目の前で止まり急旋回。

　俺の背後で魔法を放つ準備をしているヘスターに向かって、殴りかかりにいった。

　このままだと、カルロの一撃によってヘスターが殺される訳だが……。

「【守護者の咆哮】」

　俺の横に並んでいた最短距離でカルロの前に立ち塞がり、【守護者の咆哮】を発動させた。

　先に後衛を潰そうという狙いだったのだろうが、カルロの意識は【守護者の咆哮】によってラルフだけに向けられる。

　カルロは無理にターゲットを変えるようなことはせず、本能の赴くままにラルフへと放たれた渾身の一撃は、ラルフの持つ鋼の盾によって完璧に防がれた。

　……本当に完璧な防ぎ方だな。

　正面からまともに受けに行く訳ではなく、威力を後ろに逸らすように角度を考えて防いでいる。

　あまりの手ごたえのなさから、戦闘中にも関わらず防がれた拳を何度も確認しているカルロ。

　笑顔も消え去っていることから、今の防がれ方にかなりの違和感を覚えている様子。

　次は――俺の番だ。

　【肉体向上】

　【肉体向上】のスキルは発動させてから、自身の拳を気にしているカルロに斬り裂きにかかる。

　動きと反応を見る限りでは、俺よりも大幅に身体能力が上回っているため、【肉体強化】のみじゃ簡単に防がれるだろうが……。

　【疾風】

　間合いへと入った瞬間に【疾風】のスキルを発動させ、更に攻撃を速度を一段階上昇させた。

　羽が生えたのかと思うほど軽くなった体を全力で動かし、近寄る俺に拳を放って反撃しようとしてみせているカルロの腹部を、すれ違いざまに深々と斬り裂いた。

　筋肉の鎧で守られていた体だが、スキルをかけていたお陰で深くまで刃が入った。

　振り下ろした訳ではないため、見た目以上にはダメージは入っていないだろうが十分だ。

　俺は勢いそのままにヘスターの下まで駆け抜け、盾を構えたラルフが駆け抜けてきた俺の前へと立った。

　ヘスターは長杖を構えたまま更に後ろへと下がり、初期陣形を組み直す。

　一方のカルロはというと……俺に斬られた脇腹を押さえてから、手にべっとり付着した血を見て――不気味に口角をあげた。

「なんなんだてめぇらは！！　……おもしれぇ。おもしれぇよ！　雑魚の癖に攻撃を防ぎ、そっちのお前は俺を斬り裂きやがった！　いいぜ、もう少し見せてみろよ」

　そう呟いたと同時に、芸もなく再びラルフに向かって正面から突っ込んできたカルロ。

　右腕さえあれば、もしかしたらラルフの固い壁を突破できたかもしれないが、片腕しかないことで攻撃が左半分に限定。

　いくら速く重い一撃だろうと、左腕からしか攻撃が飛んでこないとなれば――ラルフが防げない攻撃はない。

　俺はラルフの後ろに張りつき、隙を見てはカルロにダメージを加えていく。

　攻撃が防がれれば俺の攻撃、一歩下がって間合いを取ろうとすればヘスターの魔法。

　カルロ目線だと、どう動いても八方塞がりで勝ち目はないようにしか思えないのだが……。

　なぜか攻撃を受ける度に口角は徐々に吊り上がっていき、実に楽しそうに俺とヘスターの攻撃を受けている。

　体の正面は俺が斬り裂いた無数の切り傷と、ヘスターの魔法によって皮膚が爛れるほどの酷い火傷。

　動きも徐々に鈍くなっていくのが分かり、警戒も杞憂に終わってあっさりと決着がつくと思ったのだが――。

　カルロは動きを止めると、ヘスターの【フレイムアロー】を完全に無視して一気に距離を取り始めた。

　体はボロボロ。血も相当な量流れているが、一番の笑顔を見せたあとにカルロは“スキル”を発動させた。

　……確かにずっと気になってはいた。

　カルロがスキルを発動させたのは、酒場で俺を見たときの【観察眼】と、酒を飲んでいた時から使っていた【気配遮断】【隠密】の二つのスキルを解除しただけ。

　つまりは、スキルを何も使用していない素の状態でカルロは戦っていた訳だ。

　素の状態でこれだけの強さを誇っているため、もしかしたら戦闘スキルがないのかと思ったが……。

　この顔を見る限り、今までは手加減のためにスキルを使わずに戦っていた様子。

「【自己再生】　――いやぁ、マジでつえーよ。お前ら！　仕事柄色々な奴と戦ってきたがかなりの上位に入る！　……なぁ、俺様の部下になるなら見逃してやってもいいけど、どうするよ？　俺の組織は、王都じゃ一番の組織って言われているから悪い話じゃねぇと思うぜ？」

　スキルを発動させた瞬間、俺とヘスターがつけた傷がじわりじわりと回復していくのが分かった。

　傷が回復する前にトドメを刺しにいきたいが、下手に攻撃を仕掛ければ即殺される。

　そんな嫌な空気が流れ出ていた。