第142話 新たなスキル


 怪鳥のオンガニールの実を回収してから、約一週間が経過した。

 先日、ようやくヘスターが魔法の特訓を終え、パーティへと復帰したことでゴールドランク帯の依頼をこなす日々を過ごしている。


 ヘスターの中級魔法は凄まじく、ゴールドランク帯の魔物でも約二、三発で倒すことのできる超高火力。

 更に初級魔法の時から取り組んでいた、命中ではなく威力の高い魔法を使うということが影響しているのか、その猛威をいかんなく振るっていた。


 ラルフもレオンから教えてもらった経験を活かし、アタッカーとしての動きがより良くなり、単純な攻撃力も増しているように思えるのだが……。

 晴れやかな表情をしているヘスターと対照的に、どこか浮かない表情をしているのが目に付く。


 中級魔法を覚えたヘスターに対して、何かしら思うところがあるのかもしれない。

 俺から言わせてもらえば、ラルフも十分すぎるほどの成長を遂げていると思うのだけど、直接それを伝えてもラルフの表情が変わることはなかった。


 そして、俺はというと……怪鳥から採取したオンガニールの実で新たに二つのスキルを獲得した。

 一つ目は【戦いの舞】。二つ目が【聴覚強化】。


 二つとも通常スキルに分類される、自発的にスキルを発動させるタイプのスキル。

 【戦いの舞】は、怪鳥が行っていたあの変な踊り。

 体を震わせることによって、【肉体向上】と同じく能力を上昇させることができるスキルなのだが、面白いのが震わせた部位に能力上昇を全て注ぎ込めるという点。


 全身を震わせたのならば、平等に強化が行き渡って【肉体向上】の下位互換の能力上昇があり、腕だけを震わせたのであれば腕だけに大効果の能力上昇が乗る。

 更に限定させ、左腕だけを震わせたのであれば、左腕に全ての能力上昇効果が付与されるという訳だ。


 【戦いの舞】は使い勝手もよく、非常に面白いスキル。

 スキル発動させてから、体を震わせなくてはいけない点だけがネックだが、それを鑑みても非常に有効的なスキルとなっている。


 二つ目の【聴覚強化】は、その名の通り聴覚を強化するスキル。

 怪鳥のように、音だけで位置を特定できるというほどではないが、スノーと同等くらいには耳がよくなる。

 

 不意を突かれることもなくなるだろうし、戦闘中に使えば細かな変化も察知することができるのはかなり強み。

 ただ【要塞】ほどではないが体力の消費が大きく、体力の限られている中では、使いどころは限定されるだろうけど……こちらも全然使えるスキルだと言える。


 スキルに関してはこんなもので、あとは能力上昇に関してだが、体力が8、筋力が6、耐久力が5、魔力が1、敏捷性が9と、かなり満遍なく上昇する実となっていた。

 実の味は言わずもがなで酷い味だったが――グリースの実よりかは全然食べることのできる味。

 

 ……と、俺の近況はこんなものだろうか。

 オンガニールのお陰で急激な成長を遂げることができており、有用なスキルに加えて能力の大幅な上昇。


 このまま無事に成長していければ、近い将来必ずクラウスに追いつくことができる。

 そう確信が持てるくらい、オンガニールの能力が凄まじい。

 そんなことを考えながら冒険者ギルドへと向かっていると、ヘスターが話しかけてきた。


「クリスさん、今日は何の依頼を受ける予定ですか?」

「北東の山林地帯に生息する、レッドコングの討伐依頼を受けようと思ってる」

「レッドコングって……。確か、特別報奨金がかけられている魔物でしょうか?」

「俺も何度も見たことあるぞ! 推奨討伐ランクプラチナの魔物だろ? 追加の報奨金も合わせて、白金貨五枚の超高額依頼!」

「ああ、そのレッドコングの依頼を受けるつもりだ。昨日は休暇にしたのも、レッドコングを倒すために万全の体調を整えるための休暇だ」

「なら、事前に言ってくれよ! 色々買い出しとか行きたかったわ!」

「買い出しなんていらないだろ。回復ポーションは買ってあるしな。それに……仮に伝えていたとしたら、確実にお前ら自主トレしてただろ?」 


 図星だったのか、下手くそな口笛を吹きながら二人ともそっぽを向いた。

 意識が高いのはいいことではあるが、時には体を休めることも大事。

 特に強敵との戦闘前はな。


「でも、プラチナランクの依頼って受けられるんですか? 私達、まだゴールドランクですよね?」

「副ギルド長に聞いてみたら許可をくれた。レッドコングの被害が大きく、特別報奨金を設けたはいいものの……依頼を受けてくれる人が一人もいなかったみたいだからな」

「そりゃ……。唯一のプラチナ冒険者を俺達が始末しちまったもんな!」

「そういうことだ。俺達が受けなければ誰も受けないままだったということもあって、実績もあることから許可を貰うことができた」


 副ギルド長と仲良くなって良かったと常々思う。

 色々と融通を利かせてくれるし、様々な情報も教えてくれるからな。


「そういうことでしたら、依頼を受けることに関しては何も問題ないんですね! ……実力的な方でいったらどうなんですか?」

「かなりの強敵だとは思うが、今の俺達ならいけると思ってる。レッドコングは、火属性の攻撃を中心に近接戦を得意とする魔物。俺が攻撃を全て抑え込み、ヘスターとスノーで水か氷属性で攻撃を加え、ラルフが斬撃ダメージを与えてくれれば……問題なく倒せるはずだ」

「へー! 戦い方としてはゴーレムに近い感じか?」

「そうだな。強化版のゴーレムみたいな感じで考えていいと思うぞ」


 今戦う魔物かどうかかなり微妙ラインで、ここ一週間ずっと頭を悩ませていた依頼なのだが……。

 ヘスターの中級魔法の威力を見て、俺はいけると確信を持つことができた。

 

 倒すことができれば白金貨五枚に加えて、一気にプラチナランクに近づくことになる。

 それになんといっても……オンガニールの宿主とするのに最適な魔物。

 

 北東の山林地帯は、東のカーライルの森から近いため、運び込むのにそこまで苦労しないはず。

 心臓を潰さないように戦わなくてはいけないという縛りが生まれる訳だが、俺が完璧に押さえこめれば、その条件も苦なくクリアできる。


 ということで俺達は、レッドコングの討伐のため依頼を受注してから北東の山林地帯を目指すこととなったのだった。

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