第140話 驚きの効能


 このドヤ顔を見るに、何の成果もなかったということはないはず。

 良い結果が出たのだとしたら、刃に塗りたくって使うしか方法のなかったヴェノムパイソンの毒を、更なる有効活用ができるかもしれない。


「なんだそのドヤ顔。もしかして良い結果だったのか?」

「うっへっへ。気になります? 気になりますよね!? ……でも、クリスさんは私に意地悪したからなぁ。どうしようかな、教えるのやめちゃおうかなぁ!」


 ちらちらと俺を見ながら、そう煽ってきたヘスター。

 ……くそっ、本当に面倒くさいな。


「別に教えなくてもいいが……。そうしたらジンピーのポーションの生成も今後頼まないし、今回の件で全て手打ちにするがいいか?」

「じょ、冗談に決まってるじゃないですか!! そんな怖い顔で脅さないでくださいよ!!」

「なら、早く結果を教えてくれ」

「ぶー! 少しはノリに付き合ってくれてもいいのにー! ……実はですね、あの渡された毒――クリスさんの言っていた通り、身体強化の効能を持っていましたよ!! いやぁ、これまで毒なんて扱っていなかったんですけど、“薬と毒は表裏一体”。よくできた言葉ですねぇ!」

「どういうことだ? 身体強化の効能があった……?」


 シャンテルの唐突なその言葉に、俺は両手で肩を持って問い詰める。

 確かにシャンテルには、身体を強化させる効能を持っている可能性があるとは話したが、ちゃんと調べてもらうためについた嘘のようなもの。


 実際に、能力判別では能力値の上昇は確認できなかったからな。

 だとすれば……神父の能力判別ができていなかった?

 いや。そっちを疑うのであれば、まずシャンテルの方を疑うべき。


「伝えた通りですよ! 調査を依頼された毒に、身体能力を上昇させる効能があったんです! もちろん――それを凌駕する痺れ作用や呼吸不全、幻覚や痙攣の毒も検出されましたけどね!」

「毒の方はどうでもいい。身体能力の大幅上昇について、俺に詳しく教えてくれ!」

「な、なんか今日のクリスさんは激しいですね! ……私もなんだか興奮してきました!」

「いいから説明しろ!」

「ぶー! ノリに付き合ってくださいよ! ……えーっとですねぇ。一時的に筋力量が増加する成分が含まれているみたいです! 私は作ったことないんですけど、強化ポーションに近いものだと思いますよ!」


 強化ポーション……。

 俺も実物は見たことないが、一時的に身体能力を強化させるポーション。


 あくまでも“一時的”であり、ゲンペイ茸やリザーフの実といったものとは全くの別物。

 その代わり、大幅な強化が期待ができるらしく――クラウスの話題にも出ていたエデストルのダンジョンでは、最後の切り札的な役割を担っているようで、超がつく高値で取引されている代物だ。


 その強化ポーションと似たような効能が、このヴェノムパイソンの毒から検出されたのか。

 一時的にだとしたら、能力判別でも識別されなかったのは納得。


 それに……緊急依頼でヴェノムパイソンの毒を浴びた時、肉体が強化されたような感覚があったのもこれで納得できる。

 一匹目のヴェノムパイソンは一撃で両断できず、囲まれた時のヴェノムパイソンは両断できていたしな。

 ゾーン状態による影響かとも思っていたが、これなら辻褄が合う。


「その話が本当なら、このヴェノムパイソンの毒もポーション化して欲しんだができるか?」

「もっちろんです! ……というか、一本試作で作ってあります! クリスさん、高く買ってください!!」

「高くは買わない。けど、ジンピーのポーションのように定期的に依頼するかもしれない」

「ちぇっ、やっぱ高くは買い取ってくれないかぁ……」

「とりあえず本当に助かったわ。研究費用として金貨二枚と試作のポーション代だ」

「き、金貨二枚!? わぁーい、やったああああ!」


 飛び跳ねて喜ぶシャンテルから、俺は金銭と引き換えにポーションを受け取る。

 色は無色透明。水だと言われても気づかないが、れっきとした毒ポーション。


 早く帰って試してみたいが、一本しかないため取っておくか。

 依頼の時は持ち運び、危険な場面で使うようにしたい。


 残りのヴェノムパイソンの毒も限られているし、ヴェノムパイソン自体この付近には生息していないから、慎重に使っていかないといけない。

 強化毒ポーションを大事に抱え、俺は『旅猫屋』を後にして家へと戻ったのだった。

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