第134話 師事


「なぁ、アルヤジ。俺に指導をつけてくれないか?」

「…………え? 僕がですか!? 僕に教えることなんて何もないと思いますけど。戦闘技術ならレオンさん。遠距離攻撃ならジャネットさん。魔法、回復術ならジョイスさん。さっきも言いましたけど、僕は弱いと言われれば弱い程度の実力ですからね?」

「それで構わない。頼む、アルヤジに指導をお願いしたい」


 俺が頭を下げたことでアルヤジだけでなく、他の【銀翼の獅子】の面々も驚いたような表情を見せた。

 

「本人も言っているが、アルヤジは指導ってタイプじゃねぇと思うぜ! ラルフとまとめて俺が指導してやるから安心しろ!」

「いや、俺はレオンに指導を受けるよりも、アルヤジに教わった方が強くなると思った。……だから、アルヤジ。指導をつけてくれ」


 再び頭を下げてのお願い。

 アルヤジは困ったような表情を見せたが、俺が本気だということを悟ったのか、渋々ながら頷いてくれた。


「……分かりました。そこまでお願いされたら、断ることはできません。クリス君の指導は僕がつけます。合わないと思ったら、すぐに他の人に指導をお願いしてくださいね」

「ああ。本当に助かる」

「…………やっぱクリスは変わってんな! アタシやレオンじゃなくて、アルヤジに師事するなんてさ!」

「確かにそうですね。でも逆を言えば、アルヤジさんの強さに気が付いたということでもありますから……。やはりセンスはあるんじゃないでしょうか」

「そうかもしれねぇな! 伊達にラルフやヘスターが慕っている訳じゃなさそうだ! ちーっと生意気だが、この若さにしては腕も立つしな!」


 俺はアルヤジに指導をつけてもらうことになり、そのことに対して【銀翼の獅子】の面々が各々感想を述べている。

 ラルフは前回同様、レオンに師事してもらうことになり、手持ち無沙汰となったジョイスはレオンのサポート。

 ジャネットは、アルヤジのサポートに回ることになったようだ。


「さて、クリス君はなんで僕に指導してもらおうと思ったんですか? どのような稽古をつけるかどうかの参考にしたいので、是非教えてもらえると助かります」

「そうそう! 普通ならレオン一択だろ! ド派手だし、つえーし、かっこいいしな!」

「俺は別にかっこよさを求めていないからな。純粋な強さを求めた時、アルヤジに指導してもらうのが一番の近道だと思った」

「うーん……。具体的に教えてもらってもいいですか?」

「まずは戦闘中における視野の広さ。それから体捌き。あとは――スキルの使い方」


 ラルフとの一戦を見て、背丈も小さく身体能力もさほど高くないアルヤジに、言い知れぬ強烈な強さを感じた。

 根拠もなしに、絶対に負ける未来がないと思うほど――。


 それが戦闘中の視野の広さなのか、背後を取られていながらも三連撃を食らわせることのできる体捌きなのか、はたまたスキルの使い方なのか。

 どれかは分からないが、どれにせよ俺が大きく成長するための重要な要因になるはず。


「うーん、ピンとこないな! 視野ならアタシの方が広いし、体捌きならレオンだろ! まぁスキルの使い方はアルヤジだろうが……。スキルなんかに使い方なんてねぇだろ!」

「…………ジャネットさん。ちょっと向こうのサポートに行ってもらえますか? クリス君には僕一人で指導します」

「はへ? どうした? 急に」

「少し気が変わったので、お願いします」


 何故かジャネットを追い出し、俺と一対一の状況にしたアルヤジ。

 先ほどまでの穏やかな目ではなく、少し気合いの入った様子に代わっている……気がする。


「さて、うるさい人がいなくなりましたので、少し僕の話からしましょうか?」

「……結構毒吐くんだな」

「事実ですからね。僕は何度も言った通り――強いと言われれば強く、弱いと言われれば弱いです。この言葉の意味が分かりますか?」

「能力値は低いってことか? 強者ではあるが、レオンと比べると明確に弱いのが分かる」

「見事ですね。正解です。僕は敏捷性以外は、さほど能力値が高くありません。……ですが、代わりにスキルを十八個持っているんです」

「十八個? 全て『天恵の儀』で授かったのか?」

「そうですね。決して高いといえない能力値でしたが、そのスキルの量のお陰でこうして冒険者をできているんです」


 なんとも言えない強さを感じていたが、それはスキルの量によるものだったか。

 底が見えないというかなんというか……上手く言い表せない感覚の正体が掴めた気がした。


「僕が戦闘中に一番注意しているのは、適切なスキルの選択とその切り替えの速度なんです。ですから、僕がクリス君に教えられるのは、スキルに関してのことだけですね」

「十分すぎる。……というか、それが一番教わりたいことだ」

「それなら僕が指導するのはアリですね。早速指導に入りましょうか」


 軽くお辞儀をしてから、早速アルヤジの指導を受けることになった。

 この人は、弱いながらも長所を活かして戦ってきた人。

 いい指導を受けさせてもらえそうだな。


「まずはスキルの発動と解除を練習しましょう」

「発動と解除。発動は普通に発動させればいいんだよな?」

「ええ、そうです」

「【肉体向上】」


 俺は言われた通り、スキルを発動させた。

 【肉体向上】の効果で、一気に体が軽くなり力が漲り始める。


「次にそのスキルを解除してください」

「――解除させた。これでいいのか?」

「はい。この練習をとにかく行いましょう。見ててくださいね。【隠密】――どうですか?」

「確かにオンとオフが早いな。発動したと同時にスキルが切れているレベルだ。……でも、この練習って意味があるのか?」

「もちろんです。スキルほど体力を使うものはないですからね。僕の場合は体力も人並み以下でしたので、十八個のスキルを全て有効に使うという意味で、このスキルの高速発動、解除は必須でしたが……。普通の人にとっても、スキルを自在に操ることは絶対にできていた方がいいです」


 俺もこれからスキルが増えていくと仮定すれば、スキルの発動と解除を自在に操れておいて損はしない。

 【要塞】に至っては、ガードの一瞬だけ発動できるようになれば、大幅に使いやすく超有用なスキルに早変わりするもんな。


 スキルの発動と解除の切り替えが重要だと気が付いた俺は、アルヤジの合図に合わせて、ひたすらスキルを発動させては解除するという行為を続けた。

 アルヤジが拍手をしながら、俺はただ立ち止まっているだけという構図はかなり変だったのか、レオン達の視線を強く感じながらも、必死にスキルのオンオフの特訓を行ったのだった。



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