第133話 模擬戦
オックスターの街を出て、北の平原へと出てきた俺達。
まずは実力がみたいということで、俺がレオンと模擬戦を行うことになった。
互いに木剣で、様子見なしの全力での勝負。
有効打を三発与えるか、戦闘不能もしくはギブアップを宣言した時点で勝敗が決する。
勝てるとは思わないが、せめて一発は食らわせてやりたいな。
二メートルは優に超えている体を伸ばしながら、ウォーミングアップを始めているレオン。
筋肉もそうだが、それ以上に体のバネが凄い。
体格差も考えて戦わなければ、あっという間に負けてしまうだろうな。
「それじゃレオン対クリス君の試合を始めるよ! カウントダウンが終わったら試合開始だからねー! 三・二・一……試合開始!」
狩人のジャネットの合図と共に、模擬戦が開始された。
スタートと同時に飛び込んできたレオンは、力任せに剣を振ってきた。
飛び込みの速度、剣の威力も申し分ないが――受け流せる。
振られた剣に刃を滑らせるように合わせ、俺はレオンの一撃を完璧に受け流した。
剣同士ぶつかると構えていたのに受け流されたせいか、レオンは前のめりにバランスを崩した。
完全に無防備となった背中に、俺は木剣を思い切り叩き落す。
「い”っでぇー!!」
レオンの悲痛な叫びがあがり、あっさりと一撃を食らわせることができたことに、俺はニヤつきながら距離を取ろうとしたのだが――。
突如として脇腹に強烈な衝撃が襲ってきた。
背中を打たれたレオンは、地面に倒れると思いこんでいたのだが……。
右足で踏ん張りきったようで、無茶苦茶な姿勢から一撃を叩き込まれた。
片腕で木剣、しかも手打ちなはずなのに――息が止まるほど強烈な一撃。
思わず脇腹を押さえてうずくまりたくなったが、必死に堪えて距離を取り直す。
「いてて、リーダーだけあって、やるじゃねぇか! マジで良い一撃だったぜ」
「そっちも、ミスリル冒険者なだけあって無茶苦茶だな」
「お褒めの言葉ありがとうよ! だけど……残念だが、ここからはもう一方的な試合だぜ! 【加速】【疾風】【能力解放】」
一気にスキルを発動させると、妙な前傾姿勢を取ったレオン。
そして――。
次の瞬間には俺の視界からは消え去り、背後から二発頭に打ち込まれた。
「へーへっへ! 俺の勝ちだぜ! クリス、まいったか!」
「打ち込まれるまで何も見えなかった。ミスリルだけあって――やっぱ強いんだな」
「クリスも中々強かったぜ。初撃を受け流された時は、一瞬負けがチラついたしな!」
レオンと握手を交わし、模擬戦の感想を言い合う。
最後の攻撃は身体能力とスキル任せで正直芸がなかったが、脇腹に打ち込まれた一撃はミスリル冒険者としての強さを感じた。
まだまだミスリルには及ばないのが明確に分かったな。
「それじゃ次は……。ラルフとアルヤジがやってみるか? ラルフも俺としか模擬戦やったことなかったよな?」
「はい! ……アルヤジさんって強いんですか?」
「強い? 強いと言われたら強いし、弱いと言われた弱いな!」
「ええ。その表現があっていると思います。僕は強いと言われれば強いですし、弱いと言われれば弱いですね」
レオンの曖昧な答えにアルヤジも同意した。
ラルフはそんな返答に首を傾げている。
「よく分かりませんが、まぁどっちでもいいです! アルヤジさん、よろしくお願いします!」
「はい。ラルフ君、よろしくお願いしますね」
レオン以外ははたしてどうなのか。
ラルフも俺との模擬戦で十回に二回は勝つぐらいだし、決して弱くないからな。
この一戦でアルヤジ……斥候の能力等も見れるはずだ。
打ちこまれた脇腹を冷やしながら、俺はラルフ対アルヤジの一戦を見守る。
「それじゃ、俺が今回は審判を務めるぜ! スタートの合図は変わらずだ! いくぜー、三・二・一……試合開始!」
レオンの掛け声と同時に試合が開始されたのだが、アルヤジはその場から一歩も動かず、ラルフの動向を伺っている。
ラルフはアルヤジが出てこないと悟ったのか、地面を思い切り蹴って攻撃を仕掛けにいった。
大きく回り込むように旋回しつつ、攻撃できる隙を伺うラルフのお得意の攻撃パターン。
足の怪我でこれまで自由に動けなかった影響か、空間を大きく使う攻撃方法が好きなラルフは、無駄に駆け回ったり跳んだりする攻撃を好んで仕掛けてくる。
無駄が多いように見えるのだが、意外と対処が難しく厄介なんだよな。
俺はアルヤジ側に立ち、ラルフの攻撃をどう対処するか頭を悩ませていると……。
アルヤジの雰囲気が一瞬だけ変わったのが分かった。
背後に回られても一切ラルフに視線を向けず、死角となる真後ろを取られているのに――何故かアルヤジが負ける未来が見えない。
なぜ俺がこんなことを思ったのかも分からないが……。
俺の想像通り、背後から一気に攻撃を仕掛けたラルフの攻撃は、アルヤジに触れることはなかった。
まるで後ろに目がついているのかと思うほど、完璧なタイミングで頭を下げてラルフの攻撃を躱すと、流れのままで太腿、腹、そして――頭と、攻撃をすかされたラルフに三連撃をくらわした。
「はいー! アルヤジの圧勝だな! ラルフー、もっと慎重にいけって教えたろうが!」
「だ、だって、完全に俺を見失ってたじゃないですか!?」
「見失ってないよな? 完璧にラルフの存在を捉えていたぞ!」
「えー、本当ですか!? だって、俺の方を見てすらいませんでしたよね?」
「目で見てはいませんでしたが、感じてはいました。視線を向けなければ、単調な大振り攻撃を仕掛けてくるだろうなというところまで、僕は予想済みでしたよ」
模擬戦後、そんな会話をしているラルフとアルヤジ。
……傍から見ていたが、俺も何をしたのかさっぱり分からなかったな。
俺の索敵能力の上位互換のようなものか?
適正職業が斥候だし、その可能性はあるだろうが……それにしては、見え過ぎていた気がする。
三人の会話を聞きながら色々と思考してみたのだが、結局答えは出ない。
モヤモヤした俺は、アルヤジに直接聞くことに決めた。
「あの、どうやってラルフの攻撃を予見したんだ? 気配を読むにしても見え過ぎてた気がする」
「見え過ぎていたという感覚であっていると思いますよ。僕はスキルを使っていましたので」
スキル……? いつどこでスキルを使ったんだ?
戦闘中はスキルを使っている様子はなかったし、戦闘前からスキルを使っていたのか?
いや、戦闘前にも使う様子は見せていない。
だとするならば、俺の【毒無効】のように常時発動されるパッシブスキルか……もしかして戦闘中に一瞬だけ様子が変わった時か?
「戦闘中にスキルを使ったのか? 一瞬だけ雰囲気が変わった気がした」
「――おっ! クリス君は相当感覚が良いみたいですね。……正解です。僕はスキルの発動を自在に使い分けられるんですよ」
なんてことないように言った一言に、俺は衝撃を受けた。
スキルの発動の使い分けは、俺が密かに目指そうと思っていた形。
まさか、その使い分けを完璧に行える人がいたとは……。
これは――なんとしてでもアルヤジに指導してもらうしかないな。
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