第126話 プレッシャー
翌日。
昨日は慣れないスキルを使いまくったせいで、久しぶりに体力を使いきってしまった。
ラルフとヘスターに昨日の成果を伝える予定だったが、即座に眠ってしまったため、まだ何の報告もできていない。
大きくあくびをしながら部屋を出て、俺は二人がいるであろうリビングへと向かった。
俺が部屋を出た音を聞きつけてか、スノーが階段下で尻尾を振りながら待ち伏せている。
……スノーも大きくなってきたが、人を襲うような気配がまるでないよな。
魔物でも、人に育てられると気性が穏やかになるのか?
足元を纏わりついてくるスノーを抱きかかえ、そんなことを考えながら俺はリビングへと向かう。
「クリス、おはよう! 昨日はすぐ寝ちゃったみたいだけど、体調でも悪かったのか?」
「いや、疲れすぎて眠ってしまっただけだ」
「疲れすぎて……? 昨日は休養日で能力判別を行っていたんだろ?」
「まぁ色々な。ヘスターが来たら詳しく話すわ」
スノーと遊んでいると、ヘスターが作ってくれた朝食がテーブルに届けられた。
いつもながら、本当に美味しそうな朝食だ。
一度、朝食当番を日替わりで回すということになったんだが、あまりにも俺とラルフの料理の腕がなさすぎて、結局ヘスターに任せきりになってしまった。
ご飯を作るのは楽しいので大丈夫ですよ――といってくれてはいるが、何かヘスターには物で返さなくてはいけないな。
「さて、それじゃ食べましょうか。いただきます!」
「「いただきます」」
食前の挨拶を済ませてから、ヘスターの作った朝食を食べていく。
今日の昼食は、ご飯に味噌汁と焼き魚。
それから、海苔とおしんこという渋いチョイスなのだが……これがまた沁みるのだ。
「それでクリス。疲れた理由ってなんなんだ? ヘスター来たら話すって言ってたけど」
「ああ。昨日、能力判別で分かったんだが、新しいスキルが発現していた」
「スキル!? この間言っていたスキルが身に付く植物の奴か?」
「凄いですね……。本当に新たなスキルが身に付いたんですか」
「そうだな。この間と違って実用的なスキルで、そのスキルの試し打ちを行っていたせいで体力を使い切ってしまったって訳だ」
俺がそう伝えると、二人は目を丸くさせて驚いた表情を見せた。
やっぱり後発的にスキルが身に付くのは、ズルに近い芸当だよな。
……それに加えて、昨日は一気に三つも付与された訳だし。
「それって一体どんなスキルなんだ?」
「【外皮強化】【肉体向上】【要塞】の三種類のスキルだ」
「……は? 三種類? 三つもスキルがついたのか?」
「そうだ。一気に三つも付与された」
「いよいよクリスさんの能力が現実離れしてきましたね。……出会った時は【毒無効】のスキルのみでしたし、適正職業も【農民】。こうなるとは思ってもいませんでした」
「まぁ俺ですら、こうなるとは思ってもみなかったからな」
「――いやいや、おかしいだろ! 勇者なんかよりも馬鹿げた能力じゃないか? 本当にスキルが三つも身につけたのかどうか、俺はまだ疑心暗鬼だぞ!」
興奮した様子でそう叫ぶラルフに、俺は実際にスキルを発動してみせることにした。
「【外皮強化】。ほら、触ってみろ」
「……本当に硬くなってる!」
「だから言っただろ。ここから一気にスキルも身体能力も上げて、俺はドンドンと強くなるからな。……二人もなんとか食らいついてきてくれ」
「正直自信なくなってきたけど、やるしかねぇもんな! 無茶苦茶な成長を見せるクリスにも俺は負けねぇぞ!」
「私も負けません! ……早く中級以上の魔法を身につけなければいけませんね!」
朝食を食べながら、俺は二人に火をつけた。
俺だけ強くなっても、いつか綻びが生まれるからな。
なんとしてでも、二人には強くなってもらわないといけない。
朝食を済ませたあとは、ラルフとヘスターの能力判別を行いに教会へと向かった。
二人の能力値ははたしてどうなっているのか。
俺個人としても非常に気になる情報。
「さっきまで楽しみだったけど、一気に怖くなってきた。能力が全然上がってなかったらどうしよう……」
「大丈夫だろ。【聖騎士】なんだからな」
「【聖騎士】なのに、能力が上がっていないってこともあり得るだろ? クリスが変なプレッシャーかけてきたせいだぞ!」
「別にプレッシャーはかけてねぇよ。強くなってもらわないと困るという事実を伝えたまでだ」
俺は笑みを浮かべ、そうラルフを煽る。
本気で行きたくなさそうにしているが、背中を押して教会に入れると――神父が入口前で出迎えてくれた。
「ようこそ起こしくださいました! ささっ、どうぞ奥の部屋へ」
「ああ。今日もよろしく頼む」
気合いの入った様子の神父についていき、三人で奥の部屋へと入った。
まず能力判別を受けるのはヘスターからのようで、金貨一枚と冒険者カードを手渡してから、水晶の前に腰を下ろした。
「それでは始めさせて頂きます。――ふっ! はああああ! ……終わりました。冒険者カードをお返し致します」
「……ありがとうございます」
ヘスターは、神父の発声に体をビクッと跳ねらせながらも、お礼を言って冒険者カードを受け取った。
入れ替わるようにラルフが椅子へと座ったのだが……。
「あ、あれ? れ、連続でしょうか?」
「連続じゃできない感じですか?」
「…………い、いえ! やります。やらせてください!」
神父の魔力的に少し間を空けないとキツいと思うのだが、伝え忘れてしまっていた。
まぁ神父が大丈夫と言っているなら、大丈夫だろう。
「それではいきますよ。――ふっ! うりぃやあああああ! うぬうううんぬらはあああ!! はぁー、はぁー……。お、終わりました。ご確認お願いします」
今までで一番の声を上げ、魔力を絞り出すように能力判別を行った神父。
顔の血の気も引いて唇も青くなっているが、無事に成功したようだ。
「ありがとうございました」
「い、いえ。ま、たのお越しをお待ちしております」
ぜぇはぁしている神父に頭を下げてから、能力判別の部屋を俺達は後にした。
はたして、二人の能力はどうなっているか……気になるところだ。
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