第120話 オンガニール探し


 カーライルの森でオンガニールを探し始めてから、約四日が経過した。

 森の中を四方八方探し回っていたのだが、今日に至るまで一つも見つかっていない。


 周囲に振り撒く毒、驚異的な繁殖方法、天敵も一切いないように感じたし、至るところで自生していてもおかしくない。

 ……そう思ったのだが、一向に見つかる気配がしない。

 まぁ冷静に考えれば、土ならばどこでも成長できる植物の方が育ちやすいし、コボルトで試して失敗したように、並の魔物では栄養が足らずに育つことがない。


 俺が見つけたゴブリンが奇跡的に栄養を蓄えていたゴブリンだっただけで、このカーライルの森では宿主に適する魔物自体が少ないのかもな。

 オットーがカーライルの森で、オンガニールの記載についてをしなかったのも頷ける結果だ。


 グリースにはしっかり作付したことだし、もう諦めてグリースのオンガニールを媒体に増やしていくことを考えた方が得策っぽいが……。

 当初の予定通り、一週間はキッチリと捜索しようか。


 そんな考えで、今日もオンガニールを探して森を徘徊していると――聞いたことのない奇妙な鳴き声と、その鳴き声の方向から強い気配を感じた。

 ゴブリンとコボルト、たまにラウドフロッグしか滅多に見かけない、このカーライルの森で強者の気配。


 フォレストドールよりも、確実に強いと断言できる圧の強さだな。

 ……となると、討伐推奨ランクはゴールド以上確定なんだが、行ってみるかそれとも逃げるか。


 少し迷った末に、俺は見に行ってみることに決めた。

 最悪、全力で逃げてオンガニールの場所まで駆け込めば、生物なら追ってはこれないだろう。


 気配を悟らないようにし、音を立てずにゆっくりと気配のする方向に向かった。

 鳴き声と気配を頼りに近づいていくと、視界に捉えたのはド派手な色をした大きな鳥の魔物。

 二本足で立ちながら、楽しそうに羽をばたつかせて暴れ回っている。


 足元を見てみると、数匹のゴブリンが転がっており、汚く食い荒らされていた。

 俺よりも大きく、肉食且つ獰猛な鳥の魔物。

 

 そこまで思考を整理したところで――シャンテルがカーライルの森に“怪鳥”がいると言っていたことを思い出した。

 見た目も性格も、正に“怪鳥”と呼ぶにふさわしい魔物だ。

 

 実際に見た感じは危険ではありそうだが、勝てない相手ではないという評価。

 ただ、空を飛ぶ魔物との戦闘経験がないため、そこが唯一の不安要素。


「……でも、ここで逃げる選択肢はないよな」


 四日間の捜索でオンガニールを未だ見つけられず、今日も見つけるに至っていないため、成果がないまま一週間を無駄に過ごすことはなんとしても避けたい。

 怪鳥ならば、オンガニールの宿主としては十分だろうし、普通ならば運び込むのに見つかるリスクがある巨体だが……。

 この場所からオンガニールの場所までなら、誰かに見られる心配もない。


 覚悟を決めた俺は、怪鳥狩りに移ることにした。

 まず最優先でやることは、あの大きな翼を機能させないようにすること。

 空からの攻撃も厄介だし、追い詰めてから逃げられるのも勘弁だからな。

 

 木の裏に隠れながらゆっくりと近づいていき、怪鳥の目の前の木陰までバレずに来れた。

 あとは後ろを向いた瞬間に、一気に襲い掛かって羽をぶった斬るだけ。


 バサバサと翼を広げながら、踊るように歩き回っている怪鳥の隙を伺い――。

 背後を向けた瞬間、俺は一気に飛び出して襲い掛かった。


 狙うは……広げた翼だ。

 力強く踏み込み、翼に向かって思い切り剣を振るう。


 ――ただ、袈裟斬りを行う前に存在を悟られたのか、ジャンプしながら反転してきた怪鳥。

 そのせいで、剣は羽を数枚落としただけで空を切った。

 突きなら命中しただろうが、突きじゃ飛行能力を奪うに至らないから、こればかりは仕方がない結果。


 ジャンプした勢いで、そのまま空を飛んで行ってしまった怪鳥を見送りながら、討伐を諦めていたところ……。

 怪鳥は大きく弧を描くように空を一周したあと、滑空を始めて俺に向かって突っ込んできやがった。


 てっきり逃げ出したと思い、完全に油断していたが――なんとか地面を転がるようにして回避。

 怪鳥は上手い具合に着地し、二足歩行で立ち上がると、俺の方を向きながら羽を広げて威嚇してきた。


 翼を上へと持ち上げ、腹を震わせながら奇声を上げている。

 ……この姿を見る限り、怪鳥と名付けられたのも頷けるな。


 俺はバランスを取り直し、剣を構えていると――今度は走るように地面を蹴り上げながら突っ込んできた。

 よく見れば足の筋肉が異常に発達しているし、足もめちゃくちゃ速い。


 走ってきた勢いをそのままに、前蹴りを放ってきた怪鳥。

 俺はその前蹴りに袈裟斬りを合わせると、まるで剣同士をぶつけたかのような金属音が森に響き渡る。


 …………予想していた何倍も強いぞこいつ。

 見た目も変だし、動きもおかしいがとにかく強い。


 鋭く大きなくちばしに、発達した足と剣に匹敵する硬さを誇る爪。

 更には翼で空を自由に飛び回ることもできるし、俺の不意を突いた一撃を避けた並外れた反射神経。


 討伐推奨ランクゴールドは、優に超える強さだ。

 一度引いて体勢を立て直したいが、こいつの方が足が速い時点で逃げられない。


 採取した毒草も持ってはいるけど、あのくちばしに手を突っ込むのは不可能に近いな。

 ……成果を焦って、攻撃を仕掛けたことを少し後悔しつつ、やらなければいけないと自分を奮い立たせる。


「悪いが……。ここからは本気でいかせてもらうぞ」


 そう呟き、俺は一気に集中力を高める。

 ヴェノムパイソン戦でモノにした、感覚を研ぎ澄ませて戦闘のみに没頭する“ゾーン状態”。

 俺は全力を尽くし、この怪鳥を狩ると決めたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る