第108話 げんきのかたまり


「なんかとんでもない事態になってきたな。グリースと一緒の依頼を受けることになるなんてよぉ!」

「……大丈夫なのでしょうか? ただでさえ、討伐推奨ランクがプラチナの魔物が群れているんですよね? そこにあのグリースと一緒にこなさなければいけないなんて」

「大丈夫かどうか分からないが、やるしかないのが現状だな。あのギルド長に、断ったら除名とまで宣告されちまったし」

「あのギルド長も本当にムカつくよな!! グリースにはへこへこ媚売って、俺達には圧をかけてくるんだからよ!」

「こうなってしまったら、文句を言っていても仕方がないですね。どうするのか考えましょうか」


 ヘスターの言う通り、どう切り抜けるかを考えなければいけない。

 ……ただ、グリースにはもちろん、毒を無効化できるためヴェノムパイソンの群れにも俺は負ける気がしていないんだよな。


 一緒に依頼を受けたくないだけで、グリースが余程のことをしてこない限り対処できる。

 そう自信を持って言えるくらいには、有毒植物のお陰で俺は強くなった。


「まずは一度家に戻って、今回は留守番のスノーの飯を置きにいこう。それからシャンテルのところでポーションを揃えるか」

「北の山だし、スノーに他のスノーパンサーと対面させてあげたかったけどな。流石に連れて行くのは怖いか」

「一つ気になったのですが、私達が討伐した……。スノーのご両親のスノーパンサーも、ヴェノムパイソンが原因で麓まで下りてきていたんでしょうか?」

「時期的にも、その可能性は高いだろうな」

「じゃあ、スノーとスノーの親は、ヴェノムパイソンのせいで麓に降りなくちゃいけなくなったってことか! これはスノーの仇討ちでもあるな!」

「…………いや、スノーの仇は俺達だろ。実際に殺したのは俺達なんだし」

「いいんだよ! 元凶が全て悪いに決まってる!」


 何故か気合いが入ったラルフを他所に、一度家へと戻って準備を整え、スノーに留守番することを伝えてから【旅猫屋】へと向かった。



「回復ポーションを六個に、解毒ポーションを十個ですか!? やったー!! ジンピーのポーションの大量生産も依頼してくれましたし……。本当にクリスさんは私の恩人です! ……しくしく」


 大ジャンプをかまして喜んだと思いきや、目元に手を当てて泣き始めたシャンテル。

 ……まぁ泣いたと言っても、チラチラと俺達のことを見ているし完全に嘘泣きだけどな。


「一々変なリアクションを取るな。やり取りが長くなるんだよ」

「えー、いいじゃないですか! 私は一人でお店を切り盛りしていますし、お客さんも少ないので寂しいんです! 同年代のお客さんなんて、本当にクリスさん達しかいませんし!!」

「知るか。いいから早くポーションを持ってきてくれ。……あー、あと、この間依頼したジンピーのポーションも二つほど今渡してくれ」

「ジンピーのポーションもですか? 分かりました! 持ってきますね!」


 元気よくポーションを取りに行ったシャンテルを見送り、三人で大きく息を吐く。

 ギルドでの一件の後にシャンテルと会話すると、高低差で頭がおかしくなりそうだ。


「お待たせしました! こちらが回復ポーションで、こちらが解毒ポーションになります! 独自製法で苦味は抑えられていますので、かなり飲みやすいですよ! ――そして、こちらがジンピーのポーションです!!」

「ありがとう。それじゃ」


 シャンテルの渾身のプレゼンをあっさりと流し、俺達はすぐに店を出ようとしたのだが……。


「おい、なんだよ。金は置いたぞ。手を掴むな」

「冷たい! 冷たすぎます! もう少しお話に付き合ってくださいよ!」

「無理だ。時間がないんだよ。――手を放さないなら、ポーション買わないぞ」

「む!? むむむー……。ずる。ずるーい! 次は絶対にお話しに付き合ってくださいよ!!」


 ぴーぴーと喚くシャンテルを置き、俺達は【旅猫屋】を後にした。

 とりあえずこれで、ヴェノムパイソンとの戦闘準備は整ったな。


「本当に元気が有り余ってるって感じだよな! 明るい人と一緒にいると、大抵は元気を分けてもらえる気になるんだけど……。元気を与えられすぎて疲れる感覚だわ!」

「お前達は後ろで黙ってるだけだからまだいいだろ。……俺の身になってみろ」

「でも悪い人ではないですし、いいじゃないですか。私はシャンテルさんのこと好きですよ!」

「それじゃ、今度からはヘスター一人に行ってもらうことにしようか」

「……え。え、えーっと。それはちょっと大変と言いますか、なんと言いますか!」

「やっぱなんだかんだ言って、ヘスターも相手するのは嫌なんじゃねぇか! たまーに一人で行くけどよ、本当に帰してくれないもんな!」

「シャンテルさんのこと、好きなのは好きですよ! ただ、一人ではちょっとな――って思っただけです! ラルフは黙ってて!」


 【旅猫屋】を出てから、シャンテルの話題で盛り上がりつつ、俺達は北の山を目指して歩を進めた。

 グリースやギルド長、緊急依頼のことでちょっと重苦しい空気だったが、シャンテルのお陰で雰囲気が明るくなったな。

 今の俺達には元気を与えられすぎるぐらいが、丁度良かったのかもしれない。


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