第84話 魔法無双


「クリスさん! よそ見厳禁です! 次が来ますよ!」


 ラルフの戦いっぷりに関心していると、次は俺に声が飛んでくる。

 正面を向き直すと、新たに二匹のオークが迫ってきていた。


 これまでのオークとは違い、腹の部分に焦げた跡のあるオーク。

 ヘスターの魔法によって足止めされていたオークで、ダメージが残っているのか動きもかなり鈍い。


 ラルフも今の戦闘でコツを掴んだだろうし、通常種ならば苦戦せずに狩れそうだな。

 新たにやってきた通常種のオークも一匹ずつ請け負い、俺は素早く懐に潜り込んで突きで心臓を貫く。

 ラルフはしつこく弱点を突くことでダメージを与えていき、弱り切ったところにトドメの一撃を食らわせた。


 両者完璧な立ち回りで、あっという間にオーク二匹の死体を積み上げた。

 そして俺とラルフだけでなく、ヘスターの調子も上がってきたのか――沼地で倒れたまま動かないオークも数匹見える。

 改めて思うが、魔法使いで【魔力回復】のスキルを持っているのは、相性が良すぎるな。


 流石に消費魔力の方が大きいようで、連発すると回復が追いつかずに魔力が切れてしまうようだが、それでもヘスターの【魔力回復】による魔力の回復の割合は大きく、調整さえすれば無限に放っていられると思う。

 沼地を駆け抜けているオークに【ファイアアロー】をぶち当てまくっているヘスターを見て、俺はそんな風に感じた。

 

 それからは俺とラルフの出番はなく、ヘスターによる【ファイアアロー】無双が始まった。

 今沼地を進んでいる全てのオークに、一発は【ファイアアロー】を当てたことで、群れ全体の動きが格段に鈍り始めている。


 足場が沼地ということも合わさり、【ファイアアロー】のダメージが回復して三歩ほど進んだら、また次の【ファイアアロー】が飛んでくる。

 その繰り返しになっていて、力尽きたオークはばったばたと沼地に倒れていった。


 ……ただ、最終列にいるオークジェネラルにだけは、このヘスターの魔法戦法が通用していない。

 二匹のオークナイトが、大盾を構えてオークジェネラルを守りながら進んでいるため、オークジェネラルまで魔法が届かないのだ。


 オークナイトも魔法を完璧に防ぎきっているため、このままではオークナイト二匹とオークジェネラルが、無傷で平原へと足を踏み入れることになる。

 オーク内で格差があるのか知らないが、通常種のオークやオークソルジャーが、オークナイトの後ろに隠れるように立ち回られていないだけ、マシだと思うしかない。


 それから、オークナイト二匹とオークジェネラル以外の全てのオークが、ヘスターの【ファイアアロー】によって沼地に倒れた。

 残るは三匹だけなのだが、ここからが正念場といっても過言ではない。


 ヘスターは諦めることなく、オークナイト目掛けて【ファイアアロー】を討ち続けていたのだが、とうとう前に立つオークナイトの足が平原へと到達した。

 オークナイトの盾の間から見えた、オークジェネラルの顔がニヤけたように見える。

 この平原にまで入ってしまえば、俺達なんて余裕で倒せる――そんな風に思っているのだろう。


「ラルフとヘスターで、何とかオークナイトの注意を引けないか? その間に俺がオークジェネラルを殺す」

「【守護者の咆哮】を使えば、注意は引けるだろうけど……クリスは一人で大丈夫なのかよ」

「大丈夫だ。俺に任せてくれ」

「私は信じていますよ! ラルフの注意を引くのを手伝いながら、そちらにいかないように【アースウォール】や【ファイアウォール】で阻みます!」

「なら、俺も信じるしかないか! クリス、絶対に負けるなよ1」

「ああ。ラルフ、ヘスター、よろしく頼んだ」


 二人にそう声を掛けてから、俺はオークジェネラルにだけ焦点を当てて、集中力を高めていく。

 オークソルジャーでは俺の相手にならず、今の力を量ることができなかったが……オークジェネラル相手なら、俺の今の力を量ることができるはずだ。


 鋼の剣を引き抜き、構えたまま二人と少し距離を取る。

 その瞬間、横にいたラルフが【守護者の咆哮】を放ったことで、オークの群れとの最終戦が始まったのだった。

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