第81話 初めてのパーティでの活動
植物の識別を行いまくった日から、約一週間が経過した。
この一週間はブロンズランクの指定あり依頼を受け続けていたのだが、スザンナと呼ばれていた受付嬢が注意してくれた日以降、グリースに絡まれることは一度もなかった。
ラルフやヘスターと同じように、ヒソヒソと噂されたり嘲笑はされていたが、その程度のことならば何も気にならない。
……ただ、一つ気掛かりなのが、あの日以降スザンナと呼ばれていた受付嬢を一度も見ていないこと。
改めて礼を伝えようと毎回探していたのだが、一度も受付には立っていなかった。
バックヤードの裏方仕事を行っているのであればいいのだが、俺が起こした揉め事での被害者だから少し引っかかっている。
まぁ全てグリースが悪いことには変わりないんだが。
そして――。
とうとう昨日、ラルフがシルバーランクへと昇格を果たした。
今日は正式にパーティとして活動を始める初日でもあり、シルバーランクの依頼を初めてこなす日でもある。
「本気でワクワクが止まらないぜ! 昨日は一睡もできなかったからな!」
「お前、ずっと外で剣を振ってたもんな。倒れても知らないからな」
「大丈夫だって。アドレナリン全開で目バッキバキだ!」
「そんなことより、今回のクエストは何を受けるんですか?」
「そんなことってなんだよ! ヘスターだって、楽しみで目バッキバキだろ?」
「ラルフ、うるさい!」
ヘスターに注意されても尚、元気の有り余っている様子のラルフは置いておき、今日受ける依頼についてを考える。
一応、この一週間で依頼掲示板を見ながら良さそうな依頼は大方決めていた。
その依頼とは、スノーパンサーの討伐、フォレストドールの討伐、どくどくドッグの討伐の三つだ。
スノーパンサーは風と水の属性を扱える魔物で、その複合である氷属性の攻撃を多用してくる魔物。
対策を練らなければ、寒さによる蓄積ダメージで何もせずに殺されてしまう危険もある。
動きは俊敏で、鋭い爪や牙による攻撃も非常に強力で、氷属性攻撃がなくとも強い魔物。
フォレストドールは木のような姿をしている魔物で、なんといってもカーライルの森での討伐が指定されている魔物。
一週間の森での生活では見つけることがなかったことから分かるように、木に擬態しているため見つけることがまず困難。
それに加えて地属性の魔法も使ってくるようで、そこそこの強さをもっている。
普通ならば回避する魔物だが、報酬が高いのとカーライルの森については慣れていることから、候補の一つにいれた。
最後はどくどくドッグ。
名の通り、毒を持った狼のような姿をした魔物。
種族はアンデッドで、スノーパンサー同様に動きが俊敏。
今までの依頼になかった夜の平原に現れる魔物のようで、視界の悪さも相まって討伐難度は高いのだが……。
どくどくドッグと、【毒無効】持ちのスキルを持つ俺との相性が抜群。
その一点のみで候補に挙げた。
いずれにしても、この三種の依頼は全部受けるつもりだが、一番最初ははたして何がいいんだろうな。
二人共、大分舞い上がっているようだし、できれば討伐が一番楽な魔物を選びたいんだけど……。
「とりあえずスノーパンサーの討伐、フォレストドールの討伐、どくどくドッグの討伐。この三つの討伐依頼の中から選びたいとは思っている。どれが良さそうとか意見はあるか?」
「どれも名前からして手ごわそうだな。あえて一つ上げるなら、戦ってみたいということも込みでスノーパンサーがいい!」
「私はフォレストドールです。クリスさんはどれが良いと思ってるんですか?」
「俺は強いてあげるなら、どくどくドッグだな。【毒無効】持ちの俺が戦えば楽に勝てる」
「んー。ここはリーダーのクリスの意見に従うっていいたいところだが……。クリス一人で片付けちまいそうだからナシだな!」
「私もフォレストドールで意見は変わらないですね!」
そうこう話し合いながら悩んでいる内に、俺達は冒険者ギルドへと辿り着いてしまった。
三者三様で意見が分かれてしまい、話し合いじゃ一向に決まりそうにないため、三つの依頼の中から着いて一番最初に目に入った依頼にすることに決めた。
ギルドの中に入ると、朝なのにやけに騒がしく――。
この一週間で顔を見せていなかった、スザンナと呼ばれていた受付嬢が、依頼掲示板の前に立ってひたすらに頭を下げている姿が目に入ってきた。
周囲を見渡すがグリースの姿は見えないし、その取巻き連中の姿も見えない。
状況からでは何も分からないため、俺は直接何をしているのか聞くことにした。
「仲裁に入ってくれた受付嬢だよな? 一体、何をしているんだ?」
「あ、この間の冒険者さんですか……。あ、あの――い、いえ。なんでもないです」
「気になるから聞かせてくれ。何をやっているんだ?」
「……実は昨夜、西の山からオークの群れが下りて来たという情報が入ったんです。進行方向から考えるとこの街にぶつかるみたいでして、緊急依頼を出すことになり、今はその依頼を受けてくれる人を探していたんです」
「だから頭を下げ続けていたのか。……人、集まっていないのか?」
「……はい。私が仲裁に入ってしまったせいで、グリースさんとその知り合い全員に拒否されてしまいました。ゴールドランク以上推奨の難度なんですが、今は一人も受けてくれる人はいない状況です」
冒険者ギルドが懸念していた事態が起こったってことか。
それにしてもグリースの奴、本当にクズみたいな性格をしている。
緊急依頼に強制権はないものの、危険が迫っているという重大な事態。
それを小さな逆恨みで、周りの取巻き連中にも依頼を受けさせないとはな。
「その緊急依頼ってシルバーランクでも受けられるのか?」
「推奨がゴールドランクですが、緊急依頼ですので受けることは可能です。……ただ、かなりの危険を伴うと思います」
「責任は僅かだと思っているが、俺のせいでこうなってしまった訳だからな。罪滅ぼしとして、その依頼受けさせてもらうよ」
「ほ、本当ですか!? で、でも……本当に危険なんですよ?」
「招致の上だ。ラルフ、ヘスター。予定が変わるがいいか?」
「もちろん! オークの群れなら丁度いいんじゃねぇか? 俺達の力を試すにはよ!」
「私も異論はないです! 群れとなれば、クリスさんが一人で片付けてしまうなんてこともありませんし!」
「――ということだ。クリス、ラルフ、ヘスター。この三人はその緊急依頼を受けるから、手続きの方をよろしく頼む」
「わ、分かりました! 本当にありがとうございます! ギルド長がグリースさん達にお願いしに行ってますので、命にだけは気を付けて少しでも時間稼いで頂けたら幸いです!」
俺は片手を上げて受付嬢の言葉に返事をし、入ってきたばかりの冒険者ギルドを出た。
パーティとしての一歩目は、まさかの緊急依頼となってしまったが……今の俺達三人の力を量るには丁度良いだろう。
時間稼ぎでもと言っていたが、やるからには全て討伐し切るつもりで戦う。
気合いを入れなおしてから、西の方角のオークの群れに向けてオックスターを出発した。
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