第80話 オンガニールの実の効能
宿屋に帰った俺は、早速袋に入れたオンガニールの実を袋から出す。
まずは天日干しにしていない方を手に持ち、観察からしてみることにした。
サイズはかなり小さいが、見た目は完全に熟していないリンゴだ。
匂いも甘酸っぱい匂いで、決して毒があるようには思えない。
異様なのは、やはりゴブリンの心臓から生えていたあの光景だけで、それ以外はただの果物と変わらない。
実だけを見ると、本当に毒があるかどうかも怪しいぐらいだが……俺はしっかりとあの光景を見ているからな。
【毒無効】のスキル持ちで、数多の有毒植物を食べてきた俺だが、流石にこのオンガニールの実を食べるのは少し恐怖を覚える。
生きていようが問答無用で心臓に根を張り、栄養を吸い取る植物だった場合は……死ぬわけだからな。
――大きくを息を吐いて覚悟を決めてから、オンガニールの実を口の中へと入れた。
触感はリンゴで、味は完全なる無味。……いや、若干だが鉄の味がする気がした。
一度鉄の味を感じてしまうと、そこからずっとその鉄の味が口に残り続け、形容しがたい後味の悪さがある。
なんとか飲み込むことができたが、到底美味しいと呼べるものではない。
この鉄の味が、あのゴブリンから吸い上げた血肉の味だと思うと気持ちが悪いし、単純に苦い有毒植物よりも俺は苦手な味だ。
……初日に採った、カラカラに干したオンガニールの実もあるがどうしようか。
とりあえずキープしておいて、能力値の上昇率次第で食べてもいいかもしれない。
無理に食って、何の能力も上がらないものだったらショックが大きすぎるからな。
俺は天日干しにした方のオンガニールの実を、袋に戻してから封をし直し、本日最後の能力判別へと向かった。
教会に入ると、信者用の長椅子に座りながら、肩を落としてチビチビと魔力ポーションを飲んでいる神父の姿があった。
見た目や性格から感じるに、この庶民的な教会と同じように親しみやすい神父なのかもしれない。
「また来たんだが、大丈夫か?」
「あ、ああ、どうも。少し休憩していただけです。全然大丈夫ですよ!」
「……大丈夫そうには見えないが、大丈夫というならお願いしたい」
顔は青ざめていて、疲弊しきっているようにも見える。
ただそれでも、神父はやる気満々のようなので、俺は能力判別を行ってもらうことに決めた。
「ささ、座ってください」
「それじゃ、金貨一枚と冒険者カードだ」
自身の疲弊もあるからか、この神父は俺のこの奇怪な行動に一切の反応を見せてこない。
能力判別自体、数年ぶりとのことだし……俺はかなりおかしな人物なはずなんだけどな。
「ふっ! はああああ! ――はぁー、はぁー。お、終わりましたよ!」
今日一の声を出して、能力判別を行ってくれた神父。
今すぐにでも寝てしまいそうなほど疲れた顔で、俺に冒険者カードを返却してくれた。
「今日は一日ありがとう。助かった」
「ふぅー、はぁー。……こ、こちらこそありがとうございました。お布施の方は大事に使わさせてもらいますね」
それだけ俺に伝えると、ふらふらとした足取りで部屋から出て行った神父。
俺は一人部屋に残り、オンガニールの実で一体何が上昇したのかを確認する。
―――――――――――――――
【クリス】
適正職業:農民
体力 :14(+49)
筋力 :9 (+36)
耐久力 :9 (+44)
魔法力 :2 (+2)
敏捷性 :7 (+2)
【特殊スキル】
『毒無効』
【通常スキル】
『繁殖能力上昇』
―――――――――――――――
おおっ! 敏捷性が2上昇しているのと、【繁殖能力上昇】とかいう訳の分からないスキルが追加されている。
スキル自体は意味が分からないが、やはりオンガニールの実はオットーの考察通り、スキルを身に着けることのできる植物だったっていう訳か!
……これはとんでもない植物を見つけてしまったかもしれない。
俺が一気に強くなる可能性を秘めた植物だ。
一週間の捜索で、一本の木しか見つけることができていないことから、かなり珍しい植物であることは間違いない。
高い繁殖力を持っていそうな感じはあるが、俺の身に何事もないことから、かなり厳しい状況下でなければ成長しないというのもありそう。
そして、この【繁殖能力上昇】のスキルだが、一体どんな理屈で俺に付与されたのだろう。
ゴブリンを毒殺し、その心臓に作付して成長するオンガニール自身の能力なのか。
それとも、高い繁殖力を持つとして有名なゴブリン。
そのゴブリンを栄養源として育ったことで、オンガニールの実に付与されたのか。
はたまた全てが偶然で、たまたま【繁殖能力上昇】のスキルが俺に付与された可能性もある。
この辺りについては、いつか必ず判明させないといけないな。
オンガニールの実に凄まじい可能性を見出すことができた俺は、非常に満足した気持ちで教会を後にし、宿屋に戻って採取した植物の摂取を行うことに決めたのだった。
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