閑話 ミエルの報告 その二
【剣神】。
これまで三人の英雄がその適正職業を授かり、いずれも偉大な偉業を成し遂げている。
初めて勇者と呼ばれた人に至っては、バハムートと呼ばれた邪龍の討伐に、この世界に魔物を蔓延らせていた原因の魔王の討伐。
魔王討伐後も魔物の討伐に勤しみ治安を守り、今の世界の基盤を作った英雄として今なお語り継がれている人物。
幼い頃に伝記やお話を聞かせてもらっては、私は胸を躍らせていた。
今現在でも伝記は読み返すし、密かに初代勇者様の遺物を探していたりもする。
初代勇者様が残した遺物の中でも特に有名なのは、初代勇者様が使用していた伝説の武器について。
その名も“ヴェンデッタテイン”。
バハムートを素材として作られた剣で、聖なる者でも邪の力を使うことのできるといわれているその伝説の剣は、王国の三大都市の一つである『エデストル』から、北に向かうと見える山の洞窟に眠っていると言い伝えられている。
なぜ地名まで分かっていて“ヴェンデッタテイン”の存在が断言できないのかというと、バハムートを素材としていることで漏れ出た邪気により、強力な魔物が生まれて魔物の跋扈する山となってしまっていることが大きな要因。
更に剣の眠っている洞窟は、漏れ出た邪気が長年の歳月によって致死の猛毒溜まりとなっており、どんな生物も中へは入ることができない状態となっているのだ。
私はいつか解毒魔法を極めて、初代勇者様の伝説の剣を手にする――そんな夢を抱いている。
――その初代勇者様と同じ適正職業である、【剣神】を授かった人物が数百年ぶりに現れた。
それが、私と同期でもあるクラウスなのだ。
……だから絶対に嫌われてはいけない。
昨日の失態を挽回するためにも、私は翌日の朝一でクラウスの元へ伺い、昨日の誤解についてを弁明しに来た。
「昨日は何か誤解があったの。クラウスは手紙の解釈を間違えている」
「……二度と俺の前に姿を現すなと言ったよな?」
「この学校で学ぶ以上、その約束を守ることはできないのよ。だから、せめて弁明だけさせてほしいの」
「………………」
イラつきながらも、黙ったまま返事をしないクラウスに無理やり弁明する。
「私とクリスさんは本当に仲良しなの。色々な話だってしたし、過去についてだって話したわ。手紙には色々と書かれていたみた――」
「本気で殺すぞ? これ以上あいつについてを話してみろ。地の果てまで追って確実に殺してやるからな」
クラウスは腰から剣を引き抜くと、剣先を私に向けてきた。
その表情から読み取る限り、本気で次に私が喋った瞬間、斬り殺してくるつもりだ。
その本気の殺意に、私も思わず魔法を発動しけかけたが、ここで手を出せば本当に人生そのものが終わってしまう。
なんとか自分を抑え込み、頭を下げてから私はクラウスの前から去った。
無意識の内に唇を噛みきりそうになるくらい力を入れていたようで、口の中に血の味が充満していく。
本当に終わった。
クラウスに嫌われてしまった今、私が上を目指す方法は潰えたといってもいい。
……いえ、一つだけ方法があるとすれば、クラウスの派閥からは外れている王女の派閥に入ること。
私が目指していたのとは、全く別の道になってしまうけど上に行くという意味合いでは同じ。
ただ問題なのは、気の強い馬鹿王女に媚び諂わなくてはいけないのと、その馬鹿王女に狂ったように惚れている、アホのロイヤルガードと上手くやらなくてはいけないということ。
…………無理。絶対に無理。
あの脳筋馬鹿王女に仕えるくらいならば、死んだ方がマシ。
だからこそ、私には【剣神】のクラウスに付くしかなかったのに。
先ほどの光景が頭を過り、順調だった私の人生を台無しにしたクリスが憎くなってきた。
あのクラウスの様子を見る限り、クリスとクラウスは何かしらがあって犬猿の仲。
そこに私がクリスと仲が良いアピールをし、怒り狂ったのだと予想できる。
私が急に襲い、初めて会った人物を信用したのが悪いのは分かっている。
それを加味しても、あのクラウスの馬鹿兄貴は許すことができない。
【農民】の分際で、【賢者】の私に楯突いたことを絶対に後悔させてやる。
自分の今の現状から目を背けるため、私はクリスの居場所を突き止めて復讐することを決めた。
それから数ヶ月後。
居場所を突き止めたはいいものの、すでにクリスの姿はなく、もぬけの殻となった『シャングリラホテル』の一室で、私は時間を労力を無駄にしたことによる悲痛な叫び声をあげることとなる――そんな未来が待っているとは知らずに……。
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