第63話 移住先


 ヘスターとラルフがレアルザッドに帰ってきてから、約三週間が経過した。

 先週、先々週は、ヘスターと共に指定あり依頼の受け、俺がようやくシルバーランクに昇格。

 それから、ヘスターが一人でブロンズランクの依頼をこなせるようになったのを見届けてから、俺は今週ずっとペイシャの森に籠り続けていた。


 移住した場所に、能力を上昇させる有毒植物が存在しないことも考慮し、リザーフの実を中心に採取できる分は採取してきたつもりだ。

 そういえば熊型魔物に関してだが、突如として襲われた日以降、気配を感じることすらなかった。


 今じゃまだ敵わない相手だが、熊型魔物に関してはいずれこの魔物を倒すためだけにペイシャの森へと必ず戻ってくる。

 そう強く心に誓って、俺はペイシャの森からレアルザッドへと戻ってきた。


 そして、肝心のラルフの足の具合なのだが……。


「クリス、ようやく戻ってきたか!」


 俺が大きな鞄を背負ってペイシャの森から帰ってくると、『シャングリラホテル』の前で待っていたであろうラルフが、物凄い勢いで駆け寄ってきた。

 この様子から分かる通り順調すぎるほどに回復していて、ペイシャの森に向かう前には、既に軽く走ることができるぐらいまで足の具合は良くなっていた。


「ただいま。随分と元気そうだな」

「当たり前だろ。この動き見てくれよ! めちゃくちゃ速いだろ? なのにちっとも痛くねぇんだ!」


 高速で反復横跳びをしながら、笑顔でそう報告してくるラルフ。

 膝の固定具も取れていて、傷口はまだまだ痛々しいが本人はもう何の痛みもないようだ。

 回復して本当に良かったが、それと同等にうっとうしさが増してかなり面倒くさい。


「それは良かったな。部屋に戻りたいからどいてくれ」

「おいおい、冷てぇなぁ! ちょっと軽く俺と打ち合ってくれよ。ずーっと体がなまってうずうずしてたんだ!」

「明日だ、明日。今日は疲れているし、ラルフの怪我も良くなったから移動先についての話もある」

「――ッ! 向かう先、ようやく決まったのか! それなら早く部屋へ戻ろうぜ!」


 ラルフは俺を置いて、あっという間に『シャングリラホテル』の中に戻って行った。

 動きに関しては、怪我していた時ぐらいゆっくりの方が良かったな。

 忙しないラルフを見て、そう不謹慎なことを思った。


「クリスさん、おかえりなさい。今ラルフから聞いたんですけど、移住する場所決まったって本当ですか?」

「ああ。ペイシャの森に籠りながら決めたんだが、王都の三大都市と呼ばれている内の一つ、『ノーファスト』」

「えっ!? 俺達、これからノーファストに行くのか?」

「――の、近くにある『オックスター』って街に行くつもりだ」

「なんだよ。ノーファストの街じゃねぇのかよ」

「俺はもうシルバーに昇格したけど、二人はまだブロンズだぞ。三大都市の内の一つでなんかでやっていける訳がない」

「俺はやっていけると思うけどなぁ。そりゃトップは高いだろうけど、底辺冒険者もいっぱいいるだろうし」

「いいんだよ。無理してノーファストを拠点にするより、オックスターで地に足つけてやっていく方が性に合ってる。それに目立ち辛いだろうからな」


 あまりにも平和に三週間を過ごせたことで忘れてしまいがちだが、俺は今追われている身だ。

 この追手のこなさ加減を見るに、ミエルに渡した手紙が上手く機能してくれたみたいだが、いつ居場所を突き止められるか分からない。

 強くなるまでは、目立たないように生活するのを心掛けなくてはな。


「クリスの弟のことを考えるなら、確かにオックスターの方がいいのか」

「順調に力をつけることができたら、位置的にノーファストに移ることも可能だしな」

「私は異論ありません。王都の近くにあるレアルザッドみたいに、ノーファストの近くにあるオックスターは土地の感じ的には肌に合いそうですしね!」

「俺も異論はない。オックスターで一から始めていこう」

「そういうことで頼む」


 こうして、俺たちの新たな拠点が正式に決まった。

 予定している出立の日時は一週間後。

 その間に挨拶周りや、オックスターまでの道のりを歩くための準備を整えたいと思う。

 

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