第34話 二種類の植物


 昨日は二人に少し多めの金銭を握らせ、王都へと送り出した。

 全ての事情はヘスターに伝えてあるため、何の心配もいらないと思う。

 俺はというと……これから約一ヶ月ぶりのペイシャの森の捜索に向かう予定だ。


 昨日の能力判別は一種類の植物を食べて判別してもらい、結果は上昇なし。

 二種類にまで絞れたため、この二種類の有毒植物を中心に採取しつつ、新種の植物も狙って採取していきたい。


 現状では体力と耐久力のつく植物を見つけることができているが、俺が本来一番欲しいのは筋力が上昇する植物。

 能力値を見る限りは、確実にペイシャの森に存在するはずなため、今回の植物採取で確実に採りたいところ。

 一つ気合いを入れたところで、早速『シャングリラホテル』を後にし、ペイシャの森へと急ぐ。


 現状、俺達の部屋には誰もいない状態だが、金はしっかりと余分に払っているため、恐らく追い出しの心配はない。

 若干の金の勿体なさを感じつつも、荷物の保管や泊まっていた部屋を他の誰かに取られるのは嫌なため、致し方ない判断だな。



 レアルザッドを離れた俺は、ペイシャの森へと辿り着いていた。

 自然の良い香りが胸いっぱいに広がり、常に気を張っている心が若干ながら癒される。

 前回訪れた時のような恐怖心は一切なく、前回の採取で完全にトラウマは克服出来たようだ。


 森へと入り、まずは森の中腹の泉へと向かう。

 泉についたら水分補給と水分確保を行ってから、道なき道を進んでいつもの拠点を探しに行く。


 そろそろ別の拠点地を探してもいいかなとも思うが、あの辺りはまだまだ植物が自生していたため、しばらくは慣れた場所で寝泊まりを行う方がいいと考えた。

 完全に場所を把握している訳ではないのだが、体が直感的に覚えているのか、またしても数時間ほどで拠点の岩と岩の隙間に辿り着けた。


 人や動物、魔物が来た形跡は一切なく、俺が去った時と同じ状態のままなのを確認してから、いつものように葉と枝を敷き詰めていき、簡易的な拠点を完成させる。

 大分こなれてきた拠点作りを終えてから、俺は早速植物採取へと向かった。


 優先的に狙うのは二種類の植物で、一種目は紫色の可愛らしい花を咲かせている植物。

 見た目だけだと毒を持っているようには到底見えないのだが、ペイシャの森に初めて入った時に見つけた腐肉の主が、この植物を食べて息絶えたことが形跡から分かっているため、恐らく致死量の毒を持つ猛毒植物だと思っている。


 二種類目はキノコで、真っ白な笠と柄におびただしい赤い斑点がある、見るからに毒を持っていそうなキノコ。

 こちらは有毒性を確かめていないが、この見た目で毒を持っていないのはあり得ないと思うほど、見た目から危険信号を発している。

 

 俺はそれぞれにレイゼン草、ゲンペイ茸と名付け、全てを採取しないようにだけは気を付けつつ、乱獲することに決めた。

 レイゼン草とゲンペイ茸を採取しながら、それぞれが生えていた場所を記録し、二種類の植物の自生場所を割り出しつつ、どんどんと採取を進める。


 最終的には自家栽培にまで持っていきたいのだが、流石に宿屋に泊まっている内は毒草の栽培なんてものはできない。

 畑を借りるのも手だが、栽培しているのが毒草とバレた瞬間に確実に捕まる。


 となると、一軒家を買って屋上にでも隠し畑でも作るしかないのだが、現状ではまだ遠い夢だ。

 植物採取の遠征費、能力判別費、ラルフの治療費、ヘスターの魔導書費。


 最低でもこの四つの金銭を確保した上で、更に一軒家を買う金を貯めなくてはいけない。

 何をするにもとにかく金が足らない状況だな。

 効率よく金を稼ぐ手段がないかを考えながら、俺は日が暮れるまで植物採取を行った。


 日暮れ前に拠点へと戻ってランプに火を灯してから、紙にレイゼン草とゲンペイ茸の情報を事細かに記載していく。

 それから今日食べる分以外のものを通気性の良い籠に入れ、夕食の準備へと取り掛かる。


 今日の夕飯は、パンと容器に入れて持ってきたシチュー。

 ゲンペイ茸は、普通に食料としてもイケるためシチューの中にぶち込み、レイゼン草は……秘密兵器で味わうことなく食べる。


 俺が取り出したのは、オブラートと呼ばれる薄く引き伸ばされた透明な紙のようなもの。

 ヘスターが教えてくれたのだが、このオブラートは体内で溶けるもののようで、オブラートに包んで飲み込めば、味わうことなく体の中へと入れることが出来るらしい。


 丸めて小さくしたレイゼン草をオブラートに包み、水で流し込む。

 …………うん。

 若干の異物感はあるものの、味を全く感じることのないまま飲み込むことができた。


 昨日購入したのだが値段もそれほど高くないし、これなら一気に大量に食べることも出来るかもしれない。

 パンとシチューを食べた後に、オブラートに包んだレイゼン草を飲み込む。

 俺は初めて、美味しいという感想を抱いたまま、有毒植物を食べきることが出来た。


 レイゼン草もゲンペイ茸も大量に採れたし、食べ方についても良い方法を見つけられた。

 非常に満足感のいく初日を終えられ、自然の音を感じながら眠りについたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る