第21話 識別
ペイシャの森に入って、五日が経過した。
相変わらず森の奥地には魔物は現れず、特に事件らしい事件もないまま、一昨日に無事三十種類の有毒植物を採取し終えた。
昨日は天日干しさせるのに一日使い、今日はいよいよペイシャの森を後にする。
森に入る前は不安と緊張で体が震えていたが、やはりこの森は静かで過ごしやすいことが実感できた。
森への恐怖心も今回の遠征で払拭でき、次回はもっと気楽に――何ならちょっとした羽休めのような気分で来れそうだ。
一つ問題があるとすれば、毎食のように糞不味い植物を食べなきゃいけないことだが、それが目的で来ているため目を瞑らなくていけない。
ペイシャの森での六日間を振り返りながら、拠点を片付けて天日干しした有毒植物を鞄の中に入れていく。
乾燥させたらかなり圧縮され、三十種類且つ三本ずつ採取したのだが、鞄の奥底に入れておけば門兵にバレずに持ち運べそうだ。
最後に荷物をまとめて準備完了。
拠点に一礼してから、俺はペイシャの森の奥地を後にした。
帰りは少し迷ったせいで、半日かかってペイシャの森を脱出。
それから公道を歩いて、一週間ぶりにレアルザッドへと戻ってきた。
森の泉で体は洗ってきたし、服もボロボロじゃないから今回は見た目では怪しまれないはず。
俺は入門検査待ちの列に素知らぬ顔で並ぶ。
動揺を見せたり怪しい動きさえしなければ、ここの検査は比較的緩いため通れるはずだ。
「身分証はあるか?」
「ああ。冒険者カードがある」
「出してくれ。それと、鞄の中を開けて中を見せてくれ」
冒険者カードを兵士に手渡し、もう一人の兵士に背負っていた鞄を開けて見せる。
想定していた通り、鞄の中を軽く動かしただけで荷物検査は終了。
冒険者カードも偽造のものではないため、俺はあっさりとレアルザッドへと入ることができた。
ペイシャの森の自然の音しか聞こえない空間も良かったが、活気に溢れた街も良い。
溢れかえるような人を見ながら、俺は『シャングリラホテル』に帰る前に教会に寄ることにした。
もちろん、目的は能力判別を行ってもらうため。
能力判別だけで二ヵ月で三枚稼いだ内の二枚目を使うことになる訳だが、これからもっと多くの金貨を能力判別に使うと思う。
勿体ないという気持ちはあるものの、決してケチってはいけない場面のため、惜しまずに金を払っていく。
教会に入ると今日は礼拝が行われていないようで、以前と違って人が少なく閑散としていた。
人のいない教会を進み、前回能力判別を行ってもらった部屋に入り、そこに置かれているベルを鳴らす。
しばらくして奥の扉から神父が姿を見せたのだが、前回と同じ金髪碧眼の顔立ちの良い男性だった。
「あれ……? ついこの間、鑑定を行った方ですよね?」
「ああ。今回もよろしく頼む」
「二度目も変わらず金貨一枚かかるのですがいいのですか? 数日程度では能力に差異はないと思いますが……」
「大丈夫だ」
「……理解しているのでしたら大丈夫です。金貨一枚頂きますね」
俺は鞄から金貨を一枚取り出し、冒険者カードと共に神父に手渡した。
「確かに受け取りました。それでは鑑定致しますので、少しお待ちください」
前回同様、水晶が発光し能力判別が終わった。
これだけの事なら、なんとか自力で行うことが出来ないか観察していたが、原理がいまいち分からない。
水晶が特別なものなのか、それとも神父に備わっている力なのか。
どちらにしても、俺には行うことが出来ないということだけが分かる。
「無事に終わりました。それでは私は失礼致します」
「ありがとう。助かった」
深々とお辞儀をしてから部屋を出て行った神父にお礼を伝え、俺は早速能力値の確認を行う。
これで能力が上がっていなければ、今回持ち帰ってきた植物はゴミと化するのだが。はたして……。
―――――――――――――――
【クリス】
適正職業:農民
体力 :10(+7)
筋力 :5 (+8)
耐久力 :7 (+3)
魔法力 :1
敏捷性 :4
【特殊スキル】
『毒無効』
【通常スキル】
なし
―――――――――――――――
やはり微妙にだが、プラス表記されている能力値が上昇している。
体力と耐久力が1ずつだけだが、ペイシャの森で摂取した植物の中に潜在能力を引き上げるものがあったという何よりの証拠。
それに数値だけみれば微々たるもののように感じるが、この作業をあと十数回繰り返せば、単純に考えて今の倍の力が手に入るということ。
少しずるいようにも思うが、手段なんてこの際どうでもいい。
力をつけるためなら、できることは全てやるつもりだ。
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