第11話 『七福屋』


「二人共、助かった。案内ありがとう」

「好きで案内した訳じゃないけどな」

「それでも助かったことには変わりない。しばらくの間、レアルザッドを拠点とするつもりだから、紹介してもらった店でまた会うとは思うがその時はよろしく頼む」


 一通りの店紹介をしてもらったため、俺が素直に礼を伝えると心底嫌そうな表情で見てきた二人。

 赤髪の女に至っては全然喋らないし、盗みを働いてきたのはそっちだと言うのに随分と嫌われたものだ。


「それじゃ、俺達はここで帰るぜ」

「ちょっと待て。まだ一番肝心な場所を紹介してもらってない」

「…………名前は教えたんだし、自分で行けるだろ」

「裏通りは看板がないから分からないし、それに『七福屋』に関してはお前たちの紹介も欲しい。警戒されたら嫌だからな」

「っち。分かったよ。……この場所で案内は最後だからな」

「ああ。頼む」


 渋々ながらも案内を初めてくれた二人についていき、『七福屋』を目指す。

 例の盗品を捌いているという質屋だ。

 これだけを聞くと、ただの質屋ではないことは分かるが、一体どんな人が店主をやっているのだろうか。


 裏通りの奥の更に裏路地にある、小さなボロ小屋。

 二人の足が止まったため、どうやらここが『七福屋』なのだろう。


 二人の後を追い、俺もそのボロ小屋の中へと入る。

 中は薄暗く、人の気配がまるでない。

 ただこんなでもやはり質屋なようで、商品らしきものが小さなお店に所狭しと並んでいた。


 鞄に時計に書物。

 武器に防具に魔道具と、実に一貫性のないアイテムの数々。

 初めて目にするアイテムに目移りしながら見ていると、奥から何やら物音が聞こえてきた。


 音のする方向を見ると、杖をついたおじいさんがゆっくりとこちらへと来ているのが見える。

 恐らくだが、この人が『七福屋』の店主なのだろう。


「おお、ラルフとヘスターじゃないか。……知らない人もいるようじゃが、今日はどうしたのかね?」

「…………こいつは今日知り合った人で、なにやら買い取ってほしい物があるみたいなんだ。買い取ってやってくれないか?」

「今日知り合った人? ……別に構わないが、その買い取って欲しい物ってのは危ない物なのかい?」


 二人に話しかけていたおじいさんは、俺へと視線を移して質問してきた。

 危ない物……か。


 盗品だし危ない物といえば危ない物だが、物自体は別に危ない物ではない。

 俺がどう答えようか迷っていると、見かねた男が変わりに返答をしてくれた。


「盗品らしい。物はアクセサリーで、親から盗んできた物らしいから危なくはないと思う」

「そうかい。盗品ということならば、二割は手数料として取らせてもらうが買い取らせてもらうよ。どれ、早速見せてくれないか?」


 店主のおじいさんに促されたため、俺は小さな鞄から取り出して机の上へと置く。

 ペイシャの森での生活の中でも、傷や汚れがつかないようにしていたし、大丈夫なはずだけど少し緊張するな。


「ほほう。中々良さそうな物じゃないか。それでは鑑定するから、店内の物でも見ながら少し待っていてくれるかのう」


 俺の出した懐中時計とアクセサリーを、手持ち眼鏡のようなものでじっくりと見ながら、自分の世界へと入って行ったおじいさん。

 そんな様子をよそ目に、俺は店内の物を見させてもらうことにした。

 様々な種類のアイテムが置かれているだけに、色々と目移りするのだが……やはり一番気になるのは武器だ。


 せっかくだし安く使えそうな剣がないかを探してみるが、最低価格で金貨五枚と俺の手持ちではどう足掻いても購入できない代物ばかり。

 質屋ということもあり、どうやら安価な武器は取り扱っていないようだな。

 ただどれも質は高いようで、剣以外はあまり詳しくない俺でも良い物と分かるほどの武器がずらりと並んでいて、ただ見ているだけでも楽しい。


 店内に置かれた全ての武器防具を一通り見終え、手持ち無沙汰となった俺は、武器の次に気になった書物を見に向かう。

 剣術と同じように読み書きも小さい頃から教えられてきたため、ある程度の本は読むことができ、家に置かれていた英雄伝は何度も繰り返し読んでいたぐらいには俺は読書が好き。


 何か面白そうな書物がないか見ていると、一つの自伝が俺に目に留まる。

 『植物学者オットーの放浪記』。


 全く持って聞いたこともない人物だし、植物学者というのもあまり面白そうではない。

 ……それなのに、何故か俺の目がこの本から離れない。


 安かったら買おう。

 そう考えて、手に取り値段を確認すると……なんと先ほど見た武器と同等の金貨三枚という破格の値段。

 

 古い本は流通数が少なく希少らしいのだが、それにしても高すぎる。

 安かったら買おうと思って手に取ったのだが、ここまで高いとなると逆になにかあるのではと俺の興味がぐんぐんと湧いてきてしまった。


「文字、読めるの?」


 急に背後から声を掛けられ、体がビクッと跳ね上がる。

 即座に後ろを振り返ると、話しかけてきたのは女だった。


 本に気を取られすぎて、真後ろに立たれたことに気がつかなかったな。

 油断しすぎたと心の中で反省しつつ、俺は女の問いに返答する。


「ああ。小さいころから教わったからな。お前は読めないのか?」

「うん。あの…………ううん。なんでもないです」


 何か言いたげにしていたが、口ごもると勝手に諦めて俺の前から去って行った。

 何を言おうとしていたのか気になるが、こっちから聞きに行くほどのことでもないため、俺は気を取り直して手に取った本に再び意識を向ける。


 本は綺麗に封がされており、中が少しも覗けない状態。

 読み取れる情報は、植物学者であるオットーという人物の自伝ということだけ。


 かなり気になりはするが、手持ちと値段を考えると手に出せる物ではないな。

 後で時間があれば店主に聞いてみようか。

 自分の中で諦めがついたところで、丁度鑑定が終わったようで店主のおじいさんに呼ばれた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る