第4章 眠り姫
第10話 丸山先生
「ふわぁー……」
最近色々な事が重なり、あまりよく眠れない。睡眠時間を確保するために
「わっ!」
「きゃっ!」
等と考え事をしながら歩いていたせいで、人とぶつかってしまう。
ぶつかった相手より俺の方が体格が良かったため、俺の方には
「大丈夫ですか!?」
慌てて、相手に手を差し伸べる。
「もう。前見て歩きなさい」
俺の手を取りながら、ぶつかった相手――
とはいえ、残念ながら、彼女の容姿ではそんな顔も
「すみません」
視線を丸山先生の顔に固定しつつ、彼女を立ち上がらせ、謝罪の言葉を述べる。
「お怪我はありませんか?」
「ん? 大丈夫かな? 付いた手も痛くないし」
「そうですか……」
その言葉を聞き、ほっと胸を
「何? 考え事?」
「はい。まぁ……」
「ダメよ。歩きながら考え事しちゃ」
「すみません……」
ぶつかった手前、返す言葉がない。
「よし。
言うが早いか、俺の手を引き、どこかに連れて行こうとする丸山先生。
「え? ちょっと」
先程の負い目もあり、抵抗はせず、俺は丸山先生にされるがままだ。
「今からホームルームが……」
「大丈夫。連絡入れておくから」
「なんてですか?」
「私とぶつかって、親切な金城君は私が大丈夫というにも関わらず、保健室まで付き添ってくれましたって」
「……」
まぁ、全くの
「安心して。取って食おうってわけじゃないから」
「いや、そんな心配はしてませんけど」
それに、取って食われるのはどちらかというと丸山先生のほ――ん! ……何でもない。
そのまま、保健室に連れ込まれた俺はようやく丸山先生の拘束から解放された。
いや、実際の所、いつでも手は離せたのだが、日本人特有のモッタイナイ精神に負けてしまい、なかなか離す気になれなかった。何せ、相手は美人養護教諭だ。手を引かれて歩くなんて経験、この機会を逃したら今後二度ないかもしれない。まさに考え事様々だ。
「何、ぼっと突っ立ってるの? 早く座りなさい」
「へ? あぁ……」
丸山先生に
ちなみに、担任への連絡は、俺がぼっーとしている間に
「で、何を考えてたのかしら?」
「……色々ですよ」
「私はその色々を聞いてるんだけど?」
笑顔ながら、丸山先生の言葉には
「はぁー」
「他言無用でお願いしますよ」
俺はそう前置きをした。
「もちろん」
丸山先生が
「俺がある人の家に居候させてもらってるのは知ってますよね?」
「
「……はい」
教師なんだから知っていて当然なのだが、こうもあっさり名前が出てくると、少し複雑な気分になる。
「まぁ、親戚とはいえ、人の家に居候してるだけでも大変なんですけど、更にその家に年の近い如月先輩みたいな人がいて、
「確かに、きついかもしれないわね」
「更に、家ではあんな感じでは全くなく、無防備全開というかもしかして誘ってるんじゃねーか状態でして」
「あー。そりゃ、きついわね」
苦笑いを浮かべる丸山先生。
「で、その上、俺と如月先輩の関係をよく思わない連中もいまして」
「如月親衛隊ね」
「はい」
というか、その名称、教師の間でも通っているんだ。
「どうやら、彼らに目を付けられたようなんですよね」
「どうしてそう感じるの?」
「メンバーの一人に直に警告されましたし、下駄箱に手紙も……」
「ふーん。なんか、大変そうね」
「完全に他人事ですね」
自分から聞いたくせに。
「まぁ、親衛隊の件は本当に面倒だけど、後の居候云々っていうのはよくある事だし、大半の男子が
「いや、俺は本気で困ってるんですって」
「なんで? 誘われてるんなら、襲っちゃえばいいじゃない? イトコ同士は結婚出来るんだし」
「なっ!?」
この人、本当に教師か。黙認するならまだしも、積極的に
「それとも、向こうの親御さんが反対するの?」
「それは……」
多分、ないだろう。むしろ、
「大体、君は如月さんの事どう思ってるの?」
「……」
俺にとって、きー姉は――なんだ?
「キスしたい?」
「え?」
「如月先輩とキスする自分が想像出来る?」
きー姉とキスする自分は……余裕で想像出来る。
「じゃあ、したら?」
「はい?」
本当に、何言ってんだ、この人。
「してみて気分が盛り上がらなかったら、なんか違うんじゃない? でも、盛り上がったら……」
言いながら、丸山先生が
「いやいや、如月先輩の意志はどこ行ったんですか?」
すぐに気持ちを立て直し、反論する。
「嫌だったら、女の方も抵抗するでしょ。それに、金城君、嫌がる女の子に無理矢理そういう事迫るタイプじゃないじゃない? いい意味でも悪い意味でも」
暗に、ヘタレと言われた気がするのだが……。
「とにかく、当たって砕けろ。やらずに後悔よりやって後悔、でしょ?」
「なんか、どっちも不吉なワードが混じってるんですけど……」
「そうね。もし失敗したら、私が個人的に慰めてあけるわ」
満面の笑みで発せられたその言葉は、健全な男子高校生なら
「あ、
「出来れば、もう少し感情を込めてくれると嬉しいんだけど……」
そう言われても、こればかりは自然と
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