クマな弟
琥珀 忘私
1クマ
北原組組長、北原
「友達が出来ない!!」
高校の入学初日。兄と同じ高校に通うことになった僕はあの北原の弟ということで、すでに有名人だった。廊下を歩けば人だかりでも一本の道ができ、誰も目を合わせようとしない。教室に行けば隣の席の人は泡を吹いて倒れる。
「
昼休み、今までの人生で唯一の親友、仙田 翔に助けを求める。彼は北原組と昔から兄弟分とされている仙田組の若頭。僕と同じ境遇なのだが、彼の人当たりの良さから周りからの評判はいい。
「学校の連中に俺から言ってもどうともならんだろうしなぁ……お、そうだ」
翔くんはカバンをガサゴソとあさると、中から一枚の紙袋を取り出し、僕の方へ差し出した。
「これ被れば望ってばれないんじゃね?」
翔くんは笑いながら冗談のつもりで言ったのだろうが、僕は「ナイスアイディア!」としか思えなかった。
前が見えるように、位置を調整して穴を開けかぶる。意外と心地が良かった。
~ ~ ~
紙袋を被った状態で、なんとか学校はなにごともなく終わった。(先生たちはなにか言いたげにしていたけど……)そのままの状態で家に帰ると、組の家族、親、兄さんがそろって大爆笑。兄さんに「鏡を見てみろよw」と言われた。鏡を見て、初めて自分の見た目の滑稽さに気が付いた。四角い紙袋に開いた二つの穴、そこから覗くアホそうな目。途端に僕は恥ずかしくなって、紙袋を脱ぎ捨てた。
そして、ここからが問題だった。僕には紙袋を被る以外の名案が思い浮かばない。どうすればいいのか……悩んでいると事務所の扉が開き、着ぐるみを着た人たちが数人入って来た。
そういえば毎月恒例の保育支援って今日だったな。
その瞬間、僕はすごい解放感に襲われていた。
そうだ……こうすればいいのか!
~ ~ ~
次の日、僕は対策を持って学校に向かった。それを持って何をするのかと、興味津々の兄さんは、教室までついてこようとした。しかし、道中で、兄さんを狙った他組織の連中に襲われたので、僕だけ学校に向かうことにした。
学校に着いたが、教室に入る前にトイレに寄った。最後の準備をするために……
準備が終わり、廊下に出ると、いつも通りの誰も前にいない一本の道が出来た。しかし、いつもとは違い、こちらをじろじろ見てくる視線をいくつも感じる。
いざ教室へ。扉を勢いよく開け、
「お、おはよう!」
と、元気に挨拶をした。
教室は一瞬、シーンと静まり返ったが、すぐにどよめきが起こった。昨日とは違うどよめきが。
「お、おい、その声……お前クク。望……だよな? ク。どうしたんだよ、それ? ククク」
翔くんが笑いをこらえつつ、不思議そうにこっちを指さす。僕のことをちゃんと認識できないのも無理はない。なぜなら、今僕はクマの着ぐるみに包まれているからだ!これなら紙袋を被ってる時みたいな滑稽な姿じゃない!
僕の勝ちだ!
着ぐるみの中で僕はそうどや顔を決めた。誰にも見えていないのに。
「翔くん! 僕怖くないよね? かわいいよね!?」
「そ、そうだな……」
よかったぁ。これで普通の学校生活に戻れるぅ。
着ぐるみの中で人知れずうれし泣いている僕の周りに人だかりができた。
「望くんって意外とおもしろいところあるんだねw」
「この着ぐるみってどこで買ったのー?」
などなど、今までしゃべりかけてくれなかったクラスメートたちが次々にしゃべりかけてくれる。
「ちょ、ちょっとごめん。み、身動きが……」
着ぐるみの大きい巨体の周りに、何人もの人がまとわりついているために振り替えることすらできない。
「お、やっぱり人気者になってるな?」
後ろから聞き覚えのある声がする。途端に、周りの人だかりが霧のように散っていく。この二つから導き出せるのは……。
「兄さん……」
振り返ると……推測通り、服が破け全身が血に染まっている兄さんがそこにはいた。
結局これでプラマイゼロかなぁ。
僕の学校生活はまだまだ前途多難らしい。
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