おさけ

 ひゃぁー。

 おふとーん。

 ふっかふかぁー。

 えー?

 酔っ払いじゃありませーん!


 さぁ、キミも寝るんだ!

 病み上がりでしょー?

 んー?

 わたしが寝ろってぇ?

 わたしはまだ!

 わたしにはやらなきゃいけないことがあるのです!


 知ってるー?

 知ってるって、なにをー?

 

 えっ!?

 わ、わたし、そんなことしてるの!?


 うそうそ!

 寝ながら笑ってる?

 キミを抱きしめながら!?

 絶対にちがうから!

 抱きしめてくるのはいつも――。


 んん!

 ごほごほっ!

 だ、大丈夫。

 焦ってむせただけ。


 キミの言う通り、酔ってる、わたし。

 ちょっと水飲んでくる。

 ん?

 一緒に来なくて大丈夫だよ。

 むせたら少し酔いが覚めたから。

 先寝ててー。

 おやすみ。


 ガチャ

 パタン


 コトッ


 トクトクトク


 ゴクゴク


 ふぅ。

 危なかった。

 わたしはいつも一緒に寝て、朝まで起きたことないって言ってあるのに。

 キミがわたしのことを抱きしめてるって知ってたら、おかしいでしょ。

 今日は酔ってるから、明日問い詰められても忘れたふりしよ。


 それにしても、横になった途端すぐに眠ちゃうのはすごいよね。

 羨ましい特技だなぁ。

 この、キミの寝息が聞こえてくる瞬間が幸せだなって思う。


 ガチャ


 んー。

 麦茶、飲みすぎたかも。

 明日の水筒分はありそう、かな。

 朝イチで作っておこ。

 酔わないようにって麦茶を飲んだはずなのに、結局酔ってるし。

 やっちゃったなぁ。

 

 パタン


 よいしょ……。

 今日は一緒に寝るの、いつもより暑いね。

 キミは酔ってないように見えたけど、体は火照ってるもんね。

 タオルケットいらないかもー。


 あのね。

 ワイン、本当に美味しかったよ。

 限定品のアイスワインなんて、よく見つけてくれたよね。

 ……キミが選んでくれた物だから、そういう意味でも限定品だよ。

 だからたくさん飲んじゃった。

 特別に甘くて飲みやすかったのは、キミの気持ちが込められていたから、かもね。

 まるでキミに酔ってるみたい。

 なんてね。


 ふふっ。

 やっぱりまだ酔ってるー。

 こんなこと、いつもなら言えないもん。

 きゃー。

 恥ずかしー。


 ……だから今日なら、言えるかな。


 キミが好き。大好き。愛……。

 やっぱり、ちがう。


 酔ってるけど、言えない。

 この言葉はいつものわたしのまま、言いたい。

 だから、もう少しだけ待っててね。

 ちゃんと言うから。


 その時、わたし、キミに伝えたい事があるの。

 きっと驚かれると思う。

 もしかしたら……。

 ううん。

 考えない。

 考えたら……。

 でもっ……、それでも、言いたい。

 うっ……、うぅっ……、ぐすっ。


 あっ……。


 起こして、ごめんなさい。

 え?

 平気だよ!

 なんで、泣いてるんだろうね。

 酔ってるから、悲しくなったのかも。

 理由?

 理由なんてないよー。

 わたし実は泣き上戸なのかもね。


 ん?

 わたしは笑い上戸だと思うって?

 そうかな?

 どっちもじゃない?

 笑い上戸で泣き上戸。

 キミが酔っても変わらないから、わたしが笑ったり泣いたりしてるんだよ。

 意味がわからない?

 ははっ。

 言ってるわたしも、意味わからないかも。

 でも、なるべく泣かないようにするね。


 へっ!?

 な、なんで泣く時はキミの腕の中限定なの!?

 わたしがどこで泣いたっていいでしょ!

 そういうの、なんで平気な顔で言ってくるの!?

 はぁっ!?

 反応が、か、かわっ、可愛い!?


 やめてよ!

 近い!

 わたしの顔、そんな近くで見ないで!

 赤い!?

 こんなに薄暗いのにわかるわけないよね!?

 やめてやめて!


 んっ!!

 

 ばかっ!

 このタイミングでキ、キス、とか、しないでよ!!

 

 とっ、とにかく、もう寝よう!

 明日も仕事なんだから!

 暑いから、抱きしめるのも禁止!

 ……でも、心配してくれてありがと。

 おやすみ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る