照れ屋な彼女のささやき事情

ソラノ ヒナ

よわね

 寝てる?

 ……これだけ揺らしても反応しないなんて、よっぽど疲れてるね。


 毎日お仕事、お疲れ様。


 それなのに、さっきは冷たくして、ごめんね。

 もうね、顔見てるだけで、泣きそうになっちゃって……。


 でも、愚痴は言いたくない。


 お互い、仕事頑張ってるんだもん。

 家に帰ってきてまで、わたしの仕事のことで疲れてほしくない。


 でも……。

 今だけは、弱音、吐いていいかな?


 わたしってさ、見た目と違って頼りないでしょ?

 見た目通り、バリバリ仕事できます! みたいな中身だったらよかったのに……。

 だからさ、少しでも期待に応えたくて、頑張りすぎて、ミス連発しちゃって……。


 わかってるのに。

 わたしにそんな能力がないこと。

 それでもいつも、わたしの家事は丁寧だって言ってくれて、ありがとう。

 キミの方が家事、得意なのに。

 だから、家でこんなに気を遣うなら仕事はもっとだよな? 無理しなくていいから、出来ることをコツコツやればいいんだよって言葉が、すごく嬉しかった。


 キミからの言葉を大切にしながら、また仕事に取り組もうと思う。

 ミスしたなら、そこはもっと丁寧に。

 わたしにはわたしのやり方があるもんね。

 忙しいと忘れちゃうけど、だからこそ、何回でも思い出すね。


 背中に話しかけてるだけなのに、解決しちゃった。

 やっぱりキミってすごい。

 いつも支えてくれて、ありがとう。


 同棲してから三年。

 ずっと変わらずに感謝を伝えてくれる。

 わたしへの想いも、言葉にしてくれる。


 なのにわたしは、言えない。

 こんなに長く一緒にいるのに、あ、あっ、愛……!


 んー! んー!


 ぶはぁ!


 はっ、恥ずかしすぎる!

 枕に顔を押し付けて叫んだのに、足りない!

 すっ、す、き、は、まだ、言える。

 すと、きって、ちょっと時間を空けて言えば直接言えるのに!

 愛……が、言えない!!


 はっ!


 起きた?

 起きたよね?

 起きてない?

 あ、寝返り?


 うるさかったよね、きっと。

 落ち着け、わたし。


 すー。

 はー。


 もう、大丈夫。

 わたしの弱音、たくさん聞いてくれてありがとう。


 ………………しまった!


 あっ!

 ごめん、起こし……てないね。

 腕で目が見えないけど、寝息は規則正しいから起きてない。

 よかったぁ。


 ついうっかり、寝ようとしちゃった。

 わたしはこのまま寝ちゃだめだ。

 あんなに愚痴を聞かせたんだもん。

 変な夢見せちゃってたら申し訳なさすぎる!

 だから、その、わたしとの良い夢、見てほしいな。


 えーっと、ね。

 好き、だよ。

 付き合う前から、好き。

 わたしの方が先に好きになったんだよ。

 キミは自分が先だって今でも言うけど、これは譲らないんだから!


 ……ちがうちがうちがう!


 良い夢を見てほしいのに、変なこと言っちゃった。

 ちゃんと言うね。


 好き。

 だい、好き。

 夢の中でも、わたしと一緒にいて――。


 えっ!

 んん!?

 な、なに!?

 起きてるの!?


 あ……、ちがった……。

 このタイミングで抱きしめてくるとか、心臓に悪いから……。


 でも、嬉しい。

 起きてたら恥ずかしすぎて、目も合わせられないな、きっと。


 ふわぁー。


 キミの腕の中が心地良くて、キミのいつも少し早い心音が落ち着くから、眠くなってきちゃう……。

 でも最後に、言いたいな。


 ずっとずっと、大好きだよ。


 ……だっ、だい、好きって続けて言うの恥ずかしすぎる!

 あーもう! 寝ちゃお!

 恥ずかしついでに、キミの胸に頬ずりしながら寝ちゃうんだからね!


 ……幸せだなぁ。

 おやすみなさい。

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