第54話 セオフロストとお泊まり会です
セオフロストが呪われて銀髪になるのは、社交界デビューの前日――つまりは、今日。
この事件は、ゲーム【ほめらぶ】で起きる全ての悲劇の引き金だ。
「オーレヴィア?」
心配そうに、セオフロストは私を見ている。
(オーレヴィア……そうよ。ゲームのオーレヴィアが破滅への道を進むことになるきっかけも、セオフロストがオーレヴィアを嫌う理由なのよ!)
ゲームのセオフロストが悪役令嬢のオーレヴィアが嫌いな理由は、悪役令嬢のオーレヴィアが、白銀に変わってしまった自分の姿を好きだからだ。
変わった自分の姿を全く受け入れられないところで悪役令嬢が銀髪の自分に一目ボレしたからはあ?となっている上に、セオフロストはプライドの高い貴族がキライで、誰かのためにがんばれる女の子が好きなので性格でも悪役令嬢のオーレヴィアはセオフロストの地雷をさらに踏み抜き、ゲーム中の悪役令嬢と王太子の仲は、氷河期になってしまうのだ。
「なんでもありませんよ?」
わたしはごまかすための言葉を作ったけれど。
(なにを……したらいいんだろう? もう破滅するしかないの? 確かこの呪い、呪いを解く人との愛の絆がないと解けない呪いだから、ゲームと同じように、セオフロストが呪われたことで人間不信になったら、わたしに解けるんだろうか? しかもこの呪い、髪や瞳の色が薄くなるのは副作用で――寿命を、残り数年にするほど急速に年老いさせるから、銀髪になるのよ! 止めたかったけど、なんにも、できなかった)
後悔と恐怖で、わたしはいっぱいで。
ガシャン。
「あっ……」
ふるえるわたしの手から、ティーカップが落ち――地面に当たって、粉々になった。
「本当に、大丈夫?」
「今日、わたしの家に泊まってくださいませんか? それなら、この不安もなんとかできそうです」
「いいの?」
「セオフロストのこと、信じてますから」
わたしがそういったとき。
「オーレヴィア様ってはしたないのですね」
私が割ってしまったティーカップを掃除するメイドさんがが、聞こえよがしにそうつぶやいた。
「貴族令嬢は貴族の子を産むことが義務。子供の血筋を保証するため、女性には清らかさが求められるというのに」
新しいお茶を持ってきたメイドさんが、彼女に同調する。
「男性と二人きりになること、実質的な不倫扱いだと分かってらっしゃらないんじゃない?」
「その点、ベラドンナ様は
(婚前交渉をうたがわれても婚約者だから……と、思っていたけど甘かった。でも、今目の前で生きている人が残りの命が2年になって、しかも国もめちゃくちゃになる知っていて助けないのは、人としてどうなのよ!)
全員から嫌われ、最悪のバッドエンド、革命エンドになってしまうとき、セオフロストがなにをするのかというと。
寿命が残り2年で、魔王に対抗できるたった一つの切り札である聖女さえも失ってしまったことに気付いたセオフロストは、現実逃避をして学園を辞めてしまう。
オーレヴィアとは結婚するものの、オーレヴィアを幽閉して貧乏生活を送らせる一方で、初恋の人であるヒロインの面影を求めて無理矢理にヒロインに似た女性を集めてハーレムを作るわ、贅沢に溺れ、国民に重税を課すわで、国民の生活はめちゃくちゃになる。
そんなことをするから、国民は我慢の限界に達して革命を起こし、その混乱を好機とみた魔王軍がセイント王国に攻めてくるので――登場人物どころか人間全員が死んでしまう。
なお、セオフロストを攻略したら結婚式の誓いのキスで呪いが解ける。
他の攻略対象ルートなら、攻略対象への愛と、セオフロストに仕えることを攻略対象と一緒に誓った時点で、真実の愛を目にしたセオフロストの呪いがとけて、セオフロスト闇落ちフラグが折れるのだ。
ゲーム世界線のセイント王国、なんともラブオアダイな世界である。
物語の進行を変えてしまうのに罪悪感がある、なんてことは言わない。
(オーレヴィアとして生き延びると決めた時点で、わたしは元々の物語をめちゃくちゃにしてしまう悪役になっているから、メイドさんに悪口を言われても、平気、平気……)
私はそう自分に言い聞かせるものの、手の震えは止まらず、新しいティーカップを持ち上げられない。
そんなとき。
セオフロストが、椅子から降りてわたしに寄り添った。
「オーレヴィア、耳を貸して」
「はい?」
「これから僕が何か言ったら、さっき泊まろうかと誘ったのは、こんな冗談を言ってほしいと前に打ち合わせていた、っていって」
「え……?」
「あとあのメイド、目がおかしい。ソルラヤンの報告によると、あの目をしている人間はベラドンナの味方らしい」
わたしがメイドをよく見ると。
(あ、カーミラや二の妃様と、同じ……)
操り人形になってしまっているかのような、ガラス玉の、光のない目をメイドさんたちはしていた。
「そんなやつらに、オーレヴィアの悪評を流されるのは最悪だから、打ち合わせ通り、お願いね」
「はい」
何事もなかったかのように、セオフロストは椅子に戻った。
なので。
「なんですか? 急に顔を近づけて。キスでもするつもりだったんですか?」
わたしも、何事もなかったかのように話を続ける。
「オーレヴィア、僕はどうしてもオーレヴィアの家に泊まりたいな!」
「本気になさったのですか?! セオフロストがわたしの家で、次王宮に来たらとびっきりの冗談を申し上げろとおっしゃっていたではないですか!」
わたしが打ち合わせ通りに行動すると。
「メイドたち」
セオフロストは、メイドさんたちに声をかける。
「王太子セオフロストが、王太子としてわがままを言った、それに間違いはないな?」
「え?」
メイドさんたちは、光のない目と目を見合わせる。
「違うと思うなら――妄想癖がある上に、嘘の噂を流すようなメイドなんていらないから、クビにしちゃおう」
セオフロストの言葉に、メイドさんたちは一斉に頭を下げた。
「「王太子殿下のおっしゃるとおりでございます」」
(け、権力者――!)
わたしがあっけにとられていると。
「じゃあ、晩ご飯の後にね」
「あの、王立騎士団の方に護衛に来ていただくことは……」
と、わたしが言うと。
「聖女の祝福がある武器を持たせてでしょ? いいよ。というか、イナカ村防衛の功績を称えて、クリストさんに山ほど聖女の武器を下賜したから、ヴィラン家騎士団の装備、全部聖女の祝福がある物に置き換わってるよ?」
「なんでわかるんです?」
「悲しいことに、オーレヴィアが僕に対して積極的なときって、なにか物騒なことが起きてるんだよね……」
と、セオフロストは苦笑い。
それ以外は、セオフロストをわたしの家に泊める準備は順調で。
私が屋敷に戻ってから、クリストさんにセオフロストを泊めていいか確認したら。
「いいよ。セオフロスト殿下には、離れに泊まっていただいたらどうだ? あれは元々、王家の方々に泊まっていただくために、当主の部屋より豪華に作ってあるし。警備に聖女の祝福がある武器を持たせろ? もう持たせてる、安心して。宰相家のベラドンナをうちに入れるな? おっけー! 関係者以外立ち入り禁止にするね!」
と、セオフロストのお泊まりの準備はトントン拍子に進み。
「お茶会ぶりだね! オーレヴィア!」
わたしの夕食が終わった頃に、セオフロストがやってきた。
「いらっしゃい!」
(うーん、わたしの目の届く範囲にセオフロストに来てもらうことはできたけど、これ以上はどうしようか……)
なぜセオフロストを突然泊めたいのかについて、ヴィラン家の騎士たちや王立騎士団の説明ができていない。
(しかも騎士たちって、全ては筋肉が解決する! ってタイプの人たちだから、呪いとか信じてくれそうにないんだよね……どうしよう)
わたしがセオフロストと話しつつも悩んでいると。
ばたばたと、足音が近づいてきた。
カチャカチャと金属音がするから、武装しているのだろう。
「誰? 騎士の方は呼んでいないのだけど……」
わたしが振り返ると。
「セオフロスト殿下、どうか、護衛につくことをお許しください!」
「レイン? なんで、そんな顔してるの?」
思い詰めた顔をして、革の
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