破滅を回避しようとシナリオを変えたら、王太子殿下(特大の破滅フラグ)を攻略してしまったのですが!

相葉ミト

第一部 ゲーム開始シーンの前にできること

プロローグ 少し未来の話

 前提を整理しよう。

 わたしは、日本のOLだった。そして今は、乙女ゲーム【ほめらぶ】の悪役令嬢に転生している。


 ブラック企業に使い捨てられる最期の次は悪役として破滅?! ふざけないで! とぶち切れたわたしは、ゲームの開始シーンを変えるため、ヒロインの村にやってきて、魔物が出てくる森の中で頼れる仲間と一緒に戦ったり、死にかけて自称女神に出会ったりとまあ、色々あった。


(乙女ゲームというよりダークファンタジーだった。うん)

 

 そんな風に、破滅フラグを折るためにわたしはダークファンタジーバトル路線を爆走していたはずなのだが。


「オーレヴィア・ヴィラン、君との婚約を申し入れる!」

「はい? ねえ待ってセオフロスト王太子殿下ー?!」


 わたしの前にいるのは、金髪に青い瞳の、100人中120人が西洋の王子様、と言われたときにイメージするような爽やかで、顔が良い男の子で。


「ありがとう! オーレヴィアは聖女に覚醒し、なおかつ僕の命を救った恩人だ! 家柄も公爵令嬢で王家の次にえらい貴族。だから、オーレヴィアがはい、と言ったことに、誰も文句は言えないよ。安心して」


 王子様スマイルのセオフロストが押し切ってこようとするのに、ただ恐怖しかない。


「殿下、さっきのはいは、疑問で、申し入れを受けたという意味ではないのですが……」


 と、わたしがぐずぐずしていると、セオフロストがどんどんわたしに近づいてきて。

 わたしたちがいる森の大木の前にわたしは追い詰められ、壁ドンのような状況になってしまった。


「王太子殿下、顔が近いですわ! 唇がくっつきそうですよ!」

「オーレヴィアが他人行儀だよ……しょぼん」


(というかゲーム中ではぶっきらぼうな性格の中の優しさで人気だったセオフロストが、なんでしょぼんって口で言うような甘えたキャラになってるの?! 性格どころか見た目も違うし?!)


 セオフロストの見た目がゲームと違うのは、今のセオフロストが12歳で、ゲーム中でセオフロストに寿命を奪い、彼の髪を白銀にし、瞳の色をせさせる呪いが降りかかるのが14歳の時だ、という設定で説明がつくとしても。


「ねえオーレヴィア、あんなに親切にしてくれたのに、僕のこと、嫌い?」

「嫌いというか……」

「そのオーレヴィアの目、僕じゃない人のこと考えてるよね? ねぇ、今の僕を、見て?」


 悲しげでありながら有無を言わせない甘い声が耳朶じだに触れ、わたしは頬が熱くなるのを感じる。

 頬だけでなく、ドッドッ、と耳から心臓が飛び出しそうな気がするほど鼓動の音もうるさい。


(嘘でしょデンカ……破滅フラグを折るために仲良くなったモブキャラだと思ってたのに、まさかあなたが、オーレヴィアにとっての最大の破滅フラグだったなんて……)


 そう。

 わたしが転生したのは、乙女ゲーム【ほめらぶ】の悪役令嬢、オーレヴィア。

 攻略対象である王太子セオフロストの婚約者でヒロインの同級生。そして――ヒロインをいじめ、それを告発されて婚約破棄されても、ヒロインがバッドエンドを迎えても死が待っている、必ず破滅する悪役令嬢なのだ。

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