第60話
カインの攻撃は単純な刺突だった。
ただ、短剣に黒いモヤみたいなのが付与されている。
あれに触れるとヤバい気がする──
「──串刺しになれッ!」
カインは特攻しながら剣身を伸ばす──
避けるのは可能かもしれないが、既に俺は『朧』のモーションに入っている。
それに避ける事に集中しては体力的にこいつを倒せない。
相打ち覚悟で攻撃するしかない──
「──良しッ!」
カインの攻撃で腕を掠ったが、避ける事に成功する。
『身体強化(極)』の部分強化を足に使って、一気に距離を詰め、攻撃に移ると同時に魔力消費が激しいが腕も強化して『朧』を放つ。
「これは──さっきの技じゃないのか!? いや、ブレている──本物はそこか!?」
俺の『朧』はまだ完全ではないのか、攻撃は受け止められてしまう。
だが、まだ終わりじゃない。
カインの反応から実体と幻影の見極めに時間がかかっているようだ。
「安心するにはまだ早いぞ?」
幻影の剣戟がカインを斬りつけると、カインは苦痛に顔を歪ませる。
「──痛ッ、どうなってやがる!? 幻じゃねぇのか!?」
幻影で斬りつけた部分は血は出ていないが、ダメージを受けている。
しかし、予想よりもダメージが少ない。
やはり、リアリティが足りていない。もう一歩だ。
今度こそ仕留める──
思い出せ──リーシェさんの無慈悲な斬撃をッ!
「死ねッ──『朧』──」
間髪入れずに再度『朧』を発動する──
「舐めるなよッ!?」
カインは幻影の攻撃もまとめて弾き返して行く──
もっと、イメージするんだッ!
手数を増やせッ!
今の俺にはこれしか出来ないッ!
「──?! 何でお前は俺の必殺技喰らってるのに死んでねぇんだよッ!? ふざけんなよッ! ──やられてたまるかァァァァッ」
増え続ける剣戟にカインは叫ぶ──
実体の攻撃は防御されているが幻影の攻撃は当たり始める──
擦る程度ではあるが、幻影の攻撃が当たっているせいか、動きが鈍くなっている。
「鍛え方が違うんだよッ! ──『朧』ッ! ──『朧』ッ! ────」
俺の連発する『朧』を次第に捌き切れなくなったカインの足元には血が滴っていた──
実体の攻撃も当たり始めている──
好機ッ!
首目掛けて剣を振るうが──
「──舐めるなッ!!!!」
カインは短剣を捨てて、ナイフに持ち替えた。
そして、ナイフを伸ばす──
「痛ッ」
俺の腹には伸ばされたナイフが突き刺さるが、攻撃は止めない──
「いってぇなッ!」
「しまった──」
カインは左手を犠牲にしてバックステップで距離を取る。
腹を刺されたせいで最後の最後で首を刎ね飛ばすのに失敗してしまった──
「はぁ……はぁ……どうなってやがる……意味のわからねぇ技を使いやがって……そもそも何故、俺の『
なんつー物騒な技使いやがるんだ……『健康』スキルなかったら普通に死んでるじゃねぇかよ……。
「……俺が強いからに決まってるだろ。手こずらせた事は褒めてやる」
死ぬほど傷が痛いが、これぐらいは『慈愛の誓い』で慣れている。
こういう時にこそ余裕を見せる方が良い。プレッシャーを与える事で心に隙を作る。
なんせ、まだ戦闘は終わっていないからな。
だが、既に魔力切れで『幻影魔法』や『分身』は使えない。
しかし、体は一応動く。トドメを刺せるかは微妙だがやるしかない。
俺は体を無理矢理動かしてカインに攻撃を仕掛ける──
「ちッ、これが『蜃気楼』か……ただの暗殺特化のチキンじゃねぇって事か……今回はお前の勝ちだ。次は必ず──殺す。じゃあな────」
そう言い残してカインは魔道具を取り出して消えた。
逃しはしない──
殺せるのは今しかない。
『マップ』を起動させてカインを検索するが──
「──この国にいないだと?」
既に近くにはいなかった。転移系のアイテムか魔道具でこの場を離脱したのか……。
まぁ、最悪の事態は回避したと思って良いだろう。あの感じでは仲間もいなさそうだ。
しばらくはロッテも安全だろう。
それにカインさえいなければ石化病の対応だけで済む……後はロッテに薬を作って貰って、配ればなんとかなる。
仮にまたカインが襲ってきてもまた返り討ちにしたらいいだろう。『マップ』は小まめにチェックが必要だな……。
「あー、疲れた……」
俺は大の字に倒れる。
そういや、おみくじに訓練しろって書いてたっけ……『鑑定』のアドバイスがなかったらカインを退ける事すら出来なかっただろう。
結果は最善ではなかったが、個人的には満足している。
加護のお陰ではあるが──少し前の俺では殺されていたような相手を退ける事が出来た。
間違いなく俺は成長している。
それに今回で『幻影魔法』の実戦での使い方もわかった。今後もイメージ力をつける為に訓練は必要だ。
この調子で強くなりたいものだな……。
というか──1号早く帰ってこいよな……血を流し過ぎたせいで寒いし、意識が朦朧とするぞ。
今手持ちに回復ポーションがないから、このままだと出血多量で死ぬんだが?
(1号、マジで早く来い。敵は退けたが、俺がヤバい)
(今そっちに救援が向かっている。もうすぐで到着するはずだ)
救援か……もう少し早く来てくれたら助かったんだがな……。
マジで気を失いそうだ──
目の前が霞む──
俺の意識が途絶えかけた時──
「──エルク様ッ! しっかりして下さいッ! エルク様ッ! 今ポーションを使いますから──」
アリアの声が聞こえてきた。
おそらく、1号が救援を頼んだのはアリアのようだ。中々良いチョイスだ。さすが俺。
ティナが動けないなら俺もアリアを選択するからな。マイも強いが──場数が少ないからカイン相手では直ぐにやられるだろうしな。
回復ポーションを使ってくれているお陰で痛みが和らいだ。
ふぅ……なんとか生き残れたな……。
「アリア、サンキューな」
「こんな事ならついて行けば良かったです……酷い怪我でしたよ? 手持ちに上級ポーションが無かったら死んでました……うぅ……泣きそうです……ぐす……」
アリアは俺に抱きつきながら、啜り泣く──
まぁ、確かにかなりの重症だったしな……。
というか──意識が朦朧としてたが、アリアの匂いと柔らかさで覚醒した!
俺は起き上がって、アリアを抱きしめてさすって慰める。
「……すまんな。だが、来てくれたお陰で命拾いした。ティナは無事か?」
「──はい。ロッテさんが直ぐに解毒剤を調合してくれましたので今は安静にしています……」
「そっか……なら良かった。とりあえず、なんとか『病魔』カインは退けたから後は石化病をなんとかするだけだ。俺達で街を救おうぜ?」
「──はいッ! 【深淵】はそれほど強かったのですか?」
「相性の問題もあるが──さすがは裏社会武闘派No.1だな……普通に強かったぞ? なんせ加護を2つも持ってたからな」
「加護って増やせるんですか??」
「知らん。ただ、実際に使われたからなぁ……」
「加護は一つだけでも強力なのに……そんな危険な相手を退けたなんて凄いです……」
「まぁ、でもこの有様だしな。さて──帰るか。おわッ!?」
俺は立ち上がろうとすると、アリアに手を掴まれて仰向けにさせられる。
目の前には俺を見詰めるアリアがいた。
この頭の感触は──膝枕をされているのだろう。
寝心地最高なんだが?!
何この柔らかいふとももは!?
超気持ち良いんだけど!?
「重症なんです。動いたらダメですよ?」
アリアは子供に言い聞かせるように俺に言うと頭を撫でてきた。
このまま寝てしまいたい──
だが、俺は帰らなければならない。ロッテに魔力譲渡しないと薬が作れないからな。
「いや、帰って薬も作らないとだろ?」
「その内、1号さんが来ますよ。彼に運んで貰ったら良いです。それまでは──良いですよね? ちゅッ」
そう言った後に、俺の額にキスをする。
確かに1号に運んで貰えると助かるな……待つか。
それに、なんかこういうのって良いな……癒される。
アリアって昔から母性が凄いよな……。
甘えたくなるわ……。
「1号が来るまでだぞ?」
どうせ5分ぐらいだろうし。それぐらいなら許されるだろ……。
「はい♡」
しばらく俺は膝枕を堪能した。
だが、1号は10分経っても中々来なかったので──
頑張ったご褒美におっぱいも触らせてもらった。
とても嬉しかった。
その時──ミランちゃんとの甘い思い出も蘇った。
こんな時間がこれからも欲しいなぁ──
そう思って、ふと視線を周りに移すと──
壁の影に隠れた1号がいた。
その視線はとても優しかった。
(お前何してんの?)
(本体が赤ちゃんプレイをしてるのを見てた)
(……さっさとこっち来い)
俺は断じて赤ちゃんプレイなどしていないぞ?!
ピコンッ
『お前の性癖やべぇな』
お前も何でこのタイミングで出てくるんだよ!?
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