第26話

 最後に『鑑定』からをもらった俺は逃げる為に2人に声をかける──


「──さっさと逃げるぞッ! 強敵が迫っているッ! マイはこいつに身体強化魔術を付与してくれッ!」


 そして、髪の毛を元の紅色に戻し、魔力を出せるだけ出して分身体を1人だけ出してマイに身体強化魔術を施すように言う。


「「え?!」」


 2人は驚く。


 分身体を出した事か、強敵が迫っている事なのかわからないのかもしれないが、今は説明している時間が無い。


「いいから早くッ! 説明は後でするからッ!」


「わ、わかったわ──えいッ!」


 マイは分身体に身体強化魔術を使う。


「走れない……」


 そういえばティナはけっこうな重傷だったな……。


「マイ、サンキュー。ほれ、行くぞ」


「ふぇ?」


 俺はティナをおんぶする。


「何故そんなに急いでるんですか?」


「元パーティメンバーが来るからだッ! 行くぞッ!」


「は、はいッ!」


 俺達は一斉に走り出す──



 ◆──《エルク分身体視点》──



「──来たか……すげぇ殺気だな……」


 目の前にはゆっくりゆらゆらと幽鬼のように揺れながら『慈愛の誓い』のリーダーであるリーシェさんと回復術師のエレナさんの姿が見えた。


 視線は俺に固定されている。


 逃す気はないのだろう。


 全員でないのは捜索範囲を広げる為だと予想出来る。


 しかし、よりにもよって──


 この2人とは……最悪だ。



 こいつら2人は俺の意識が飛んでもお構いなしで蹂躙するからな……特にエレナ……こいつが1番ヤバい……。


 見た目は銀髪ロングの垂れ目で大人しめな感じに見えるがこれに騙されてはいけない。


 なんせ回復魔術でを回復しやがるからな……一回監禁されて三日三晩食事以外はベットの中だった記憶がある。


 エレナさんが無駄にあそこを回復してくるから何回も動くように命令されるんだ……。


 いかに回復魔術であっても俺の体力は回復しない。だが、こいつはヤりたいが為に独自でだけを回復させる魔術を開発するぐらいの肉食系だ。


 確かこの日に得た【祝福ログインボーナス】は確か──



 ──だったな……これが無きゃ俺は今頃ここにいなかっただろう……しかしこのスキルのお陰で俺はずっとヤり続ける事になったが……。



 ちなみにリーシェさんは完全なる肉食系の1人だ。


 俺の上に乗り続ける。その動きは激しい。さすが前衛としてリードし続けているだけはある。


 俺は何もしないが、手足をベットに縛られ、ずっと俺の上で搾り取り続ける……俺が起きようとしても押し倒され──


 パンッパンッ、と音が──お尻によって凄まじいリズムを刻む連続プレスの嵐で起き上がる事が出来ない。


 事が終わる頃に俺の腰は抜けている。



 絶対捕まりたくねぇ……。


 なんとしてもここで食い止めなければ……。


 しかし、あのディスりまくってくる『鑑定』からアドバイスが貰えるとはな……あれはもはや意思のある存在だな……。


 貰ったアドバイスは──


『裏技:魔力を込めるだけ込めて1体だけ分身を作れば本体と変わらない能力になる。マイは魔術全般が使えるので身体強化魔術を付与してもらえば、レイラと戦っていた時並になる。チキンの力が通用するか確かめて来い。変な希望は持たない方がいい。どうせ直ぐ消されるから全力で逃げるが吉』


 ──だ。


 相変わらずの『鑑定』ではあるが、俺の為にアドバイスをくれるあたりツンデレさんなのだろう。


 それに俺の力が本物のSランクに通用するのか良い機会だ。


 最悪は時間稼ぎさえ出来れば問題ない。そっちの方が俺の得意分野だしな。



 しっかし、怖いな……久しぶりに見たけど震えが止まらねぇよ……逃がさない為に威圧しているんだろうな……。


 それにツーマンセルで俺を捜索するあたり、本気なのがわかる。


 なんせ、こいつらは個人の戦闘力が化け物レベルなせいでよく単独行動をしていたからな。


 俺が別行動する時は連絡手段を残す為にツーマンセルをしろと提案した記憶がある。


 俺の言った通りにせず、1人で来て欲しかったぜ……それでも勝てないだろうけどな……。



 そんな事を考えているとリーシェさんが立ち止まり──


「エル発見♪ 帰ろう?」


 殺気を抑えて、俺を愛称で優しく呼ぶ。


 その顔は嬉しそうだ。


「リーシェさん……お断りします」


「なんで? それにどうしてパーティ抜けたの? 皆待ってるよ?」


 ヤバい……目が笑ってない……レイラなんて比じゃないな。


「ねぇ、エル? 私達はこんなにエルの事を愛してるのに何故逃げるの? 今日はもう遅いから3人で?」


 エレナさんが会話に入ってきた。


 そりゃあ逃げますよ……あんたが1番ヤバいもん……。


 しかも、あんたら2人でヤられたら俺は再起不能になるだろうがッ!


「気持ちだけで結構です……」


 俺の言葉を聞いたエレナさんから笑みが消える。



 震えが止まらん……誰か助けてくれ。



 というか処女を俺が奪ったから責任を取れと言われているのだが──


『慈愛の誓い』のメンバーは正直言って、黙ってりゃ、お姫様と言われても信じてしまうぐらいの美人揃いだ。


 別に俺じゃなくて良くね?



 ピコンッ


『この2人に鑑定使ってみ?』


 このタイミングで勝手に現れる『鑑定』さん。


 こいつ、もはや自由だな……。


 そもそも、お前は勝手に表示出来るんだから表示しろよ……まぁ良い──



『鑑定』──



 リーシェ:


 エレナ:



 グハッ



 俺は表示を見て心の中で吐血する。



 見るんじゃなかった……。


 とんでもねぇ情報じゃねぇかッ!!!!


 これ絶対に機密レベルの情報だろッ!


 なんてもん見せんだよ!?


 アアァァァァッ、知りたくなかったァァァァッ!!!!



 ピコンッ


『とりあえず、彼女達が何でチキンにご執着か知りたそうだったので表示してみた件について』



 ふざけんなよッ!? どうしてくれんだよ!?


 しかも俺が初めての相手とか何の冗談だよ!?


 普通に結婚しとけよな!?


 しかも冒険者とかしてるとか意味わからんねーしッ!



 ピコンッ


『いえーい』


 そういうのマジでいらねぇしッ!



 考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ────



 ピコンッ


『考えても無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄──』


 ちゃちゃ入れてくんなよ!?


 あと、そのピコンッってのマジでうるさいからッ!



「エル? 愛は分かち合わないとダメですよ?」


 エレナさんが聖人様っぽい事を言ってきた。そりゃーこの人、初代聖女で教皇だけどさ……。


 しかし、俺にはその言葉は『蹂躙』と聞こえる。


「そうよ? は協定で分かち合う事を決めたの。今回は優しくしてあげるわ」


 リーシェさんの優しい言葉には必ず裏がある。

 まぁ、エルフ族の王女なら納得だ……。


 今回は乱暴な逢瀬はしないと言っている。しかし、が無い事から蹂躙される日々が続く事が予想される。


 つまり捕まればの相手をさせられるのだ。



 全員と言えば──他の奴らもこんな肩書きあるのか?



 ピコンッ


『あります』



 最悪じゃん……。



 絶対捕まりたくねぇ……そもそも責任取れって──



 こいつらが勝手に襲ってきただけじゃんか!?




 あー、無理無理。俺には荷が重すぎる。



 逃げ一択だな。



 俺は『幻覚魔法』で俺の幻を大量に出す──


「やるのね?」


 リーシェさんがそう聞いてきた。


「──逃げさせて頂きます」


「リーシェ、こうなったら説得は無理よ。二度とこんな事をしないようにしないと」


 エレナさん……あんたはそれがしたいだけだろ……。


「そう、ね……仕方ないわね……出来れば自分の意志で戻ってきて欲しかったな……」


 リーシェさんは少し俯きながら言う。


 実は俺が絡まなければ比較的まともな人なんだがな……。


 俺の事や夜になるとクールな一面は消え去るが……。



「とりあえず──逃しませんよ? 『聖界』──怪我は私がちゃんと治しますからね♡」


 エレナさんは聖属性魔術の結界魔術で俺を閉じ込め──


「エレナがいたら殺さなければ大丈夫か──エル、私の愛を受け取りなさいッ! 『雷帝』──」


 リーシェさんは雷魔術を己に付与して金色に光る──



 Sランクパーティ『慈愛の誓い』メンバーである──


『金獅子』と『不死者』の異名持ち2人が本気だ。



 俺は顔面蒼白になる──




『辛い時、悲しい時、しんどい時、どうにもならない時はとりあえず笑いなさい。そうすれば気持ちが楽になるわ。そして考えるのをやめないでね?』



 ふと、母さんの最後の言葉が走馬灯のように過ぎる──



 俺は引き攣る頬を無理矢理、笑顔にする。



 そうだ──



 俺の本体はここにはいない。時間稼ぎに集中しろッ!

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