第2話

「エルクッ! お前なら行けるッ! お前は1人だけ残ったんだろ!? それにお前は『慈愛の誓い』の一員だからなッ! 『先見』の力見せてくれッ! 俺達はもしもの時の為に待機しとくぜッ!」


 俺は苦笑いを浮かべて手で合図を返す。


 今、声をかけて来たのは飲み仲間のBランク冒険者だ。1年前の死闘後に仲良くなった。


 後ろをチラッと見ると街を守る為に冒険者や騎士団が控えている。


 つまり、他の冒険者や騎士団の連中はこれを俺1人でどうにかしろという事だ。



 ……生贄にされた気分だ。


 まぁ、ランクだけを見たら俺より高い奴がいないし、Aランク以上は人外認定されてるから仕方がないが……何でこんな時に限ってAランク以上が俺しかいないんだよ……。



 ただ、これだけは言える。


 明らかに俺の二つ名は物理でなんとかする系ではないだろう──


 それと通常のAランクではドラゴンに単独では勝てないッ!


 更に言えば、こんな事になるなら仲間をここに残してたわッ! 俺は基本的に荷物持ちだぞ!?




 そんな事を考えていると再度ドラゴンが咆哮を上げる──




 いや〜、本当凄い迫力だな……大気が揺れているぞ?


 現在、俺は1人だけ前に出てドラゴンとお互いに睨み合っている状況なのだが──


 Sランクパーティに1年ぐらいいたんだ。こんな絶望的な状況は初めてではない。


 その為、震える事もなく、俺は腕を組みながら堂々と仁王立ちをしている。


 なんせ、今の所は俺の秘蔵していた結界魔道具で頑丈な結界が張られていて、ドラゴンが近付く事が出来ないのがわかっているからだ。



 何でこんな事になったんだろ?


 きっと、パーティメンバーに無断で逃亡しようとした罰が下ったのかもしれない……。


 あぁ、本当に運が悪い。



 せめて、俺の【加護】が戦闘向きなら真っ向勝負でも多少の可能性はあっただろう…………いや、ドラゴンなんか無理か……。



 まぁ、加護があったお陰で命を救われた事も多々ある──その事もあって二つ名がついたが……。



 ちなみに俺の入っているSランクパーティ『慈愛の誓い』のメンバーなら単独で目の前のドラゴンぐらいは正直、瞬殺だろう。


 半年ぐらい前にあいつらドラゴンの巣で無双してたからな……。



 成り行きで入れてもらっていたSランクパーティだが、俺はついていけずに常々抜けたいと思っていた所だ。


 冒険者になりたての頃は強くなれる自信があったが、今は皆無だ。


 抜けたい理由としては──


 ほぼ荷物持ち同然の俺は、どう考えても死ぬ運命しか見えない。


 ダンジョンに嬉々しながら潜るし、強敵のいる高ランクの依頼ばかり受けやがる。


 何度死ぬかと思ったか……。


 それに俺以外のパーティメンバー全員が女性ばかりで、周りからの嫉妬が凄かったのも抜けたいと思っていた理由だ。



 最大の理由としては──メンバーがじゃなかった……常識が通用しなかったり、病んでたり……。



 とりあえず毎日がハード過ぎて、何度か逃げ出した時もあったが──



 何故か何度も連れ戻された……今なら理由はんだけどな。


 この間『鑑定』というスキルを手に入れたんだが、これは物の名前や説明が表示される。


 あいつらから貰ったネックレスには居場所が特定出来る効果のある魔道具だった……脱走する俺を捕まえる為に用意したんだろうな……。


 好かれてはいるんだが……いかんせん色々と怖いと思った。



 ネックレスを外せば今回はいけると思ったんだがな──




『グゴオォォォォォォォッ』


 ドラゴンの咆哮がさっきまでより大きい。


 ぼちぼち結界が破られそうだな……周りから早くなんとかしろという視線が突き刺さってくる。



 だが、まだ動くつもりはない。


 というか、まだ動ける覚悟が出来ていない。




 現状を簡単に整理しよう。


 あいつらに無理矢理行かせた旅行中に冒険者ギルドで脱退申請して抜けようとした矢先にドラゴンが現れて、唯一街にいた高ランク冒険者としてドラゴンの前に差し出された。


 そして、後ろにいる冒険者や騎士団達は堂々としている俺に羨望の眼差しを向けている。


 あいつらが馬鹿みたいに強いせいで俺も強いと思われているのが凄くわかる。



 とりあえず、こいつをなんとかしないと俺は死ぬ。


 パーティ名に泥を塗るわけには行かない。逃げる選択肢は無しだ。


 なんせ、あいつらがどんな奴らであれ──俺の恩人なのは変わらないからな。


 倒せなくても、せめて撃退はしたい。



 そして、パーティを抜けて自由に生きよう。



 最高の結果は撃退した上で俺が死んだ事になるのが1番良いだろう。ただ逃げるだけだと捜索されて連れ戻されるからな……。



 良しッ! 作戦名は決まったッ!


『ドラゴンを撃退して街を守った英雄は相打ちしました』


 ──これで行こう。



 俺の未来の為にドラゴンよ、糧になれッ!


 の俺なら行けるッ!



「さて──最後に一花咲かせますか────」


 周りは俺の雰囲気が変わり、期待に満ちた表情を向ける──



 それを見て、俺の頬は引き攣る。


 過度の期待で胃がむかむかするッ!



 だが、俺はこの状況を出来る。



 俺は今日【祝福ログインボーナス】で貰った竜滅剣ドラゴンスレイブ(使い捨て)を抜き放つ──



 今回の剣はまるで──


 目の前のドラゴンを倒す為にくれたように感じるのは気のせいだと思いたい。


 しかも、何故か使い捨てだ。どうせなら使い捨てじゃないのが欲しかったんだが……。





 ──あッ!?


 しまった!? あいつらの装備とか渡し忘れてた……。



 まぁ、退職金代わりに貰っていくか……。



 俺はドラゴンを見据えて剣を構える──


「さぁ──始めよう。早くしねぇと、俺が逃亡出来ねぇしな。行くぞッ!」


 ドラゴンは雄叫びと共に俺に爪を振りかぶると結界が割れる──





 その日──



 1人の若き高ランク冒険者が命を懸けて街を守り、最強種の一角であるドラゴンを撃退した──

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