96.待ち構えた
ぼんやりと番を知る者たちについて考えながら、ジェラルドはレイモンドの説明を聞いていた。
「大事なものが手に入らない。それが何かも分からなければ、どうやって手に入れられるものかも分からない。それなのに、それがないと生きていけないとさえ感じる。分からないそれを早く見付けなければ、息も出来なくなりそうだ。そういう強い不足感や不安感、焦燥感は、私も若い頃に覚えがあってね。そんなときに番を得て幸福の中にある者たちを見たらどう感じるかは、今の君にだって想像くらいは出来よう」
確かにそれは羨ましいと感じるに違いない。
番を知らない頃の記憶が薄いジェラルドにだって分かることだ。
それに番を奪われていた十年間。
番を知る、知らないに寄らず、ジェラルドには周囲のすべての人間が自分より幸福に見えていたのも事実だ。
あの頃のジェラルドには、番と離れる苦しみを知らぬすべての人が酷く羨ましく見えていた。
「それは番を知る者ならば、皆が自然に抱く感情だろう。だが私はね、その先は人それぞれ、どの方向に感情を転換していくかを決めるのは個人の意思だと考えているよ」
「どの方向に転換していくか、ですか?」
「羨望か嫉妬か。そういうことだよ」
ジェラルドは神妙な顔をして頷いた。
かつての自分も少なからず嫉妬を抱いていた覚えがあったから。
いくら探してもセイディが見付からず。
誰も彼もが羨ましくて、そして疎ましかったあの頃。
ジェラルドだって一歩間違えれば、一見して幸せそうな人々に危害を加えていたかもしれない。
あの頃は、王から与えられた仕事が救いになっていたのではないか、ジェラルドははたと気付いた。
セイディを探すためにと、他家の領地に入り、ついでに不正やらを暴いて糾弾していたそれが、気を晴らしていたように感じたからだ。
つまり王女もそうしたかった?
恨みが消えたわけではないが、初めてジェラルドが王女の心情に理解を示した瞬間である。
「まぁね、君や王女のようにまだ幼いうちの暴走に関しては、別だと捉えているよ。大人が手を貸すなりしなければ、あれはどうにもならないだろう。だからこそ、王女が幼いうちに王家は気付いて、対処をしておくべきだったね」
「私もですか?」
自分がまだ話題に含まれようとは思っていなかったジェラルドは、急かされたわけでもないのに慌ててしまった。
「君だって私たちが揃えばいつも不機嫌だったと言っただろう?シェリルと共に私も世話をしようとすれば、それはもう泣いて暴れて。君の場合は、それで番同士を見ることを回避して、幼くも乱れた心を鎮めていたのだろうがね。子に嫌われていると感じるあの辛さはなかったなぁ」
困った子を見るようにしてそう言われても……と困惑するジェラルド。
迷惑を掛けて申し訳なかったと謝ればいいのだろうか?と考えもしたが、レイモンドが先に話題を移した。
「王女がはじめて番同士を見たのは、君たちだったそうだ」
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