82.生まれたときから
王と王妃には王子ばかりが続けて生まれ、四人目となる御子が待望の姫だった。
故にその末っ子のお姫さまは、両親と兄王子たちから大層可愛がられ、一心に愛情を注がれて育つことになる。
しかもその王女、幼いうちはぼんやりと過ごすことが多く、もしや何かの病気では?と心配された。
そんな王女が心を動かし何かを願ったら?
すぐに周囲はそれを叶えようと尽力するだろう。
その形が自然に整えられていったのは、当然の流れであったように感じる。
こうして王女の願いは、幼いうちは何でも叶った。
これだけ愛されてきたのなら、心も清らかに成長しそうに思うだろう。
けれどもそう期待したようには王女の成長は成し遂げられなかった。
願ったことをすべて叶えてしまったことがよくなかったのだろうか。
それとも元々の気質の影響が強かったのか。
次第に王女の言動は、お城で働く者たちを振り回すようになる。
何をするにも興味が続かない王女にも、ひとつ好きなことがあった。
それが”動き回る”こと。
動くことが好きだと言えば、活発な子どもを想像するかもしれない。
しかし王女のそれは少々違った。
元気いっぱいに駆け回って遊びたいと望んでいたのではなく。
王女はただただ、場所を移動したがったのだ。
何かを目的にして動くのではなく、移動そのものが目的だった。
最初は良かった。
まだ幼い王女には多くの距離を歩くことが出来なかったからだ。
城の中を連れ歩けば、それで疲れてぐっすりと眠ってくれる。
それに幼い王女にとっては、城の中がすべてだった。
だが子どもはすぐに成長していく。
王女とてそれは例外ではない。
すぐに王女の身体と知識は、広い城の中だけでは満足出来ないようになっていた。
城の中はもう隅々まで知ったから、今度は外に出てみたいと言う。
これをすぐに叶えるわけにはいかなかった。
王女が王女だからだ。
幼い王女が外出するとなれば、整えるべきことは山積みとなる。
だから少し待てと、そればかり言われるようになった王女は癇癪を起こすようになった。
手当たり次第に物を投げていたら、ある日外出が叶ってしまう。
またしばらく城の中で過ごした。
耐えられなくなったとき、王女は部屋の中の目に付く物を投げ付けることにした。
すると翌日には外出が叶ったのだ。
今度は遠出も叶った。
もう王女は、城から遠く離れた場所に馬車で行けるという知識を得ていたから。
やはり周囲の対応が良くなかったのではないか。
王女はこうして幼いうちに願いの叶え方を学んでしまったのである。
とすれば、これを教えた彼女の家族。
父である王、母である王妃、兄である三人の王子。
たとえ彼らが本当に何も知らず関与もしていなかったとして。
責任から免れることは難しいのではないか。
そのように王女自身がこれまでの家族の対応を責めていたわけではないけれど。
王女は記憶を辿りながら、もうぺしゃんこに潰れているクッションをぎゅぎゅぎゅと踏みつぶしていた。
どうして自分は責められているのか。
どうして誰も助けてくれないのか。
それがずっと分からないまま。
どうしてどうしてどうして?
その胸に張り裂けそうな痛みを抱えているのが辛くて耐えられなくて、足でだんだんとクッションを勢い付けて踏んだあと、またぎゅぎゅぎゅと踵を押し付ける。
けれどもそんなことで、気分は晴れなかった。
ねぇ、あなた。お父さまは……。
話し掛けて無視をされるなんて、はじめての経験だ。
もう頼れるところは、好んできた香油だけ。
ねぇ、どうして?どうしてなの?
お兄さま?お父さま?お母さま?
王女はまだ家族の誰にも会えない。
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