第3話


 一緒に昼食をとり終えた二人は、再び例の鳥について話し合っていた。


 結局のところ二人が目の前で食事をしていても、嘴の近くに木の実をチラつかせても、鳥は相変わらずぴくりとも動かなかったのだ。一体どうしたもんかと揃ってため息をつく。


 その後も頭を軽くもたげてみたり、恐る恐る羽を広げてみたり、何度か柔らかい羽毛を撫でてみたり、外に響かない程度の大きな音を出してみたり、脚を動かしてみても何一つ反応がなかった。


 体はほのかに温かいが、死んだように動かないそれを前にこれ以上どうしようもなく、しかしながら大人たちの知恵を借りられない今の状況では二人で何とかするしかなかった。


 試せることは全部やった。万策尽きたとはまさにこのこと。

 新たな良案が思い浮かばないまま時間だけが過ぎていく。



 あ、とスイが唐突に声を上げた。


「魔力は?」


 魔力と言ってもその影響は微々たるもので、少しだけ植物の成長を促したりできる程度のものだったが、それを行使する者の力量によってはもっとすごいことができるらしい。小さな村で暮らすスイたちにとってはあまり活躍することがない力なのだが、生活の補助的な役割を果たすくらいには魔力を使うことができる。


「ほら、ソクさんが村長の腰痛を和らげるのよくやってるし、もしかしたら……」

 期待を込めてナッドの顔を見ると、大きく頷いてくれた。

「よし、やってみようぜ」


 少しの希望が見えたことで、二人の目に光が宿る。まずは発案者であるスイが試すことになった。



 ゆっくりと深呼吸して右手をかざす。

 起きろ、と願いを込めて手のひらに魔力を集中させた。


「痛っ⁉︎」


 パチリと小さな閃光が走り、かざしていた右手に静電気のような短い衝撃を受ける。


「大丈夫か⁉︎」

 ナッドが心配して椅子から立ち上がったので、スイはもう片方の手で右手をさすりながら大丈夫だと頷いてみせる。


 直後、突然目の前の鳥がものすごい勢いで暴れ出し、驚いた二人は、うわぁっと叫び声を上げてその場から飛び退いた。


 バッタンバッタンと体をテーブルに打ち付けるように、美しい羽をめちゃくちゃに羽ばたかせる姿に、スイは自分が魔力を送ったせいかと青ざめる。

 動いた、という喜びは微塵も湧かないほどの暴れようだった。ナッドもどうしたらいいかわからず、ただただ呆然とするしかなかった。



 狂ったように暴れていた鳥の脚がテーブルの木目に着地すると、羽ばたきを止めて姿勢を正し、今度は優美な動きで羽をたたんだ。


 ようやく落ち着いたらしい様子に、スイとナッドは顔を見合わせてそっと息を吐いた。


 本当にびっくりした……。

 結果としては起こすことに成功したのだが、こんなに暴れるとは思わなかった。もっとこう、ゆっくりと目を開けて静かに目覚めるのかと思っていた。


「と、とりあえずやったな! スイ!」

「う、うん」

「にしてもびっくりしたよなぁ。急に暴れ出すんだもんな」

「うん……。でも大丈夫かな? もしかしたら俺が魔力使ったせいでどこかおかしくなったりとか……」

「大丈夫じゃないか? ピンピンしてるように見えるけど」


 改めてテーブルの上を見ると、暴れた時に抜け落ちた羽根がいくつか乗っていたが、当の本人は何事もなかったかのようにこちらを見据えていた。

 青空を映したような瞳の色がとても美しかった。


 スイは少し迷いながらも手を伸ばしてみた。相手を刺激しないようにゆっくりと伸ばした手は、拒絶されることなく受け入れられる。

 ホッと肩をなで下ろすと、指がふんわりと羽毛に埋もれる。


「よかった……平気?」


 自然とそう話しかけると、その言葉を理解したかのように鳥がパチリと瞬きをした。


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