幕間 勇者編・助けた少女後編

ミラは俺のことをどう思っているのだろうか。

助けてくれた恩人?優しいお兄さん?…それとも剣を教えてくれた師匠?

いつも、不思議に思った。

その輝かしい瞳には俺がどう映っているのだろうかと。

この異世界に召喚され、勇者になって、修行して魔物を倒して、剣を磨き、そんな人生を歩んできて、「いつ、俺は元の世界へ帰れるの?」とずっと不安を感じながら生きてきた。


いつ、俺は魔王を倒せるほどの力を得られるのだろう。

誰も信じれらない、必ず、いつも人を疑っていた。

正直、誰も信じていなかった。

それが俺、勇者、神谷伯、仲間すら信用しない、愚者の勇者だ。


「ミラ、手加減はしないよ…」

「師匠…私も今出せる、全てを…」


お互い剣を構える。

今までにない、緊張感…手汗が止まらない。


・・・基本スキル・剣術S・・・

・・・基本スキル・剣術B・・・


スキルが発動する音が聞こえる。

それが決闘の引き金となった。

同時に動き出す、それはほぼ完璧な出だしだった。

お互いの剣先同士が衝突する。

ほぼ同じ力がのしかかる、しかし…ミラはすぐに次の行動に移す。


・・・剣術スキル・居合斬り・・・


衝突する力をそのまま利用し、勢いのままにスキルを発動させる。


「甘いな…」


しかし、勇者はすでに次の布石を用意していた。

剣術スキル・居合斬りは確実に胴を捉えていた、だがそれを逆に利用した。

剣術スキルにはある弱点がある、まぁスキル全般に言えることだが、基本、一度発動したスキルはそれを終えるまで次のスキルを使うことができない。

つまり、スキルは慎重に使わなければならないのだ。

だから、基本…スキルは後出しが強いのだ。


・・・勇者スキル・自動反応・・・


俺は瞬時に避ける。

そしてすぐに攻撃を仕掛ける。


・・・剣術スキル・瞬光一閃・・・


光の速度で一瞬の煌めきをミラは見る。

凡人なら、これで終わる、剣術スキル・瞬光一閃は剣術スキルの中でも習得が難しいスキル、天才のミラですら、まだ習得できていない。

でもやはり、ミラは天才だった。


・・・勇者スキル(偽)・自動反応・・・


ミラはギリギリで避けた。

あとほんの一瞬、反応が遅れたら、終わっていただろう。


「今のは…」


俺は一瞬、目を疑った、剣術スキル・瞬光一閃は避けることがほぼ不可能だ、それこそ、勇者スキル・自動反応か攻撃無効を使わない限り、絶対に…。


「できた…」


ミラは今、この瞬間にも成長している。

このままいけば、俺に匹敵するほどの力を得るかもしれない。


「これは、油断できないな」


俺は、本気で立ち向かおうと思った。


・・・勇者スキル・弱点看破・・・

・・・勇者スキル・天昇・・・

・・・勇者スキル・千里眼・・・

・・・勇者スキル・勇気・・・


「ミラ…今の君に、この攻撃が見切れるかな?」


ミラは師匠の雰囲気が一変したことを感知した。

本能が言っている、全力で防げと…

ミラは考える間も無く防御に身を構えた。


・・・勇者専用剣術スキル・神速剣【逆鱗】・・・


目に見えないスピードで剣撃がひたすら繰り出される。

いくら、反応速度が早くとも、全てを反応し、避けることは不可能だ。

ミラが防御に全リソースをさく。

早い、早すぎる、防ぎきれない。

少しでも距離をとって攻撃範囲内から離れようとするが、剣撃が避け道を塞ぎながら繰り出される。


「わたし…だって、教えられたことだけをやってきたわけじゃない」


ミラはわかっている、師匠はまだ本気を出していない。

せいぜい出していて実力の半分くらい。

息を整える…この攻撃の中じゃ、もう逃げることもできない。

なら、逆に仕掛ければいい。


ミラは目を瞑り、剣を構える。

攻撃は急所のみ避けてあとは無視だ。

ミラが狙うは師匠の一瞬の隙、攻撃が通る瞬間だ。

私はただ、その瞬間を見逃さないように集中すればいい。

そして、今のミラならその隙を捉えることができた。


「今だ…」


・・・剣術スキル(応)・白刃馬切り・・・


剣撃が繰り出される中、白い剣筋が師匠に降りかかる。

確実に剣撃を掻い潜りながら、隙を突いた一撃。

強くなった…本当にミラには驚かさせられる。


まさか、剣術スキルを応用し、新しいスキルとして使うなんて、俺にはできないことだ。

だってミラがやっていることはほぼ、新しいスキルを作ったに等しいことをやっているのだから。

だから、俺も全力で応えようと思った。


・・・勇者スキル・限界突破(第三段階)・・・


ミラは確実に決まったと思った、だが次の瞬間、私の攻撃はかき消された。

いや、正確には弾き返された。


「ミラ、よくここまで強くなった…だけど…君じゃあ、俺には勝てない」


私は今でも覚えている、師匠の黒い影……瞳に宿す、暗い影を…


・・・勇者専用剣術・抜刀【極光】・・・


気付けば、私の剣はスッパリと斬られていた。


「俺の勝ちだな…」

「参りました…」


この決闘は俺の勝利に終わった。


「やっぱり、師匠はすごい!!」

「何言ってるんだ、ミラこそ、あの最後の一撃はすごかったぞ、正直、少しだけ焦った…」

「でしょ!!まだまだ応用効きそうだから、次に決闘する時はもっとう、ムラのない、隙のない一撃になっているはずだから…」

「そうか…」

「行っちゃうんだね、師匠…」

「ああ…」

「また、会えるよね」

「そうだな、次は魔王が倒された時に会えるかもな」

「じゃあ、絶対に約束して!!魔王を倒したら会ってくれるって!!」

「う〜ん、どうしようかな?」

「ちょっと!ひどいよ!師匠!!」


ミラは俺の頭を叩いてきた。


「ははは、ごめんって…約束は守るよ…」

「…うん!!ありがとう…勇者様!!」


こうして最後の夜を一緒に過ごした次の日、師匠はすでにいなくなっていた。

我慢した、我慢した、涙を流さないように我慢した。

泣いちゃダメだ、泣いたら師匠が心配するから。

ミラは鼻水を啜りながら、ある決心をする。


「冒険者になろう、そして師匠より強く…次会った時、恥じないように…」


ミラの中である覚悟が決まった。

泣いている時間も寂しがる時間もない。


「強く、強くなる…」


私を救ってくれた勇者様、私は知っている、覚えている、だからこそ……


「よし!!いざ、新しい旅路へ!!」


こうしてミラは前に進むのだった。


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カクヨムではここで連載を終了したいと思います。


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俺は世界…いや、異世界最強だ!!……人間なんて怖くない 柊オレオン @Megumen

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