第24話 クラス対抗剣術勝負は決勝へ:神谷伯 VS 星波麻那

お昼の時間が終わる。

俺もだいぶ回復してきたところだった。

医療班にも出場する許可をもらった。

最後の決勝戦に向かうと、トーナメント表にはAクラスとCクラスがしっかりと書かれていた。

やっぱり、相手はAクラスか…

わかっていたことだが、今思うと無謀だ。


「おっ!伯だぁ!!こっちだ、こっち!!」


俺のことを呼んでいたのは手を大きく振る、蓮也だった。

俺は呼ばれるがまま、蓮也の元まで向かう。


「やっと、きたか、怪我は大丈夫なのか?」

「ああ、手以外、完治した…手はまぁ、完治とまではいかないが、使える程度にはな」

「なら良かったけど、無理すんなよ…それに拍は本当に運が悪いよな」

「?」


俺は何が運が悪いのかと疑問に思った。


「トーナメントの表を見てみろよ」


俺はそのままトーナメント表に視線を向ける。

形式は同じ、10回戦で1回戦ごとに相手となる名前が記載されていた。

俺は…えっと〜〜〜


「あっ…なるほどな、最悪だ…」


相手はフィナ・アルマスではなかった、それで言えば、最悪という表現は間違っているかもしれない。

2回戦・神谷拍VS星波麻那

しっかりと、対戦相手に星波麻那と書かれていた。

ある意味、最悪の次に最悪の対戦相手だ。

しかもよりよって、コンディションが悪い時にだ。


「腹括るしかないな…」

「まぁ、あれだ…頑張れ!!」

「ああ、いくら絶望的でも一泡ぐらい吹かせるさ」


とはいえ、麻那の実力は計り知れない、前のように油断したら、一瞬でやられるだろう。

どうしたものかな…。

こうして、クラス対抗剣術勝負・決勝戦が始まった。


「それでは決勝戦を始めたいと思います!!」


一回戦目は緊張の走る戦いだった。

この一戦、どちらが勝つかでやる気が変わる。

特にAクラスは誰よりも優れた存在、その自負がより最高の力を発揮する。

それ比べ、Cクラスにはそれがない、だからこそ、この一回戦目はとても重要だ。


「あれ?」


そういえば、なんか、先生の数が少なくないか?

別におかしいかと言われれば、別になんとも思うわないが…。

気づけば、1回戦目が始まっていた。

両名ともに知らない生徒だったが、さすがAクラス、魔力量もそうだが、魔力操作も荒くなく、剣術としてもかなりの腕だった。


「くっ…強い…」

「ここまでです…降参しなさい、AクラスとCクラスでは格が違うのです」


やはり、実力も魔力量も負けている。

さすがAクラスだ…。


「くっ…降参だ…」


Cクラスの選手は降伏を宣言した。

初戦の勝利はAクラスが収めたのだ。


「当たり前の勝利です」


Aクラスのやる気は一気に跳ね上がる、活気に溢れ、流れがAクラスへと流れていく。

Cクラスの出だしは最悪なものとなった。


「くそ…やっぱりAクラスには勝てないのか…」


悔しくて涙を流すものもいる。

次は俺の番、相手は学園最強…勝利なんて期待されていないだろう、だが、せめてCクラスでもAクラスに一泡拭かせることができることを証明しよう。


「気をつけてほしい、拍…」


まさか、青山拓が俺に心配の声をかけたのだ、しかも名前を呼んでだ。

俺は少しだけ戸惑ったが、落ち着いて返事をした。


「心配はいらない…」


俺は一言、残せば大丈夫だと判断した。


「そうか、じゃあ、勝っておいで!!」

「ああ」


まさかの「勝っておいで」と言われるとは、青山拓の俺に対する評価が上がったってことだろうか。

それにしても「勝ってこい」は流石に無理かな、けどまぁ面白いものは見れるかもな。

なんだろうか、あつい…今まで感じたことがないくらいに熱い、いや前に一度感じたことがあったような…

舞台に上がる、この一戦は観客にとっても緊張する戦いだった。

正直、お腹が痛い、こんなに緊張することなんて久しぶりだ。


それこそ、異世界いた時以来だ…だが少しだけワクワクする気持ちもある。

お互いが、舞台に立ち、準備を始める。

両者、剣を構える…緊張を肌で感じ取れる。

周りの空気が冷たく、凍えているのがわかる。


「まさか、この行事で戦うことになるなんて、少し早いけど、嬉しいよ」

「はは、俺としては戦いたくなかったよ…」

「ふふ、そうですか、けど手加減はしません、今出せる全力を拍、あなたにぶつけます」


麻那が高揚しているのがわかる、きっと今を楽しんでいるのだろう。

ははは、勘弁してくれ、こっちは緊張もあって、楽しむ暇なんてない。


「ああ、俺も今出せる全力を出す」

「それでは…両者!!構えて!!、では……初めて!!」


その言葉と同時に麻那は自然に俺の懐に入り込む。

早いだけじゃない、予備動作はほとんどなく、普通なら誰も気づかない。

だが、俺には勇者スキル・自動反応がある、そしてスキルは確実に麻那の動きを完治した。

俺は剣に魔力をこめて、麻那に向けて叩きつける。


「くっ…」


確かに隙を突いたと思った、だが拍くんはそれに完全に反応した。

お互いの剣が衝突する。

そして地の利を利用した俺は力で押し合いに勝利する。

上からくる攻撃に下から受ける者はそう簡単には勝てない。


「なっ!!」


麻那は力を負けをして、大きく、剣ごと地面に叩きつけられる。

だが、麻那はそんなことでは止められない。


・・・剣王・自動反応(未)・・・


叩きつけれた瞬間、死角から足蹴りを繰り出す。

俺が反応した時には少しだけ遅かった、頬にかすりながらも後方に距離をおく。

「おいおい、あの状況から…」

完璧に死角からの攻撃だった、自動反応があったからかすり傷で済んだが…


「いてて…さすがに今のはヤバかったよ…」


麻那は言葉とは裏腹に余裕そうで平気な顔をする。


「けど…そろそろウォーミングアップはここまで…」


麻那から魔力が溢れ出す、激流の如く溢れだす。

その場が重くなる、まるで重石をたくさん背中に背負っている感じだ。


「これは…」


なんという魔力量だ…下手をすれば、魔力だけ相手が倒れるかもしれない。

それほどまでに魔力が濃く、そして多い。


「ふぅ〜〜〜〜〜〜」


溢れ出す魔力が剣に掌握され、凝縮され、一振りの剣に収まりきった。


「嘘だろう…」


俺は正直、驚いている、あの剣を俺は見たことがある。

異世界にいた時、剣聖が使っていた、ただの剣を魔剣へ聖剣へと変える技法、まさか麻那が独自で生み出したのか…【魔聖創造(ませいそうぞう)】

圧倒的魔力と歪みのない無駄のない魔力操作ができる技法、しかもこれができるということは俺と同等の魔力を持っていることになる。


「さぁ、少しだけ本気で行きますよ…拍くん、出し惜しみしていると負けてしますよ」

「ははは、やっぱり《剣王》の王候補と呼ばれることはあるな…」


いや、勝てないよさすがにこれは…。

せめてスキルが通用すれば、あるいわ…いや、まだ方法はある。


「もってくれよ…俺の体…」


あくまで攻撃に対してスキルを使わなければいいだけの話…なら…なら。


・・・勇者スキル・限界突破(第二段階)・・・


神経が研ぎ澄まされていく、感覚が敏感になっていく、視界が鮮明になる。

体の底から力で溢れてくる。


「いこうか、第二ラウンド」

「いきましょうか」


俺は相手が動き出す前に素早く動いた。

今ある魔力を全て剣に込める。

右左左右と同じ攻撃はせず、テンポをずらしながら猛攻する。

相手に攻撃の隙を与えない、相手に攻撃する思考をさせない、受け身に徹しさせる。


「うおぉ〜〜〜〜〜」


麻那はその猛攻を完璧に受け流す、焦ることも冷静を欠くこともない。

全てを的確に捉え、対応している。

そして俺の猛攻が続くこともなかった。

できる限り、隙を与えずに攻撃していたが、それでもいずれ隙は生まれる。

そして麻那がそんな隙を見逃すはずもなかった。


・・・剣王・居合切り(未)・・・


俺が一瞬、気を抜いた瞬間、俺の懐に入り込む。

光り輝く剣の閃光が俺の胴体を狙う、俺はそれに反応するが…

わかっていても、避けられない、間に合わない。


完全に隙を突かれた、ここまでなのか…

負けることはわかっていた…最初っから勝てないとわかっていた。

そんなことはわかっている!!

だけど、諦めらない、最後まであきらめてたまるか!!


・・・■■■スキル・自動反応・・・


雑音が聞こえた、何を言っているのかわからなかった。

だがこの音がスキルが発動する音だということだけはわかる。

纏っていた魔力が薄暗い黒に変化するが俺自身、気づかない。

そしてその瞬間、時が止まったかのような体感をする。


『あれ?どうして止まっているのだろう?』


完全にみんなが止まって見える、いや、よく見ると少しずつ動いている。

そしてこのチャンスを逃してはいけないと思った。

もはや、余計なことは考えるな、この瞬間、このチャンスを絶対に逃すな!!

俺は今起きていることに目を向けず、勝つ可能性に賭けて全神経を集中させた。

そしてそんなゆっくりと流れる時間が元に戻ると、俺はギリギリ避けることができた。


「なっ!!」


その状況に麻那は動揺した。

麻那は確実に決まったと思った…確実に隙を突いた、避ける時間、思考などなかった。

だからこそ、この状況に思考を乱される、冷静だった脳が冷静を欠く。

そして俺はその最大のチャンスを見逃さない。


『ここで決める!!』


・・・勇者スキル・限界突破(第三段階)・・・


限界の限界を超えて、今ここで精一杯の一振りを!!

剣に纏わりつく魔力にさらに魔力を注ぐ、血反吐を飲み込み、全神経に痛みを感じながらも我慢する。

こんな戦いにそこまでする必要はないかもしれない、けど、そうだ、俺は今も昔もなんやかんやで負けず嫌いだった。


込めろ!!今ある全てを!!


隙ある背中に思いっきり叩き振り下ろす。

だが、麻那は瞬時に振り向き、剣でその攻撃を受ける。

地盤が揺らぐほどの衝撃が加わるが麻那は倒れず、受けるが俺はそれでもさらに魔力を注ぎ、今ある力を剣にこめて麻那に向ける。


すごい、麻那はほんとにすごい、今ある全てを使っているのに倒れない。

それどころか、俺の精一杯の攻撃を受けきろうとしている。

感心した、ここまでの強さ、どれだけの努力をすれあば、手に入るだろうか。

俺の知っている麻那と今の世界の麻那が違う、別人であることは自覚している、わかっている。

けど今は麻那を称賛しよう、だけど今回は俺に運が向いていたようだ。


『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ』


俺は力で押し切った。

今ある全て、とっくに限界を超えているはずなのにさらにその先へ、一歩、俺は進む。

麻那の剣は耐えきれなくなり、弾かれる。


そのまま俺の剣は麻那に直撃し爆発する魔力に飲まれていった。

外で見守る生徒たちは静まり返った。

そして煙の中で倒れている影と立っている影が生徒たちの視界に映る。


「はぁはぁはぁ」


立っていたのは、Cクラスの神谷拍だった。

Cクラスは喜びに満ちた声が響き渡り、Aクラスは変わらず、静まっていた。

俺はすぐに膝から崩れ落ちる。


勝てた…勝てた…なんとか勝てた…運が良かった…運が味方をしてくれた。

麻那が完全に本気を出す前に倒せたのが勝利の決め手になり、うっすらとだがみんなが駆け寄ってくるのが視界に映る。

俺の仕事は終わった…あとは任せるとしよう。

すると不穏な声が囁かれる。


「いやいや、ほんとにいい仕事をしたよ、神谷拍…」


薄れていく意識が一気に目を覚ました。








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