第42話 初の出来事(1)
もう夏季休暇も終わるという日の昼、二人は和泉の家にいた。
映画を観る為、ベッドを背にして床に座る。
亜姫は、和泉の隣にいるとやたらくっつきたくなる。あの腕に包みこまれたいと思ってしまうのだ。
初めて抱きしめられた時から、なぜか絶対的な安心感を感じていた。同じぐらいドキドキもするけれど、それも含めてあの腕の中がたまらなく好きだ。
でも、自分からその中に飛び込むのは恥ずかしくて。和泉が抱き寄せてくれるまでは、どうしても少しばかり距離をあけてしまう。
今日も、最初は少し隙間をあけていた。そのうち和泉が肩を抱き寄せてきて、それを待っていた亜姫は抵抗することなくもたれ掛かる。
今観ているのは恋愛映画で、片想いしている女の子がとにかく可愛らしい。亜姫はすぐにのめり込み、和泉がいるのを忘れて夢中になった。
チュッ。
こめかみに柔らかいものが触れ、亜姫の意識が現実に戻ってくる。音がした方を見上げたら、和泉と目が合った。
あの、熱をもった瞳。それが柔らかく細められている。
その瞳へ吸い寄せられるように唇が重なった。それは優しく触れ、名残惜しそうに離れていく。
今したばかりなのに、もう恋しい。だが口にするのは恥ずかしい。なので、代わりに触れ合う肩へ首を傾けた。
「観ないの? あの女の子、可愛いよ」
「そう? 俺は、映画に夢中な亜姫の方が可愛くて好き」
思いがけず愛を告げられ、亜姫は頬を染めて俯く。
そんな亜姫の顔や髪を、和泉が愛おしそうに撫でてくる。
和泉に怒鳴られたあの日以来、触れ合いが増えた。
と言っても、亜姫は少しずつ変わる形を受け止めるのが精一杯で余裕などないのだが。
それも理解したうえで、和泉は様子を見ながら優しく触れてくる。
和泉に触られるのは嫌ではなく、むしろ好きだ。それは最初から変わらないし、あの日の事を和泉が謝る事などないと思っている。
だが、和泉はそれじゃ駄目だと言った。何をされているかちゃんと理解しろと。
そして色々と知った結果、最初に覚えたのは強い羞恥心だった。
無知からくる自分の行動や発言がどれだけはしたなかったか。知った時は顔から火が出るかと思った。
あまりの恥ずかしさに布団を被って引きこもり、今更だろうと和泉に散々笑われたのは苦い記憶だ。
だが、和泉は亜姫が不安を覚えたり二人で過ごすことを躊躇したりしなくて済むよう、常に気を使ってくれた。
そういう優しさは至るところに散りばめられていて、おかげで触れられる行為が少しずつ進むのを自然と受け入れることが出来た。
最近では、触れ合いがないと少し寂しいとすら思うようになった。
そして映画を観終えた今、和泉に優しい手つきで抱きしめられている。
やはり居心地が良い。包まれていることに幸せを感じる。頭のどこかではしたないと思いつつ、心地良さに甘えて縋り付いてしまう。
普段なら、こうしているうちにいつの間にか寝てしまうのだが。
今日は、ふと疑問が湧いた。
「ねぇ、和泉? 心と体の準備が出来たら……って、どんな状態?」
「えっ?」
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