第22話コヤマ君

看護師のコヤマ君とは初めて原病院に来たときに身体検査をされ、名刺入れの中の大量の風俗嬢の名刺を見られて以来、実に6年間の付き合いだった。ヒラカタを取り合ったりもした(笑)。

ヒラカタと同い年のコヤマ君は31歳にして嫁さんと二人の男の子を持つヘテロパパでもあった。


退院後の生活をどうしていくつもりなのか訊かれて、

はじめは「伊東乾先生や村田美夏さんとやっていく」と意気込んでいたが。父親が、

「あんな連中が何をしてくれたっていうんだ?6年間も入院していて見舞いのひとつにも来ないじゃないか!」と。


結局、原病院を退院して松戸市、江戸川区のグループホームを転々として。

その間、文学、研究、音楽を書き上げ、作家、研究者、ミュージシャンとしてそれなりに実存し、更にその上の、大きな物語を描いてきたが。とうとう最後まで伊東乾先生たちが現実の世界で豪志を助けてくれる事はなかった。

「全部俺1人でやったんじゃねーか!」

往年のGACKTさんの映画のワンシーンを思い出す。


如何にも東大らしいやり口というか。すべてテレパシーで済まし、自分の手は汚さず、一切リスクを取らず、現場に顔を出さず、カネだけは要求し、用済みとなれば損切りだけは早い。

本当に東大生ってヤツは、緑色の血が流れているんじゃないかと思う。


文学界からは、椎名誠さん、池井戸潤さんなどが興味を持ってくれたようで。特に椎名誠さんはヘテロなのに随分突っ込んだやり取りをした。

「「岳物語」の岳君はどうしていますか?」

「もう40歳。普通に家庭とたくさんの子供がいるよ。プロにはなれなかったが、サッカー選手も続けて、185cmの大型センターフォワードになった」


2015年夏ごろ、コヤマ君の付き添いで伊勢崎市内の大型ショッピングモール「スマーク」に外出に行った際。見知らぬ若いカップルが通りかかって、女の子の方が、

「あれ、奇跡の人じゃない」

男の子の方は、

「興味無い」と。

コヤマ君は素知らぬ顔をしていたが、豪志は、

「やっぱり妄想ではないな」と確信した。

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