20話 狩りの季節


 私が北方辺境にやってきて三週間が経った。

 手ごろな家に住まわせて貰えれば……と思っていたけれど、なぜかヴォルテール様のお屋敷に住まわせてもらい、タリさんに面倒を見てもらうという、至れり尽くせりな生活が続いていた。

 もっと粗末な場所で、一人で暮らせると言ったのだけれど、ヴォルテール様が強く引き留めて下さったので、お言葉に甘えている。


(節約できるところは節約しないと! きっと冬になったら薪代や防寒代で物入りでしょうし、独り立ちするためにも貯金と節約を心がけなくちゃね)


 冷え込んできたとはいえ、季節はようやく初秋。

 夏の名残を惜しみつつ、真冬までにはお金を貯める時間があるな、なんて思っていたら。


「そろそろ冬支度の時期ですねえ。気合が入ります!」


 とタリさんが言うので、私は驚いた。


「冬支度? まだ秋になったばかりじゃない」

「それはモグリの発言ですよ、ミルカ嬢。秋の日はつるべ落とし、紅葉が始まったと思った瞬間ドカ雪が降るのが、この地方の初秋なんです。さっさときのこや木の実を取りに行かないと、動物に食べられちゃいますしね」

「そうなの……。冬支度って、他にはどんなことをするの?」

「秋小麦や、ルッコラやラディッシュなんかの野菜の種を蒔いたりしますね。あとは薪を確保して、飼い葉を溜め込んで……干し肉作りなんかもやりますよ」


 そしてタリさんは待ってましたとばかりに、大げさな身振りと共に叫んだ。


「でもメインは狩り、ですね!」

「狩り……。鹿とか猪とか? ドラゴンの餌を確保しないといけないものね」

「まあそれもやりますけど、一番はドラゴン狩りですよ。ドラゴンに乗って、野生のドラゴンを追い込んで狩るんです」


 ドラゴンに乗ってする狩りなんて、初めて聞いた。どんなドラゴンを狩るのだろう。


「狩るのはまあ小型のドラゴンですね。ラジャニ・カラ種とか」

「ああ、高山地方で群れをなして生活する小型のドラゴンよね。小型といっても、山羊くらいの大きさはあると聞いたけど」

「そのラジャニ・カラ種を主に狩ります。この時期は脂が乗ってて美味いので。ただ彼らも黙ってやられてはくれないので、毎年結構大変です。命を落とすドラゴンもいますから」

「冬を乗り越えるって大変なのね……」


 ドラゴンは大量の肉を食らう。彼らと共に暮らすのであれば、常にそのことを頭に入れておかなければならない。

 だから、餌代を捻出するのが大変なのだ。アールトネン家でも、自前で牧場を持って、羊だの豚だのを育てていた頃もあったけれど、どちらがお得かはドラゴンの数と食性によるので、何とも言えない。

 ここ北方辺境には、百頭を優に超えるドラゴンが生息しているから、用意しなければならない肉もまた膨大なのだろう。


「で、これはヴォルテール様からの提案なんですけれど、ミルカ嬢も狩りにご一緒しませんか、とのことでした」

「私が? 女でも行って良いのかしら」

「ドラゴン乗りの中には結構女性いますよ。それに、ミルカ嬢にとっても勉強になるでしょう?」

「それはもちろん!」

「じゃあ決まりですね! 今年最初の狩りが明日早朝から行われますから、ミルカ嬢もそのおつもりで。ヴォルテール様には私から伝えておきます」


 ドラゴンの狩り、か。

 初めてのことで胸がどきどきするが、それで日常の仕事をおろそかにしてはいけない。


(今日はギムリさんと、ドラゴンの歯の検診をしなきゃいけないんだった。急がないと)


 私は朝食の黒パンサンドイッチを口に押し込み、濃い紅茶で流し込みながら、席を立った。

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