第8話 詳細プロットを作ろうⅠ〈プロットづくり③〉

 みなさま進捗どうですか?

 私は芳しくありません。


 というわけでみなさまお疲れ様です。電気石八生と申します。

 ここでは前回整えました第一幕のプロットに肉づけ……各場面へエピソードを詰めていく作業、すなわち「詳細プロット」を作成していきます。


 詳細だけにそれはそれは長くなりますので、今回はその導入までとなりますこと平にご容赦を。


『アウトラインから書く小説再入門』(K.M.ワイランド/フィルムアート社)を参照するに、詳細プロットとは「できるだけくわしくストーリーの要所を並べていく」作業。

 手をつける前にまず、前回改善を施した一幕をこのように分割します。


〈一幕:江戸ホストの設定紹介とそれを始めた当初のドラマ〉

【オープニングイメージ】

●藩お抱え力士の鷹羽はなにより大切な存在である若君を失い、藩の屋敷の庭で後追い自殺を企てる。

【テーマの提示】

●それを藩主に止められ、士分剥奪されたあげくに生き続けることを強いられる(彼にとってそれは呪いに等しいものとなる)。


【セットアップ】

●すべてを失った状態で江戸へ流れついた鷹羽。力士としての自分の錦絵(ディフォルメされた絵なので、周囲の人々は彼の正体にまるで気づかない)の横に飾られた水茶屋の看板娘の錦絵を見、水茶屋へ行ってみることに。


【きっかけ】

●看板娘を眺めている中、火事を見つける鷹羽。火に包まれた料亭へ駆けつけた彼は、内に残された人を助けに飛び込み、悠然と酒を飲むはなと出遭う。自分が望んでやまない死をたかが死と嗤う彼女に憤りを感じ、死なせてなどやらぬと奮起。焼け落ちた梁を両肩で受け止め、大やけどを負いながらもはなの酒宴を守りぬく。

●鷹羽は、命を救ったはなの家の客として受け入れられる(医者として来た鼠窮、助手役のきぬと出会うが、この時点で正体は語られない)。が、生き続けなければならないのに進むべき道は見えず、懊悩する。


●はなとの暮らしの中で、彼女が死というものに見放されたものだと知り、興味を抱くように。その中で自分の世話役についた女中・ちよとも交流を持ち、弱さを指摘されると共に尻を叩かれて、とにかく生きる道を探し始める。


【悩みのとき】

●はなや鼠窮の支援の申し出を断り、元力士の身分を隠して口入れ屋に通い出すが、怪我のこともあってできそうな力仕事は見つからない(自分が失う以前になにも持っていないことを自覚し、さらに懊悩)。


●火事で燃えた料亭の建て直しが完了したことを告げられ、それがはなのものであることを知る。できる仕事がないならその店で商売をしてみろと言われ、困惑。技術も伝手もない自分になにができる? そこで看板娘のことを思い出し、口にする。正体が明かされた鼠窮やきぬを加え、話を詰める中で鷹羽の接客を売ることに。が、そこではなから、天下無双の鷹羽を売る店が安っぽくては意味がない。店の貸し賃は三月で100両と告げられ、混乱することに。


●とりあえず商売を始めてみるが、無名の大男に酷い高額がつけられたことから客は来ない。それでも宣伝するため町へ出た鷹羽は、捨て鉢な大喧嘩を繰り広げる御郎と出遭い、彼の内に若君と出会う以前の自分と同じ空虚を見る。

 助けられた御郎は哀れまれたのだと思い違い、殴りかかる。が、難なく受け止められる中で鷹羽の深い悲哀を見、鷹羽ほどの男が萎れていることに憤りを感じるように。

 御郎が剥き出す感情を受け、鷹羽は自分が独り相撲していたことを自覚。相撲も生きる道も、独りでは全うできない。御郎を店に受け入れることを決めたと同時、彼ははなに力士であった自分を隠すのはもうやめだと告げ、鼠窮、きぬに鷹羽の土俵入りを喧伝してくれるよう頼む。


【第一ターニングポイント】

●大観衆の見守る店先で、不知火型の土俵入りを決める鷹羽。その拡げられた両肩には火傷の痕が鷹の羽よろしく刻まれており、「鷹羽担いだいい男」と謳われることに。そこへはなから贈られた「徒花屋」の看板が掲げられ、ひとりふたりと客が吸い込まれていく。



 この分割は大まかな場面の塊。いわゆる章分けですね。

 冒頭部であれば鷹羽が江戸入りする以前の2場面で一章となり、そこから料亭の炎上という次章へ転じる形となりますね。

 そして前回に引き続き『ストーリー』(ロバート・マッキー/フィルムアート社)の「ストーリー設計」についてを参照すれば、このように説明されています。


〈ストーリーを構成する要素〉

1.「ビート(1シーンを構成する最も小さな要素)」とは、「行動(アクション)/反応(リアクション)」の組み合わせを言う。ビートを重ねるごとに、高位の変化がシーンの転換点を作り上げていく。

2.「シーン」とは、ある程度連続した時間と空間において、定率や葛藤から生じるアクションのことを言い、それによって、登場人物の人生でなんらかの価値を持つものが、少なくともひとつは変化する。理想としては、すべてのシーンが「ストーリーを左右する出来事」であるべき。

3.「シークエンス」とはシーンの連なり(たいがい2~5つのシーン)のことで、前のシーンよりも大きな効果を引き起こしながら頂点に達する。

4.「幕」とはシークエンスの集まりであり、クライマックスのシーンで最高潮に達する。そこでは価値の大きな逆転が起こり、先行するどのシークエンスやシーンよりも強い影響を及ぼす。


 私が言っていた場面とはすなわちシークエンスであり、そこにはビートを組み合わせたシーンが挿入されていかなければなりません。



 さらに『アウトラインから書く小説再入門』には、このような章分けについての指南があったりします。


〈読者に続きを知りたいと思わせる章の区切り方〉

1.人物の対立を予見させる2.秘密を明かさず隠す(重要な手紙を読ませず

隠す等)

3.大きな決断あるいは誓い

4.ショッキングな出来事の報せ(主人公の父の死等)

5.感情が高まる瞬間(無能な同僚が昇進し、主人公が激怒する等)

6.ストーリーを逆転させる事実の発覚やサプライズ(死んだはずの誰かが生きていた等)

7.新しいアイデア(起死回生の作戦を思いつく等)

8.答えが提示されない疑問(嘘をついていたことを問う等)

9.謎めいたセリフ

10.なにかの前兆のメタファー(戦場を覆う暗雲等)

11.ターニングポイント(主人公がまったく別の場所へ送られる等)


 両者を念頭に置きつつ、次回から編集の岡田くんと一緒に、実際にプロットを詰める作業へと入っていきます。


〈毎週水曜日更新予定〉

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