第6話 初手のプロット〈プロットづくり①〉

 みなさま進捗どうですか?

 私は芳しくありません。


 というわけでお疲れ様です。10月8日生まれの電気石八生(でんきいし はちお)と申します。

 キャラクターもなんとか定まりましたということで、今回からは岡田版創作術区分の4、『プロット作り、シナリオ構成』にかかっていきたく思います。


 とはいえいきなり「プロットぉ!」と意気込むのは難しいですよね。

 小説におけるプロットは、作品の最初から最後までを世界観込み込みで書き通す設計図。そんなものがいきなり作れたら世話ねぇやって思うじゃないですか!

 なので、ここではまず、こちらの連載と共に進行しておりますYouTube企画『すごい創作術ラジオ』でも話題に出ましたログラインを書いてみましょう。

 なお動画はこちら→https://youtu.be/RARXVM2tC38

《!https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/k/kakuyomu_contents/20220907/20220907213154.jpg?changed=1662553917》


★元力士が江戸でホストクラブを営む話


 まあ、確かにそうなのですが、これではまるで魅力を感じられませんねぇ。

 そも、ログラインとは「誰がなにをするどんなお話なのか?」を三行程度の短文で書き表すものであり、言うなればお話の魅力を限りなく端的に表現するものとのことですので……


★唯一無二の存在を喪い、なにも持たない抜け殻となった元力士。彼は江戸で、ただひとつ自分に残された“男ぶり”をタネにホスト商売を営み、同じ抜け殻の男たちと共に満たされた生きる意味を見出していく。


 最初めのものよりは「なんでそれでホストになるのか?」という部分に見所が出せたように思いますが、岡田くんの意見をもらった上でブラッシュアップさせていただくことといたしまして、とりあえずこれを軸にプロットを作りましょう。

 私の場合、常はかなり細かく書き込んでいき、それこそ枝葉を書き足すだけでいいようにするのですが、せっかくですので諸先輩の創作術を参照しまして――


【プロットの作り方】

・400~800字で物語の最初から最後までを書く。

・一行を40字以内、すべて5W1H(『すごい創作術ラジオ』で出た話に従い、できる限り6W1H)で書く。

・軸になる3行をまず置き、三幕構成を作る。一幕めは全体の25パーセント(10行)、二幕めは50パーセント(20行)、三幕めは25パーセント(10行)にする。

・プロットでは物語テーマに大きく関わる、優先度の高いエピソードを絞り込んで記す。

(参考文献:『キャラクター小説の作り方』(大塚英志/KADOKAWA)『小説家になって億を稼ごう』(松岡圭祐/新潮社)『ライトノベルを書こう!』(榎本秋/宝島社))


――という感じで、まずは見所やら仕掛けやらは考えずに必要な流れだけを追って、王道の三幕構成を構成していきましょう。

 で、最初は軸の三行ですね。


一幕=江戸ホストクラブ、『徒花屋』が本格始動。手探りながら確かな一歩を踏み出す。

二幕=吉原での学びから着想し、店で「祭り」をすることに。

三幕=店賃支払日、鷹羽は最高の男ぶりを披露し、江戸に男花を咲き誇らせる。


 どれも幕の最後に来るエピソードです。「ここへ至るにはなにを置けばいいか」を逆算するための種ですね。


 一幕と三幕はともかく二幕の一行はわけがわからないかと思いますが、「ホストクラブは祭りだ」という人もいるように、実際のシャンパンコールにも要素が盛り込まれていたりするのですよ。なのでそれを江戸ホストでも表現したくて決めました。吉原が絡むのは単純に、見せ場として使えそうだったからです。

 ちなみにこの時点では、三幕ともその前に置くエピソードのことは全く考えていません。辻褄を合わせるのはここからなのです!


【編集者岡田の一言メモ】

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ここで公開するのは、編集者の手の入っていない最初のプロットです。この素のままのプロットに指摘をいれていき、創作術と編集者的視点を交えて、作品作りをしていきます。まずはこのプロットの時点で、構成がどのようになっているのか、見ていきましょう。

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 というわけで、プロットのほう行ってみましょう!


【江戸ホスト・プロット】

※キャラクターの名前につきましては前回の記事をご参照ください。

「三幕構成」+「ブレイク・スナイダー・ビート・シート」に当てはめていきます。

https://kakuyomu.jp/my/works/16817139557316838749/episodes/16817139558492282485


〈一幕:江戸ホストの設定紹介とそれを始めた当初のドラマ〉


【オープニング・イメージ】

●藩お抱え力士の鷹羽は大切な若君を失い、藩の屋敷の庭で後追い自殺を企てる。


【テーマの提示】

●それを藩主に止められたあげく士分剥奪され、すべてを失った状態で江戸へ流れつく。


【セットアップ】

●思いがけず命を救った女(はな)に促され、ただひとつ残された男ぶりを売ることに。


【きっかけ】

●はなに高額で店を借しつけられ、茶や酒を売るが、高額で客がつかずに困る。


【悩みのとき】

●若君と出会う前の自分を思い出させる御郎と出遭い、仲間とすることでやる気を出す。

●様々な宣伝を試みる中、路頭に迷った男っぽさとは真逆な元女形(菖蒲)が仲間に。

●でも店は流行らず、鷹羽は鼠窮の提案で土俵入りを演じ、微妙な起死回生を果たす。

●店は小金を得るが、はなの指定した店賃にはまるで届かない。三人は焦る。


【第一ターニング・ポイント】

●きぬの提案で三人はパフォーマンスを演じ、それが話題となって他のふたりにも客がつく。

●江戸ホストクラブ、『徒花屋』が本格始動。手探りながら確かな一歩を踏み出す。


〈二幕:江戸ホストが女性たちと演じる諸々のドラマ〉


【サブプロット】

●始動した店はいくらかの安定した売り上げを上げるが、早速客数が減り始める。

●客の減った原因が店の魅力不足にあると分かる(高額なのにサービスは居酒屋レベル)。

●三人が悩む中、臨時で手伝いに入ったちよが女子向けフードメニューを考案し、当てる。

●三人は自分にできるサービスでなく、自分にしかできないサービスを目ざすことに。

●菖蒲は花魁調の接客で客を“姫(店での客の呼び名となる)”として扱うことに開眼。

●鷹羽は店の様子を見に来るというはなを迎えに行き、同伴出勤を開発する。


【お楽しみ】

●ひとり結果を出せず焦る御郎は空回り、客をあきれさせて失う。

●鷹羽や菖蒲のフォローが申し訳なく、悩む御郎。客の女髪結いから尻を叩かれ、奮起。

●御郎は客のキャッチに向かい、火消し連中とトラブルを起こすことに。

●トラブルを男気ひとつで抜けたことで、火消し界隈に認められる御郎。店を盛り上げる。

●客は増えるが、伸びは低い。はなは店の造りが取る金に見合わないことを指摘する。

●身銭を切って身なりを整え、魅力を上げようと奮闘する五郎と菖蒲(ふたりの活躍)。


【ミッドポイント】

●鷹羽は貯めた金を彼らに与えると同時に、御郎が揉めた連中の助けで店を大改装する。


【迫り来る悪い奴ら】

●さらに商家を揉めて辞めたという番頭を内勤に雇うが、イヤな奴過ぎてトラブル続き。

●反発する御郎と菖蒲だが、仕事で番頭が見せる誠心誠意を信じ、帳簿を預ける。

●番頭の付け回しと心配りで元からの問題だった人員不足は緩和。店の結束は固まる。


【サブプロット】

●鷹羽とはなの仲が深まり、ちよの心は揺れる。気づいた菖蒲が彼女をけしかけることに。

●店を盛り上げるもう一手が見えない中、番頭知り合いの商人からもてなし指南の話が。


【第二ターニングポイント】

●指南実践日、ホスト三人は吉原へ。鷹羽はホストしての在るべき姿を見定める。

●吉原での学びから着想し、店で「祭り」をすることに。


〈三幕:江戸ホストが花開くドラマ〉


【悩みのとき】

●祭り効果で客は増える。鼠窮の発案でその日ごとの「売り上げ番付」が作られることに。

●鷹羽が圧倒的勝利を重ねる中、菖蒲はきぬと鼠窮の助けで草双紙を売り上げ、人気に。

●御郎は鷹羽や菖蒲を讃えたが、馴染み客にそれでいいのか問われ、悩む。


【すべてを失って】

●もらい火で店が焼ける。火消しの尽力により半壊で済むが、またも金は失われる。


【心の暗闇】

●はなやちよの助言もあり、それを今だけ楽しめる粋だと鷹羽は言い、客を呼ぶ。


【第二ターニング・ポイント】

●自分も続けと馴染み客を呼びに走る御郎。その中で鷹羽との売り上げ勝負を思いつく。


【フィナーレ】

●女たちに支えられ、勝負に勝つ御郎。その金の一部で最高の装いをして女たちに見せる。

●鷹羽と御郎の交流。なにもかも失くしたはずの自分たちがそうではなかったことを実感。

●三日で残りの店賃を作るため、菖蒲の花魁道中から始まる祭り三日間を開催。


【ファイナル・イメージ】

●店賃支払日、鷹羽は最高の男ぶりを披露し、江戸に男花を咲き誇らせる。



 プロットは基本的に書き手本人だけがわかっていればよいとの教えはありますが、一応はわかる程度に整えて、さらに1行40文字以内の掟を守って絞ってみました。

 とはいえ、書き切れないことが多々ありますね。たとえばおはなさんに支払わないといけない店を借りたお金(店賃)がいくらなのかとか、パフォーマンスってなに? 男ぶりって? とか。


 とりあえず店賃のお話なのですが、前提として江戸時代には金、銀、銭(文)の貨幣が流通しており、それぞれ別々の相場が存在しました。なので現代の円に換算するのは相当難しい。なのでここでは、価値感覚の基準オブ基準である「かけそば」換算をします。一杯16文で、350円くらいの感覚だったようです。

 設定上の文化文政末期では、一般的な長屋の一室の借り賃がひと月800~1000文(かけそば50~62.5杯分)だったそうですが、おはなさんが指定した店賃は三月で100両……設定した時代の貨幣価値に照らし合わせれば、実に660000文(かけそば41250杯分!)、ひと月あたりでもかけそば13750杯分になります。無理矢理現代のお金に換算すれば、三ヶ月の店賃がおよそ1440万円となりますね。ひと月でも480万円を払わないといけない、と考えると相当な額です。

 だからこそ、お店で出す茶は一杯100文。お酒一合(180ミリリットル)や料理ひとつが200文~と、超お高くなります。そこにホストクラブ的な流儀で40パーセント程のサービス料(本編では“心づけ”)と、初回の来店以外は100文からの指名料が入りますので、お茶一杯飲むだけで最低240文が必要になるわけです。また、基本的にテーブルチャージ料は設定していないのですが、個室を使えばVIP席料として300文が別に要る設定です。

 お高い! 実にお高いですよね!

 ただ、それだけ取ってもまるで足りる気のしない金額が100両なのですよ。なにせ稼げる職業の筆頭格、大工さんの日当ですら500文くらいですし。

 時代劇では切り餅(一分銀100枚=25両をまとめて包んだやつ)なんて代物がばんばん登場しますが、あれは本当に超大金なのですよー。


 そんな感じで大枠は決まりましたが、文字数がこれ以上かさんでもよろしくありませんので、続きは次回「詳細アウトライン」関連の記事にて――と思ったのですが。

 岡田くんのツッコミが多々あるかと思います。ですからそちらを踏まえた「KAIZEN」を挟み、詳細アウトラインへ進む準備をしていきましょう。

 よろしくお願いいたしますー。


【編集者岡田の一言メモ】

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さて、このプロットを見てどのように感じたでしょうか。

次回、僕からのツッコミを踏まえつつプロットを改善していきます。このプロットの良いところ、悪いところを考えてみましょう。

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〈毎週水曜日更新予定〉

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