第3話 「主人公はこんなヤツ!」が大事〈キャラクターづくり①〉
みなさま進捗どうですか?
私は芳しくありません。
どうもお疲れ様です。電気石八生と申します。
ちなみに読み方は「でんきいし はちお」です。
今回は物語の発想とテーマに続く、キャラクターづくりについてを考えていきます。
私の場合通常なら、キャラクターは必要性を考慮して置いていくのですが、創作術に当てはめつつ構築してみるとどのようなものが仕上がるでしょう?
物は試しで実行していきましょう!
前提として、「キャラクターの職業」が作品において相当な力を発揮することは、『すごい創作術ラジオ』でも話題に出ていました。
どうぞ第3回『「江戸ホスト」ってアイデアはどうでしょう?』をご覧ください。
https://youtu.be/RBbkP5TIko0
まさに「ホスト」は職業ですから、創作術的にもいい感じです。
安心したところで、ここからが本番。
「江戸ホスト」となれば当然、主人公は男性になりますね。
江戸にはなかったホストクラブを作るに足る器量と、その中心へ据わるに足る魅力を備えた人物となると……
「力士でしょう!」
江戸時代には、粋と
1.与力=配下の同心(刑事的な人たちですが、下級ながら武士なので町人よりずっと偉い)を指揮して江戸の治安を守る役人。粋な装束をまとって優雅に遊ぶ! しかも気取らない町言葉を使っていて武士だ武士だといばらないから好印象!
2.火消し(の頭)=江戸に多かった火災、押し寄せる火から町を守る町人の代表。危険を恐れず火中を駆け抜け、掲げられた
3.力士=人並み外れた巨体と磨き上げた技とをぶつけ合い、凄絶な勝負を演じる男の中の男! 「一年を二十日で暮らすよい男」の川柳は有名ですが、これは俗に云う本場所が当時は春と秋の二場所(各10日)だったことから。でも、お金に不自由することなく豪快に遊び、男気に溢れた彼らはまさに“粋”の代名詞でした。
ぎゅっとまとめるとこんな説明になるのですが、気っ風がよくてケチ臭くなくて、庶民が憧れと親しみを感じられる「いい男」であることは共通していますね。まさに主人公となってもらうには最高の男たちです。
男という概念を売る稼業にはどれもぴったりではあるのですが……まずはお役人である与力は、「自分を売る」設定と相容れないので除外しましょう。
残るは火消しと力士。ただ、火消しはメインメンバーである鳶職のイメージが強いこともありますし、町に根付いた存在でもありますので、新商売向きではないかなと。
そんな理由から、主人公は力士とすることにしたわけです。
で。最初に作った設定はこんな感じ。力士であった彼がなぜ「ホスト」となるのかを考えながら、バックストーリーを想像していきます。
●
・鷹羽の
・身の丈六尺三寸(およそ190センチ)、目尻の切れ上がった“鳳眼”が印象的な偉丈夫。
・現役時代は真っ向勝負の四つ相撲を信条とし、土俵上で両手を大きく拡げた、今で言う不知火型に近い構えを見せる。
・元々は某藩の片隅にある村の農民の五男(名前:捨蔵)。体が大きく乱暴者だったため村中から疎まれ、闇討ちにあって死にかけていたところ、藩主の鷹狩りに付いてきていた幼い若君(体が弱く、少しでも鍛えたい親心による。幼名は鷹丸)に命を救われ、忠誠を誓うことに。
・若君の頼みで城へ連れ帰られた彼は、「なにができるのか」と問われて「腕っ節」と答える。それをきっかけに力士への道を進み、藩のお抱え力士となり、士分となった。
・鷹羽の醜名は、自分の体の弱さを憂う若君を未来へ運ぶ羽になりたいとの思いから。
・藩の看板を背負う力士の立ち合いはある意味で代理戦争。その戦に堂々と勝ち、堂々と負ける男気は藩の評判を高め、人々に愛された。
・若君は10歳になる直前、病で死亡。鷹羽は彼を天へ運ぶべく後を追って切腹しようとするが、大名(御屋形様)と妻(奥方様)、藩の武士たちによって止められる。
・「生きよ」と命じられ、士分剥奪されて江戸へ流れていくこととなる。
お話自体は切腹から始まるので、その他の部分が冒頭で語られることはありません。
ただ、主人公の“過去”は“今現在”の思考や行動を定める軸となり、ここからどう変わっていくものかの“起点”になるものかと思いますので、鷹羽という男が後でブレないよう、しっかり決めておきたかったのでした。
とはいえ、この後で様々な登場人物との出会いや対話エピソードで使っていくことにはなりますので、隠し設定にはならないはず……多分。
ちなみに大名やその正室が、この時代に家臣からどのように呼ばれているかを調べて(括弧)で入れています。
御屋形様は「殿」でもいいのですが、鷹羽にとって「殿」と呼ぶ相手は若君だけ! というエピソードのタネを残したかったのでこのように。
そして「奥方様」は10万石未満の大名の正室に対する呼び名。このあたりもかなり細かく決まっていたりしますので、ご興味持っていただけましたらご検索をば。
ついでに記しておけば、こちらの某藩は4万石くらいの、江戸時代の藩の中では中の下くらいの石高で設定しています。
坂本龍馬さんが奔走していた幕末時代の調査表を見て決めたのですが、現代の都道府県より区切りが細かく、それだけ土地が狭いことから、20万石を越える石高を誇る藩は20ちょっとしかなかったりします。そして第2位の薩摩が73万石弱ですから、ぶっちぎりの1位である加賀の120万石がどれだけ埒外かがわかりますね。前田家やべぇ!
話が逸れましたが、とにかくこの設定はあくまで鷹羽が物語へ足を踏み入れる前提部分であり、性格などは記載されていません。それを決めていかないといけないわけですが……
ここで創作術の各書からキャラクターづくりについてを見てみましょう。
あれこれ見た上で私的にざっくりまとめてみれば、こんな感じとなりましたよ。
1.キャラクターとはパターン(役柄にそぐう外見、性格、しぐさ、小道具(眼鏡や衣装)等=それらしさ)の組み合わせで構築されている。
2.好かれるキャラクターは行動や思考に筋が通っていることで説得力を得、それが読者の共感や興味を得るものとなっている。
3.キャラクターには芯となる性格設定が必要だが、固定してしまってはいけない。そのイメージをぶち壊す「らしくなさ」を盛り込むことで深みが増す。
→ただし奇を衒った個性や独自性を無理矢理盛り込んでも意味はない。
第一印象となる見た目は超重要。その上で性格や行動にブレがなく、一貫性があることも大事。その上で二面性や多面性を発揮して、人間的深みを増す。となりましょうか。
こうと決めた姿勢を崩さない人は一目置かれる。
対する人や物によって態度が変わることも当たり前。
意外な一面というものはギャップ萌えを醸し出しますが、奇を衒うとキャラクターがただのおかしな人になる危険性が高いので避ける。
★参考資料
『キャラクター小説の作り方(大塚英志/KADOKAWA)』
『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトの考え方(榎本秋・榎本海月・榎本事務所/秀和システム)』
『荒木飛呂彦の漫画術(荒木飛呂彦/集英社)』
『料理を作るように小説を書こう(山本弘/東京創元社)』
――なるほどですね。
なので、鷹羽の性格設定として以下を加えます。
多面性を意識しつつ奇を衒わないことを考えて、長所と短所が状況によって転じられる表裏一体型の性格を考えてみました。
●偉丈夫の名に恥じぬ男気!
〈良い点〉
・浮ついておらず、所作も心もどっしり据わったいい男。
・正義や筋を貫くために命を尽くせる。情に厚く、弱き者や一度向き合った人には損得抜きで力を貸す。
・惚れた相手にとことん一途。
〈悪い点〉
・他人の厄介ごとを背負い込みがちだが、それが心から望んで背負い込んだわけでないことを自覚している(若君への誓いに縛られている)ため、男気と反した弱々しい迷いを抱え込むことも多い。
・真っ向勝負を挑む質と言いつつ、生きることにどこか前向きとなりきれておらず、捨て鉢さが見えることも。
・自分の信じる義を絶対と思い込みがちで、頑な。人に頼ることができず、ひとりで抱え込んでしまう。
創作術の各書を参照しますと、キャラの個性が物語から浮いてしまうとダメ、という項目があります。
それを踏まえ、力士であり、守るべき主君を喪った忠臣という過去がホストという今に生かされる……あるいは障るようにとの意図を含めています。
その上で、「強さの端に垣間見える弱さ」を演じてもらうことで「弱さを踏み越えた先の強さ」を見出してもらおうという、ドラマ的な仕掛けができればなと。
さらに決め台詞として、
「それじゃあ俺が通らねぇ」
を設定しました。
男としてすべてを背負う覚悟を表しますが、同時に男でありたい余り、厄介ごとも抱え込んでしまう彼の気質を示しもするということで。
お話が進み、彼という男が完成されていくことで、この台詞もまたプラス方向へ意味合いを変えていきます。
これで鷹羽という男は、私という書き手的にはひとまず形になりました。
ただ、方向性もキャラとしての格も違いますがシャーロック・ホームズ的な超然タイプで、共感を呼べる主人公ではありません。
ですのでもうひとり、ワトソン的な“もうひとりの主人公”を設定したく思うのです。
それにつきましては次回、最重要キャラのひとりであるヒロイン共々置いていきますー。
【編集者岡田の一言メモ】
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電気石さんの「ホストに詳しい」と「時代ものが書きたい」という気持ちが合わさり、「江戸ホスト」の主人公が形作られていきました。
さすがTRPGとも親和性の高いPBWに関わっているだけあって、キャラクターメイクのビジュアルイメージやバックグラウンドがしっかりつくられています。TRPGではプレイヤーの分身となるキャラをつくっていく必要があるので、キャラクター作成の訓練には役立ちます。
僕としては、お話のコンセプトと主人公キャラを見るに、男性向け時代小説の枠組みに入るのかな、と想像していました。主人公の境遇は極道ものっぽいので、裏社会を描くものを想像していたのです。作品のコンセプトを探っていくとき、読者ターゲットもセットで考える必要があります。編集者としては「この作品を誰に届けるのか」は大事な指標です。
なので「時代小説」の土俵で戦うためには、「ホスト」がなかなか受け入れられないのでは、と考えていました。
けれど、ここで“もう一人の主人公”の存在が示唆されます。そうすると男二人のバディ要素が加わり、様相が変わってきます。時代小説の枠に収まらない、もっと広い層へリーチできる可能性を感じました。このように、キャラクターをどのように組み込むかで、物語を変容させていくことができます。キャラクターたちがそれぞれ「願い」を持ち、「行動」を起こしていく。その積み重ねがストーリーになっていきます。
主人公のキャラクター設定ができあがってくると、彼の物語が想像しやすくなりますね。
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